犬の姫御前
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!此処から原作と異なります。数十巻吹っ飛ばします。本来風の傷を受けてからりんちゃんと会いますが、このお話では墓参り直後にりんちゃんと会います。オリジナル展開です。
――・・**
彩登美が目を覚ました時、彩登美の体は地面の上ではなく、赤が付着した白い着物の上だった。
飛び起きた彩登美は頭痛に顔を歪める。
しかし割れそうな頭を必死に動かし、自分の下敷きとなっていた瀕死の殺生丸から降りると、顔にかかる髪や血まみれの袖などを意味もなく綺麗に整えた。
「……せ、しょうまる…くん」
掠れた声で名前を呼んでも、気絶しているのか殺生丸は反応を示さない。
不安を押し殺しながら彩登美が周りをきょろりと見渡す。
どこの森に落ちたのかはわからないが、ここはどうやら現世のようだった。
あの世の境からは無事に帰れたことに息をつき、そうして再び森を見渡す。
怪しい物音も聞こえなければ影もなく、鳥の声が聞こえてサワサワと葉の掠れる音が響くだけだ。
妖怪の姿がないことに落ち着いた彩登美は、もう一度殺生丸の顔を撫でる。
暖かさや顔色から、死んではいないことがわかるが安心はできない。
そっと左の袖を摘まみ上げ、中を覗けば肘から下はなくなっていた。
妖怪特有の再生能力の高さ故か、もうその切断面は癒着していたが、まだ薄い皮膚の下は赤くグズグズしている。
あの時、犬夜叉は殺生丸の左腕を切り落としたのだ。
そうして鉄砕牙の剣圧をそのままに、殺生丸は父の骸の中から落ちていった。彩登美はその後を何の躊躇もなく追い掛け、足を空へ落とした。
どれくらい落ちたかはわからないが、途中で殺生丸にしがみ付くことが出来た彩登美は、そのまま気を失ったのだった。
いつ殺生丸の変化が人に成ったのかはわからない。
「……人に成っているということは、元気になってきているということだよね…」
いつだったか、母やしづおが言っていたことを思い出しつつも彩登美は不安のせいか声が震える。
これから先、左腕が無くても平気なのだろうか。
起きた時にどこまで覚えているのだろうか。
邪見は一体どこにいるのだろうか。看病は。
ぐるぐると頭を駆け巡って動けない。
「一緒に…生きていたのに…私、妹なのに……妖怪の兄の看病の仕方も…なにも解らない…!」
不甲斐なくて仕方がなかったが、泣いていても始まらない。
まずは汗や血がこびり付いた腕を綺麗にし、まだ薄い皮膚の状態の腕を保護しないといけないと思った彩登美は無言で立ち上がると、一先ず迷ってはいけないと目印に何かないかと辺りを探る。
しかし山中のここには何もなく、豊かな草花が生い茂る空間でしかない。
一度組紐帯を解いてみたが、大体自分の左腕から右腕の三往復程、五尺程度しかない。
これではダメだとそのまま袖を託して結い上げるのに使い、腰紐で小袖を止め直して整えた。
どうしようかとウロリと目を彷徨わせたとき、視界の端に殺生丸の刀が映った。
「…そうだ、これで木に傷をつけていけば…ごめんね殺生丸君、ちょっと借りるね」
断ってから、殺生丸の腰に納められている刀の柄に手を伸ばす。
鉄砕牙の事が頭に過り、少しだけ掴むことに躊躇したが、彩登美の手は弾かれることはなかった。
「…お、も…い」
昔に持った時よりも重く感じるのは、この刀が大きいからだろう。
刀身を出したまま歩くのは聊か不安ではあったが、重い刀身に加えて重厚な鞘まで持って歩くことは無理だと考えた彩登美は、ゆっくりと慎重に鞘から刀を抜いた。
キンと綺麗な白い刃は大きく、それでいて反りも曲がりも少ない立派な刀だ。
彩登美には余計にあの鉄砕牙を欲しがった理由が解らなくなる。
とにかく、と刀を持ち直し、地面に注意しながら歩き始めた。
水辺に向かって歩くには、植物に注意をすれば自ずと道が見える。水が好きな植物が群生する場所から遠くないところに川は見えるものなのだ。
フラリと重い刀を引きずる様に歩きながら、木々に横長の印を刻みながら、彩登美は必死に歩いて捜す。
「っあ!」
どれくらいか歩いた先に、白い花がちらりと見えた。
裾を持って走り寄ると、そこには群生の白い玉の花が咲き誇っている。
「水…近いんだわ…」
水辺に生える白玉草が密集している場所から奥、そのまた奥へと走れば、そこには見事に小さな川が流れている。
「あった…良かった」
へなりとして座り込んだ彩登美だったが、殺生丸の事を思い出し、直ぐに立ち上がると近くの桐の木に駆け、その自分の顔の数倍もある大きな葉を数枚拝借した。
