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髪を纏め上げて、ワインレッドのタイトドレスを着た。カラーが辛めだから、ショールはアイボリーレッドのシフォンで少し甘辛にして、それに合わせてピンヒールじゃなくてインソールタイプのトゥーオープンのパンプスは黒だ。
腰にはメリハリのためにゴールドのビッグベルト。中は見えてもいいように、勿論黒のショーパンを履いている。ターンでもすれば見えるだろう。
足首から脹ら脛にかけては、先週新しく入れたタトゥーが絡みついている。Fから始まる、世の中なんてクソ食らえ、なんて書かれた文字の横には小さな髑髏のマークとピストル。可愛らしさなんて欠片もない、大凡女の子のタトゥーとは言えないようなそれは、面倒な男共を蹴散らすのにいい役目を果たしている。
整えたピンクとレッドのフレンチネイルは少し割れてしまった。人差し指の爪のストーンは既に剥げてどこかへ飛んでいった。
纏めてアップしてあった髪だって、今はもうよれよれで、項辺りにだらりと何筋か茶色の筋を見せているだろう。
つけまつげは辛うじて付いている。アイラインは滲まない落ちないを売り文句にしたリキッドの新商品だからか、きりりと引いたときのままだ。アイメイクだけはしっかりしている。リップなんて最初の一気飲みで剥がれ落ちてから塗り直してない。
眉間のしわは未だ深く刻まれたままだ。
不機嫌を表すように組まれた腕の右肩から肘にかけて、昔ワの国で見た桜とか言う花と、蜥蜴が二匹、それからトライバルが巻き付いて流れている。右腕のこの厳つめのタトゥーも他を近寄らせない一つになっているんだろう。
先程から私の周りは少し空間があいている。カウンターの前なのに。
背後のカウンターに背中を預けて、視線の先の女を睨みながら、置いてあったグラスを取った。汗をかきまくったその表面は少し滑る。もう残りも少ないその淡いブルーのアルコールの名前は忘れた。
当たり前だ、私はアルコールの名前を覚えにダンスバーに来たんじゃない。
そもそも踊るつもりだってなかった。好きな曲が流れて、待ち人は来ないしで、ああもう突っ立てんのも怠いってことで中央のサークルへ突っ込んで好きなだけ体を揺らした。
一曲終われば抜け出して、カウンターへアルコールをもらって、もう来てんじゃないの、とぐるりとブラックライトやサイリウムの溢れる店内を見渡せば、いたのだ。
あのバカ女は。
のうのうとピザ片手に隣に誰か知らない男を置いてバカみたいに大笑いしていた。
あのクソ女、ふざけんなよ。
そうやって睨みつけていたのがついさっき。
いい加減ぶちりと何かが切れて、つかつかと目の前へ歩いていき、その丸い小さなテーブルにガンっと音を鳴らして片足を叩き降ろした。
テーブルの上の二つのグラスが飛び跳ね、一つ、ウイスキーグラスはごろりと転がり落ちた。ガラスの割れる高い音がした。
私の足がいきなりテーブルの上に乗ったことで、その男の目は丸く見開かれ、そろそろと私を見上げてきた。
見てんじゃねぇわよ殺すぞ。
「ふざけないでよ、ボニー」
「はあ?つーか、飯置いてあったろ。足乗せてんじゃねーよ」
この期に及んでまだもちゃもちゃと咀嚼するボニーに、瞼がヒクヒクと痙攣する。
「どんだけ待ったと思ってんの?一時間待って一時間踊ったんだけど。二時間なんだけど。何考えてんの」
やっと、ボニーはゆるりと私を見上げた。その目に私が映されたと言うだけで、少し腹の虫が鎮まった。
私もかなり単純バカだ。
「アタシが来たときは、アンナいなかったじゃんか。だから飯食ってただけだし」
「そりゃ踊ってたもんね。退屈だったから。あんたさ、ボニーさ、中々会えない中でこうやって久々に会う約束してたんだから、ちょっとは時間厳守とか思わないわけ?」
未だに足を乗せたまま話していると、今の今まで忘れていた男が、声を上げた。
「あのさ、きみは?俺、この子と仲良くしよーと思ってたんだけど」
そのバカみたいな発言に、鎮まりかけていた怒りがまたぶり返す。
苛立ちに任せて、乗せたままの右足を横へ凪いだ。タトゥーが彫られた脹ら脛がそのままその男の顔へぶつかった。
