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どんどんどん。
腹に響く太鼓の音が里の中心部で広がる。
頭上には満天の星空と、高く高く突き上がる竹笹。それには色とりどりの飾りがゆらゆらしている。
屋台からは焼きそばやたこ焼きのいい匂い。
ちらりと横を見れば、嬉しそうにイカ焼きを噛むキバ。その頭には暗部の戌モチーフのお面が横向きにくっついている。
今日は珍しく赤丸はいない。黒丸さん達とお犬サマ達だけの七夕祭りを満喫しているのだそう。本当は赤丸も一緒に御祝いしたかったが、仕方がない。
犬には犬の事情があるのだ。
「かー!やっぱ祭りは屋台飯だよなー!」
「えー、お祭りはドンチャン騒ぎの雰囲気を楽しむんだよー」
「はぁ?おまえ、わかってねーな!」
黙れ食欲の塊。と言いたいがお口を噤んだ。
今日は誕生日だから、少しくらいキバを主人公にしてあげたい。
朝からツメさん達に「おめでとう」と揉みくちゃにされたらしく、祭りに呼びに行けば顔をほんのり赤くして少しむすりとしていた。照れ隠しなのは明白だった。
それから、ハナさんに着せられたという男物の浴衣はとっても似合っていて、こっちが赤面してしまった。そしていつもは無頓着なキバがすんなりと私の浴衣を褒めてきたことで余計に顔に熱があがった。
赤い顔のままキバに「誕生日おめでとう」と言い、かごバッグから小さめのプレゼントを渡すとキバは嬉しそうにはにかんだ。その顔だけで私はご飯三杯は食べれそうになる。
その幸せな雰囲気と顔のまま、キバの手を引いて木の葉商店街の七夕祭りへ直行した。
祭りにつけばすでに活気づいていて、どこもかしこも賑やかで晴れやかな笑顔まみれ。
キバの誕生日に、里の皆が笑顔なのはとても嬉しいものだ。誕生日という事実を皆が知らなくてもだ。
祭りの輪から少し離れて、近くの小さな稲荷祠の階段に腰掛ける。
目の前を子供が二人、忍者ごっこをしながら水風船を当てっこして走り去っていった。
「キバ、七夕晴れて良かったねー」
「あー?あー…おう」
「天の川見れるね。織姫と彦星は今年は逢えるんだね」
星空を見上げながら呟けば、イカ焼きの串をぴん、と空に弾いたキバ。
ポイ捨てダメ、と口を開こうとすれば弾かれた串は既にキバの手に戻っていた。
キバはどこか機嫌の悪そうな顔をしている。
誕生日に主役がこんな顔、ダメじゃない!
「どうしたの?」
「あー…お前さ、七夕だから浮かれてんの?」
「は?」
「お前、祭り着いてから、空ばっか見て、口開けば七夕だの祭りだの星だの」
むっすー。
擬音で表せるほど頬を膨らませて、手に持った串をプラプラさせる。
わぁ、これは、私の自惚れじゃなければ。
「…キバさぁ、七夕に嫉妬してますか」
「はあ?!」
「だってそう聞こえた!やだなー、私はキバの誕生日だから浮かれてるのになー」
「……」
空ばかり見てるわけでもないし、例えそうだったら私は浴衣姿のキバを直視できないからで。額当てもしてないキバはとてもかっこよくて。
そんなことを考えながらちらりと横を見れば、鋭いつり目が私を見ていた。
どきりとする。
夜なのに、屋台や提灯の明かりで浮かぶキバの顔はとても綺麗で、その中のキバのつり目は獣のようにギラついている。
何度その眼に捕らわれたか解らない。
「キバ?」
「…あーのさ。お前、本当に俺のこと好き?」
「な、なにいってんのいきなり!」
「いや、照れんな言えよ」
キバの眼は相変わらずぎらぎら。
目線をずらして空を見れば天の川。思わず小さく声を漏らせば、キバが舌打ちをした。
また急いでキバを見る。
「星とか見てんなよ」
「ご、ごめん」
「おれ、今日誕生日なんですけどー」
「知ってるよ?おめでとって言ったしプレゼントだって」
「好きならもうチョット俺にあいじょーくれてもよくね?」
今日だけは俺しか見ないとか。
ニヤニヤしながら宣ったキバに、引いたと思っていた熱が、顔にガンと上がった。
今日のキバは変だ。いつもより甘い!そしてちょっと意地悪だ。
手に持った串を階段の割れ目に無理矢理突き刺し、空いた手で私の手首を握り、自分の方に引いた。バランスを崩してキバの胸下に顔をぶつけ、腕は腰に回してしまう。
「な、な!」
「綾、俺短冊に綾からのちゅーって書いたんだけど」
「はぁぁああ?!ば、ばかじゃないの!」
「俺たんじょーび」
「う、」
それを言われたら何もいえない。
見上げたキバはイヤな笑顔だ。でもやっぱり、やっぱり綺麗だ。
見上げる形になって、キバのバックには星空が浮かび、余計にキバの綺麗さを引き立てている。
くらりとする。
そろりとキバの胸元に、捕まれていない右手を寄せた。察したのか、キバは私の手首を離し、首に手を添えた。
「…好きだよ」
小さく呟き、そっとキバにフレンチキスをする。
唇を離して、キバを見ればなぜか真っ赤になっている。
さっきまでのにやにやはどうした。
「お、まえ。する前にそう言うの、ナシだろ…」
「私の本音じゃないですか。ちゃーんとキバしか見てないから。キバの方こそ、私の気持ちになかなか気付かなかったんだから、これからはちゃんと私といてね」
「当たり前だろ」
「ふふ、素直だ。……おめでとう」
「…おー」
照れたまま私を抱きしめたキバに、もう一つおめでとう、と囁いた。
【一年に一度の逢瀬なんて出来やしない】
(あー!キバったら綾つれてこんなとこでなにしてんのー!)
(ぎゃー!いのてめー!気配消して後ろ立つなよ!)
(俺らもいるぞ)
(キバ誕生日だからな!祝ってやるってばよ!)
(上からだなてめー!)
(あははは!良かったねキバ!)
20130707 Happy Birthday to Kiba!
了