そうして数枚を織り込み、重ね合わせ、今度は白玉草を数本拝借して茎を葉の先に通して離れない様に組み合わせると、簡易型の葉の器が出来上がった。
慎重に水に浸して壊れないように並々と掬って一度足元に置く。
今度は腰紐に刀の柄を括りつけ、自分の足を斬れない程度に調節すると、再び器を持ち上げてゆっくりと歩き出した。
川を見つける前と違って足取りは軽く、刀の重さは感じなかった。
自分でつけた横長の印を見付けながら、ゆっくりゆっくり、水を零さない様に歩いてやっとの思いで殺生丸の所へ辿り着く。
浅く息をする殺生丸の横に佇み、慎重に刀に気を付けながら水を置いて、直ぐに刀を結ぶ腰紐を解く。
そうしてゆっくりと鞘に戻せば、やっと大きな息をつくことができた。
「…ただいま、殺生丸君」
自分の持っていた服は邪見に預けてしまっている。
仕方がないと、自分の下履きを引き裂いた。
それを水に浸して緩く絞り、ゆっくりと静かに殺生丸の顔を拭く。
汗も土煙の汚れも、全てを流す。
そうして今度は左腕にこびり付いた血を優しく拭きとる。
ペリ、と凝固した薄い血液が剥がれる音がするとピクリとその腕が動いた。慌てて彩登美が殺生丸の顔を見れば、薄っすらとその目が開いている。
「っ…ぅ、あ……殺生…丸君っ」
ぶわりと彩登美の視界がぼやける。
殺生丸は静かにゆっくりと瞬きをすると、浅い息を繰り返す。
彩登美は泣きながらも必死に顔や首筋に水布を当て、息を整えようと殺生丸の胸に片手を置いた。
するりと、その左手に殺生丸の右手が乗せられる。
「殺生丸君…?」
ぼやける視界の中、殺生丸の口が僅かに動く。
彩登美は聞き逃さまいと耳を近付けた。
「……お前が…また、いなくなってしまった」
譫言のような声で、殺生丸は呟いた。
途端に音もなく彩登美の涙は溢れる。
「いるよ…っ此処に、いるよ…。もうずっと一緒だから…」
彩登美の頭の中には、幼い時の殺生丸と父が剣技の修行をして、傍らで母が微笑む光景が流れる。
もう誰も失いたくないし、失ってはいけないのだと彩登美は胸が苦しくなる。
ギュ、と殺生丸の右手を握り返した瞬間、がばりと殺生丸が顔を起き上がらせた。
「っな、に?」
彩登美が数回瞬きをすると雫は落ち、視界は透明になる。
その先に見えた殺生丸の顔は、文様が浮き出て大犬へ変化をする手前だった。喉からはグルグルと低い獣のような唸り声を上げている。
完全に手負いの獣の姿に彩登美は心底驚いたが、ガサリという音と、殺生丸の顔の向きでそちらに何かがいるのだということが解り身を強張らせた。
恐る恐るゆっくりと首を回してそちらを向けば、そこには想像していたよりもずっと安全なものがいた。
「…子供…?」
みすぼらしい恰好をしているが、ボサボサに伸びた黒髪をちょこりと結い、じっと大きな目でこちらを見ているのは、幼い女の子だった。
彩登美が声を上げたことにより、女の子は肩を揺らしたが逃げる気配はない。
ともすれば近寄ろうとさえしているようであった。
彩登美はこの女の子が人間なのか、それとも化けた妖怪なのか判断が付かなかった。
こんな山中に幼い子がいるのだろうかという疑念もあったのだ。
しかし彩登美が警戒するよりも先に、その女の子は殺生丸の一際大きな唸り声で肩を竦め、すぐに何処かに消えていってしまった。
「あっ…行っちゃった…どうしてあんなに唸ったの?妖怪の変化だったの?」
再び殺生丸の左腕を拭きながら、彩登美が問い掛ければ、まだ息は浅いながらも徐々に落ち着いてきた殺生丸が鼻を鳴らす。
「あれは人だ…今はまだ私は動けない。面倒事は…」
「そう…でも帰ってきちゃったよ」
話しているうちに再びあの幼子は二人の元へ来て、恐る恐る先程よりも近くに寄って来た。
殺生丸から人であると聞いた彩登美は、先程より警戒が薄く穏やかに笑みを浮かべる。
すると幼子はサっと大きな葉を彩登美の前に差し出した。そこには茸が数個と木の実が乗せられている。
しかし急な提供に戸惑い、受け取らない彩登美を見ると、静かにそれを地面に置いて再び背中を見せて森の中に消えていく。
後に残った彩登美は、それを拾い上げると殺生丸に見せる。
「どうしよう?くれたのかな」
「…要らぬ」
「…でも、食べられるものだと思うの。勿体ないし、折角だから」
そう言うと彩登美は茸と木の実を分けていく。
暫くは殺生丸と共に此処にしかいられない。
殺生丸のように物質を食べなくてもやっていけるわけではない彩登美は、素直に幼子からの施しを受けることにした。
