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寒い教室に教師の声が響く。きちんと聞いている者はきっと少ない。
一番前の真ん中に座っているナルトは今机に突っ伏した。教師はちらりとそれに目線をやっただけで何も言わずに教科書の音読を進めた。
前列から三番目に座るサクラは真面目にノートを取り、たまに落ちてくる眼鏡のブリッジを押し上げている。
隣の列の男子はそれを真似するかのようにうろうろとノートを取り、時折左隣のサクラを見る。あの男子はサクラのことが好きなのだ。これは私と奈良しか知らない。そう言えばサクラは一つ上の先輩からも好意を寄せられていた。あと、突っ伏したナルトからも。おお、ピンクの才女はモテモテだ。
しかし悲しいかな、その才女は窓際真ん中に座るうちはが好きらしいけれど。
私はうちはが苦手だ。ああいうツンとして、フンッと人を鼻で笑い、自分の顔レベルを認識している奴が腹立たしいだけなんだけど。
でもうちはの兄と、何故かナルトと居る時は優しいというか、年相応の表情をしているのも知っているため、うちはの事は嫌いにはなれない。
因みにナルトはうちはの事も好きらしい。そう言えばナルトはヒナタから好かれていた。後輩からも隣のクラスの少し無愛想で無表情な男の子もナルトには普通に話しているらしい。ナルトはとんでも無い人誑しだ。天性の才能だろう、羨ましい。
うちはの事を好きな奴は他にももっと沢山居る。
顔レベルがいいからか、女子の約半数ちょっとはうちはを一度は好きになっているんじゃないだろうか。中には憧れもあるだろうけれど。
そしてそこにいのも入る。いのの場合はただの目の保養兼憧憬らしいけど。しかしいのは面食いだ。幼なじみで親同士も自分達も仲の良い奈良やアッキーじゃなくてスカしたうちはがいいだなんて。まあ奈良にもアッキーにもうちはにも、いのは渡さないけどね。
その奈良は私の左隣、窓際の一番後ろの席だ。基本生体は睡眠で構成されている。
そのくせ頭はいい。テストは悪い。
曰く、「シャーペン持つの面倒、書くの面倒」らしい。大事なテストはちゃんとやっているみたいだし、普段のテストも平均キープだから進級は出来たらしい。奈良の頭が良いことは、古典の猿飛先生が教えてくれた。
猿飛先生は生物の美人教師紅先生の旦那だ。うらやまけしからん。
ちろり、と目線を無感動に見ていた黒板から、廊下側の列に移した。
前から四番目の席に座るアッキーはずっと口がもぐもぐ動いている。今日はチョコパイらしい。後で一つ貰えたら貰おう。
その後ろにいるのはいのだ。頬杖をついてアッキーの後頭部をずっと見続けて、口は小さく半開き。左耳にはこないだ一緒に買いに行った新しい赤いピアスが光っている。
右耳にはイヤホンのコードが垂れ下がっているため、片耳だけにいのが好きな音楽が流れているのだろう。左手はシャーペンをくるりくるりと無意味に回している。その内手が滑ってぶっ飛んでいってしまうんじゃないのだろうか。無駄にドキドキしてきた。
片足を組み直したら膝がガタリと机の腹に当たった。思わぬ音に驚いて視線をいのから右隣と左隣へきょろりと動かした。
右隣の金髪の女の子はイヤホンをして携帯を触っていた。左隣の奈良は寝ていた体勢から動いて、顔だけをこちらへ向けて私を見た。
視線は眠気眼だ。へらり、と笑ってみた。
「おまえ、なにしてんの」
「…へへ。さーせん。うるさかった?」
「…別に。ふあー…今どこ。何ページ」
「知らない。聞いてなかったや」
またへへ、と軽く笑うと奈良はため息をついた。自分だって寝ていたくせに人に言えないじゃん、と頬を膨らませてやると、今度は私が軽く笑われてしまった。
一応教師に悪いと思って全て小声で会話をしているが、よくよく考えたらコソコソ声の方が案外耳につくものだった。教師はちらりと私達に視線をやったが、やっぱり何も言わなかった。軽く授業崩壊だ。
奈良はゆっくりと体を起こして、大きな欠伸をしてから私の方へ体を向けて嫌な笑みを浮かべた。
「またいの見てたのか」
「…セクハラ。奈良嫌い」
「お前めんどくせーな」
「知ってた。いのは今日も可愛いし、アッキーは今日もお菓子食べてるよ。因みに一口チョコパイ」
「聞いてねーよ」
また大きな欠伸をして、奈良は私から視線を外して斜め左を見た。そっちはいの達の方向だ。
「何だかんだで奈良もいののこと好きなん?それとも…アッキー?」
「ありえねーし、ましてやチョウジとかもっとねーよ」
「可愛いじゃん」
「ならお前付き合え」
「奈良はアホだね」
いつまでもくだらないことをぼそぼそと話していたら、チャイムが鳴った。
教師はそそくさと荷物を纏めて教室をさっさと後にした。
奈良がぐぐっと伸びをする。それに私が足先で奈良の脛をつつきながら奈良の様子を見ていると、突然背中から重いものが乗っかってきた。
いきなりの出来事に目を白黒させながら、後ろを振り返れば、いのが私の肩へ肘を付いて頬杖をし、ぶすくれている。
「いの、どしたん」
「べっつにー。アンタらうるっさいのよー。私の席まで聞こえてたわ」
手を伸ばして、いのの長い前髪を少しだけ痛くないように引っ張ってみる。かわりに頭を小突かれた。
「へーへーどーもすいません」
「なにそれー!シカマルアンタねーそう言うところ直しなさいっていっつも言ってるでしょー!?」
奈良はさも面倒臭そうに目を細め、片耳に指を突っ込んでぐるりと回している。
「いの、本当に全部聞こえてた?」
私が少しだけ、気になっていたこと。
いつも見ているだなんて知られたら、恥ずかしすぎる。そんでまたいのにからかわれる。
「…ありえねーし、ってシカマルが言った辺りから聞こえたわ」
「おい、いの。お前なんかめんどくせー勘違いしてねーか」
奈良が先程より怖い目つきでいのを見た。
いのは少しだけ私の頭の後ろへ隠れるようにして、何よ、と吐き捨ててから、離れた。私の背中へちょっと痛い平手をかまして。
慌てて後ろへ振り向けば、もういのの姿は遠くて、廊下へ続く扉の向こうへ長い綺麗な髪先がふわりと消えてしまった。
「綾、さっさといのんとこ行って機嫌取ってこい。めんどくせーけどな」
「んー、なんで機嫌悪くなったのかわからんけど、行ってくる。全部奈良のせいにするね」
なんでだよ!と後ろで怒鳴り声が追いかけてきたけれど、私はそれを無視をして、愛しの彼女の元へ走った。
【I run after her who escaped!】
実は奈良君綾のこと好きだったらいいな。
了