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肌が真っ白で、黒くて長い髪の比較的大柄な部類に入る男性が私の部屋のど真ん中に落ちてきたのはもう三ヶ月前。
最初は怖いしなんか雰囲気がぬめっとしてるしカマ口調だしまじなんなのこの人お巡りさん!もしくはすぐに呼びましょ陰陽師!!って感じだったが、外へ押し出して数時間後にまた私の家へ戻って来たときには少しだけ憔悴していたその人にちょっと同情を覚えてしまって、何だかんだで同居という形になった。
だってあんな大柄の成人男性(?)に、物凄く悄気て行く宛てないとか、ここ私の知っている世界じゃないとか言われたら、なんともまあ、ねぇ。
私の部屋のど真ん中に現れたという事は、帰るのもきっとここだろうし、なんかそういう道が出来ているのかもしれないから、と色々と理由付けをして無理矢理自分を納得させた。
その人は大蛇丸と名乗った。
昔の御伽噺にそんな名前の蛇使いがでてくる話があったとおもう。何で見たんだっけなぁ。
1ヶ月もたつと、一緒に住む違和感はなくなって、二ヶ月目には元々ずっと一緒に住んでいたのかと思うほど日常化してしまった。
大蛇丸さんが私のお気に入りのアイボリーのソファを陣取るのも、何時の間にかに日本酒が消えてしまっているのも、少し熱めのお湯が張られていることも、狭いとか文句言いつつもベッドで一緒に寝ることも、お互いの誕生日に少しだけ豪華な食事をすることも、私が仕事終わりまっすぐ帰宅するようになったのも。
全ていつも通りになってしまった。
そんな三ヶ月目の冬、私は風邪を引いて寝込んでしまった。
今まで一緒にいて一度も病気をしなかったからか、少しだけ大蛇丸さんは落ち着きない感じだった。
薬を飲んで、ベッドへ沈んだ私の目はすぐに閉じ、深い眠りへ落ちた。
次に私が背中の不快感に目を覚まして、熱い息を吐き出し、ぼやけた視界で見えたのは、真っ白で体温がいつも冷たいそのすらりとした節榑立った片手を私の額へ乗せて顔を覗き込む大蛇丸さんだった。
へにゃ、と顔が緩む。
熱が籠もる布団の中から右手をそろりと出して、ベッドの上へ乗せていた左手を握る。
「…寝てなさい」
「いっぱい、寝たから。それより、手、ありがとう」
伝えると、すぐにその手はどかされてしまった。かわりに、冷たいシートがペタリと貼られてすぐに額がひんやりとする。
まだふわふわとする思考が、大蛇丸さんを二重に見せるほどだ。
「大蛇丸さん、ご飯、たべた?」
「ええ。綾が寝ている間に。それより、熱計りなさい」
「ん」
するりと渡された細い体温計。
ごそごそと腋に挟んで暫く待つと、ぴぴっと高い音が鳴った。私が見る間もなく、それは白い手に抜き取られてしまった。
「まだ高いわね…厄介な風邪拾ってきたわねぇ…」
「んー…ごめん」
「謝ることないわ。私に移さなければね」
大蛇丸さんなら風邪菌が逃げそう、と思う。
言えないから、ごそりと布団を口元まで引き上げて、潜り込む。
ああ、そう言えば、今日は出掛けるんだった。大蛇丸さんの帰る糸口を見つけるために。
異世界とか神隠しとか、そういった噂や都市伝説がある場所や蔵書がある所へ行く約束があったのに。
また、小さく謝る。聞こえていないかもしれないと思うほど、ちいさく呟くように。
「…薬持ってくるわ」
「ん」
大蛇丸さんは、立ち上がるのと同時に私の顎の下を撫でた。
その指先は冷たくて優しくて、私の背をぞわりと粟立たせる。
扉の向こうに消えた大蛇丸さんの背中を瞼の裏に思い浮かべる。
ああ、だめだ。くそ、風邪め。
薬を待たなければいけないのに、なんだかまた眠くなってきた。
あ、そうだ、浮世絵だ。妖怪絵だけを集めた浮世絵の図録でいたんだ。大蛇丸。そしてたしか、その左下には児雷也の名前。自来也だったかもしれない。もう、わからない。
***
うっすらと、暗い中見えたのは少し眉を寄せた大蛇丸さん。
でも、輪郭がぼやけている。夢か、現実か解らない。
ふわふわと体も気持ちいいし、何だか左手もほんのり冷たい。
きっと夢だなぁ。ふにゃり、と微笑んでみる。
額に張り付いた髪を、大蛇丸さんの指先がすいっとどかした。
「…おろ、ちまるさん」
「なに」
「わ、たしねぇ…大蛇丸さん、好きだよ」
「そう」
夢だ。
だって、大蛇丸さんが「馬鹿なこと言わないでちょうだい」って言わない。
いい夢だ。私の夢の中の大蛇丸さんは、普段より優しい。
夢でなら、言えるのかなぁ。
自分の息が熱い。
「あの、ね、私、私ね、…ほんとは」
「…綾」
遮るように、大蛇丸さんの指が私の唇を押さえた。
しーっというジェスチャーをするように、私の唇へ人差し指を押しつけた大蛇丸さんは、小さく口を動かした。
それが何を言ったのかは、私には解らなかったけれど。
【The slip of the tongue of the catching a cold girl.】
お題雲の空耳と独り言+α
了