男は後ろへ倒れ、テーブルも反動でひっくり返った。
がしゃん、がららららと煩い音がする。
一瞬店内も静まりかえった。ドッドッドッと重低音のリズムだけが流れる。
後ろ手に体を支え、口端に片手を当てて痛がる男の前へ立ち、今度は左足を振り上げる。男の顎を赤い爪先で蹴り上げ、反動で上を向いた顔の鼻っ柱を下ろし立てのインソールパンプスの裏で思いっきり蹴り倒した。
低く汚い呻き声をあげ、パタパタと血が飛ぶ。誰かが叫んだ。
店内は騒然とし「自警団呼べよ、喧嘩だ!」と男の声が遠くでした。
痛みに呻き転がる男の体を跨がって立ち、見下ろす。
「アンタ、誰に手出してんの?何が仲良く?名前すら聞き出せてねーじゃん。ふざけんなよ。あのピンク髪、あれ、私の。勝手に手出してんじゃないわよ。ちんこ引きちぎるぞ」
そう言って、私を見上げてくる血塗れの顔の男に、もう一度足の裏を降ろそうとしたとき、後ろから手を引かれた。
少し荒れた手は私の左手首を掴み、そのまま後ろへ引きずり、何も言わずに店内を駆け抜けて外へ飛び出した。
ネオンの光る看板から無言で歩き、星空が綺麗に見える暗闇まで辿り着いた時、その手首は離された。
少し寒い空気が肌を抜ける。
「とどめさそうとしたのに、何で邪魔したの」
「やりすぎ。周り見ろよ。自警団どころか島向こうの海軍まで呼ぼうとしてたぞ」
そうなりゃアタシが迷惑だ。とボニーは吐き捨てるように言って、私の首へ両腕を回した。
ほんのりとピザソースの香りと、甘いアルコールの匂いが近くなる。私もボニーの肩へ顔を埋め、腰に手を回した。
「ボニー、逢いたかった」
「うん。アタシも」
「黒髭が能力者狩りしてるって聞いて、ボニーが危険だと思って。ボニー捕まったら、あの黒髭に世界政府へ連れてかれると思って、私」
怖かった。
この腕の中にいる柔らかいボニーが、私のボニーが、いとも簡単にぐしゃりと叩き潰されてしまいそうで。私の知らない場所で勝手に殺されてしまいそうで、世界政府に捕まったボニーなんて、とても簡単に想像ができてしまって、目の前が真っ暗になった。
だから慌てて電伝虫で連絡を取り、半分無理矢理ボニーとこの島で落ち合った。
お互い海賊で船長だ。船が自由に動かせるのは、好都合だった。
それなのに、折角あったボニーは誰か知らない男と笑ってるし。
「人が心配してんのに、何でナンパされてんだっつーの」
「ばっかおまえ、あれは向こうが勝手に来たんだって。アタシの飯代奢るとか言ったから奢らせてたんだ」
ああ、そりゃご愁傷様ってやつだ。
大食らいのこの子の飯代なんて国が傾くね。いいすぎか。
「つーか、…っくく、ぷっ、あっははははは!傑作!ちんこ引きちぎるって!アンナ最高だ!」
「うるさい笑うな。本気でもぎ取るつもりだったのに」
腰に回していた手をそのままするすると下げて、ボニーのお尻をぐいっと鷲掴む。
びくりと体が少し固くなり、笑いは止んだ。
そのままネイルが食い込むのも無視してぐにぐにと気持ちのいい尻肉を揉みしだいていると、私のドレスから剥き出しの肩へがぶり、と噛みついてきた。
ひ、と喉の奥が鳴る。
「か、むな」
「じゃ、揉むな。盛っても良いけどここ外だし、アンナ嫌だろ?」
アタシは平気だけど、と笑ったボニー。
私もボニーの肩から首筋へ顔を移動させて、かぷり、と噛みつき吸い上げた。
ちゅぅ、と小さい音が鳴り、口を離せば赤黒く色付いたマーク。そこで満足し、ボニーの体を引き離す。
何だかにまにまとやらしい笑みを浮かべるボニーに、何故か安堵の息が漏れる。
「ほんと、お願いだから、勝手に死なないでよ」
「当たり前。アンナもな」
「…私は能力者じゃないからまだ安全圏よ。ボニーは狙われやすいから、億越えルーキーなんて言われてるし、本当に」
言葉の続きは、ボニーの口の中へ消えた。
ぺろり、と離れていく際に唇を舐められ、少し背がぞわりとする。
ボニーは再び私の手首を掴む。
「いい。わかってる。だから、早く宿行くぞ」
「…ボニーちゃんったら発情期ですか」
「あっははは!かもなー!」
バカみたいな明るい笑い声を星空の下響かせて、ボニーはまた私を引きずるようにして歩き出した。
【死んだら殺すから覚悟しときなよね】
了