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大きな荷物を抱えて自転車に跨がった。サドルは少し低くてハンドルに引っかけたコンビニ袋が時折膝に当たる。右のブレーキを使うとキィキィと耳障りな音がして、思わず顔をしかめた。背中のバックパックが少し重く感じて、やっぱりあれこれ詰め込みすぎたかと思ったけれど、今更引き返すのも面倒だし、あって困る物はない。
兎に角それよりも早く目的地に着かなければと、ペダルを漕いだ。
今日はいのが突然「星が見たいのよね」と言ったお陰で急遽決まった天体観測。
学校から帰ってそれなりの準備をしながら何となく触った携帯で、これまた何となく今日の天体を調べてみたら、なんと今日の深夜には流星群が見られるとか。いのがこれを知っていたかどうかは知らないが、何ともまあ天体観測にはお誂え向きではないか。それに天の川も観測できて、そこを流星群が流れていくとか。
どこまでもまあロマンチックな夜になることですね、と心の中で皮肉り、鼻で笑った。
女二人で見に行くにはあまりに色気がなさ過ぎるじゃないですか。まあ、それも、普通の女同士ならの話だけれど。
いのは知らないが、私はいののことが好きだから今夜は綺麗な思い出の一つになるだろう。そんなことを考えた自分にも、鼻で笑った。
結局、夜ご飯を食べ終えてぐーたらしていたらいつの間にかに予定の時間だった。
急いで荷物を抱えて家を飛び出した。
「おっそーい!」
待ち合わせ場所にはもういのがいた。
珍しく遅刻しなかったみたいで、足下には少しの荷物が置かれている。私は自転車から降りていのに駆け寄った。
「ごめん、いの」
「深夜に一人で待たせるとかやめてよねー!襲われたらどうすんのよー」
「あー、いのなら大丈夫な気がするよ私」
「なにそれー!!」
深夜だというのにいのは大きな声で喚く。
私はそれを無視してそこに自転車をチェーンで停め、いのの手を引いて川の近くへ進んだ。
冬空の下、私といの以外いない河川敷にレジャーシートを三枚重ねて、その上へタオルケットを引いて座った。バックパックからは大きめの毛布も二枚取りだし、私といので寄り添って二枚を重ねて使う。膝には薄い毛布と各々のストールやマフラーもかけた。
ガサガサとコンビニ袋を漁って、隣で自分の手を擦り合わせて息を吹きかけているいのへ温かいココアをプレゼント。
ぱあ、と顔が綻んだ。
「ありがとう。用意いいわね綾」
「うん。どうせいのは何にも持ってきてないんだろーなって思ってたから」
少し皮肉れば、いのは寒さで赤い顔をムッとさせた。そして自分の荷物を漁り、私の膝の上へ何かをぽいっと落とした。
「…あんまんだ」
「私だって一応買ってきてたわよー…あんたがちゃっちゃか出すからタイミングわかんなかったの」
「ひひ、あんがといのちゃん」
「ちゃんとかやめてよ気持ち悪ーい」
酷い、と文句を言いながら笑い、貰ったあんまんに口を付けた。いのはココアを飲んでいる。
目線は空へ向けてみると、ああこりゃ凄いわ。満天の星空に浮かぶ白く大きな天の川。
「いの、空凄い」
「…ほんとー…あれ、天の川?」
「らしーね。冬のがよっぽど綺麗に見えるね」
「七夕ばかりに拘りすぎなのよー人間は」
「天の川はいつだってそこにあんのにね」
イベントごとの時だけ思い出したように名前を呼ばれるその川は、いつだって空の上にあるのに、誰もその日以外気にも止めない。中には天の川は七夕限定の星空だと思っている人もいるかもしれない。
普段は忘れられていて都合のいいときだけ思い出されて呼ばれるだなんて、可哀想な川だ。私は少し首裏が寒くなった。
「あ」
いのが呟いた。
視線の先の天の川を、横切るようにして光の筋が消えた。
「流れ星だ」
「じゃあそろそろねー?」
そう言っている間に、もう何筋か消えていった。堰を切ったかのように光の筋が流れていく。
流星群が始まった。
思わず無言で空を見上げ、口は開きっぱなしになる。ふと横を見ると、いのも同じような感じで空を食い入るようにして見ていた。
星に照らされるいのの顔は綺麗だ。大きなその目に、星の光が反射して、いのの目の中で流れ星が消えていった。
「…ちょっと、私見ててもつまんないでしょー?」
「えー、いの綺麗だったもん」
「あー、そういうの、サスケ君に言われたーい!」
「うちは君は鼻につくので私は嫌いでーす」
「なんですってー?!」
怒ったいのは、毛布の中で私の腕に手を回して抓った。整えてある爪が突き刺さり、予想外に痛い。痛いごめんなさい、と声を震わせてみればぱっと離されて、いのはココアを口にした。
毛布の中にある腕を外に出して袖をめくれば色は解らないながらも撫でればぼこりとした痕が残っていた。
「星空綺麗ね」
「そだね」
「…あんたと来れて良かったわ」
いのは小さく笑って、立て膝をし、毛布を更にぎゅっと巻き付けてから私の肩へ頭を預けた。
痕に触れていた私の指が止まる。
そろりと腕を伸ばして、いのの金の頭を触ってみた。ひんやりとした髪の感覚に思わず声を出しそうになるが、何とか飲み込みそのまま指先で頭を数回撫でて、また毛布の中へ腕を引っ込ませた。
自分が見たいと言ったくせに、いのは目を閉じたまま私の肩へ凭れている。
最初に乗り気じゃなかったはずの私だけが、その馬鹿みたいにキラキラする星空を眺め続けていた。
【距離感】
了