殺生丸も理由は解っている為、とやかく言うことはなく再び上体を木の幹に預け、楽しそうにこれからのことを話す彩登美をいつもの無表情で見つめることにしたのだった。
(森の奥で動けないあなたと二人きりも幸せです)
――・・**
彩登美が目を覚ました時、彩登美の体は地面の上ではなく、赤が付着した白い着物の上だった。
飛び起きた彩登美は頭痛に顔を歪める。
しかし割れそうな頭を必死に動かし、自分の下敷きとなっていた瀕死の殺生丸から降りると、顔にかかる髪や血まみれの袖などを意味もなく綺麗に整えた。
「……せ、しょうまる…くん」
掠れた声で名前を呼んでも、気絶しているのか殺生丸は反応を示さない。
不安を押し殺しながら彩登美が周りをきょろりと見渡す。
どこの森に落ちたのかはわからないが、ここはどうやら現世のようだった。
あの世の境からは無事に帰れたことに息をつき、そうして再び森を見渡す。
怪しい物音も聞こえなければ影もなく、鳥の声が聞こえてサワサワと葉の掠れる音が響くだけだ。
妖怪の姿がないことに落ち着いた彩登美は、もう一度殺生丸の顔を撫でる。
暖かさや顔色から、死んではいないことがわかるが安心はできない。
そっと左の袖を摘まみ上げ、中を覗けば肘から下はなくなっていた。
妖怪特有の再生能力の高さ故か、もうその切断面は癒着していたが、まだ薄い皮膚の下は赤くグズグズしている。
あの時、犬夜叉は殺生丸の左腕を切り落としたのだ。
そうして鉄砕牙の剣圧をそのままに、殺生丸は父の骸の中から落ちていった。彩登美はその後を何の躊躇もなく追い掛け、足を空へ落とした。
どれくらい落ちたかはわからないが、途中で殺生丸にしがみ付くことが出来た彩登美は、そのまま気を失ったのだった。
いつ殺生丸の変化が人に成ったのかはわからない。
「……人に成っているということは、元気になってきているということだよね…」
いつだったか、母やしづおが言っていたことを思い出しつつも彩登美は不安のせいか声が震える。
これから先、左腕が無くても平気なのだろうか。
起きた時にどこまで覚えているのだろうか。
邪見は一体どこにいるのだろうか。看病は。
ぐるぐると頭を駆け巡って動けない。
「一緒に…生きていたのに…私、妹なのに……妖怪の兄の看病の仕方も…なにも解らない…!」
不甲斐なくて仕方がなかったが、泣いていても始まらない。
まずは汗や血がこびり付いた腕を綺麗にし、まだ薄い皮膚の状態の腕を保護しないといけないと思った彩登美は無言で立ち上がると、一先ず迷ってはいけないと目印に何かないかと辺りを探る。
しかし山中のここには何もなく、豊かな草花が生い茂る空間でしかない。
一度組紐帯を解いてみたが、大体自分の左腕から右腕の三往復程、五尺程度しかない。
これではダメだとそのまま袖を託して結い上げるのに使い、腰紐で小袖を止め直して整えた。
どうしようかとウロリと目を彷徨わせたとき、視界の端に殺生丸の刀が映った。
「…そうだ、これで木に傷をつけていけば…ごめんね殺生丸君、ちょっと借りるね」
断ってから、殺生丸の腰に納められている刀の柄に手を伸ばす。
鉄砕牙の事が頭に過り、少しだけ掴むことに躊躇したが、彩登美の手は弾かれることはなかった。
「…お、も…い」
昔に持った時よりも重く感じるのは、この刀が大きいからだろう。
刀身を出したまま歩くのは聊か不安ではあったが、重い刀身に加えて重厚な鞘まで持って歩くことは無理だと考えた彩登美は、ゆっくりと慎重に鞘から刀を抜いた。
キンと綺麗な白い刃は大きく、それでいて反りも曲がりも少ない立派な刀だ。
彩登美には余計にあの鉄砕牙を欲しがった理由が解らなくなる。
とにかく、と刀を持ち直し、地面に注意しながら歩き始めた。
水辺に向かって歩くには、植物に注意をすれば自ずと道が見える。水が好きな植物が群生する場所から遠くないところに川は見えるものなのだ。
フラリと重い刀を引きずる様に歩きながら、木々に横長の印を刻みながら、彩登美は必死に歩いて捜す。
「っあ!」
どれくらいか歩いた先に、白い花がちらりと見えた。
裾を持って走り寄ると、そこには群生の白い玉の花が咲き誇っている。
「水…近いんだわ…」
水辺に生える白玉草が密集している場所から奥、そのまた奥へと走れば、そこには見事に小さな川が流れている。
「あった…良かった」
へなりとして座り込んだ彩登美だったが、殺生丸の事を思い出し、直ぐに立ち上がると近くの桐の木に駆け、その自分の顔の数倍もある大きな葉を数枚拝借した。
そうして数枚を織り込み、重ね合わせ、今度は白玉草を数本拝借して茎を葉の先に通して離れない様に組み合わせると、簡易型の葉の器が出来上がった。
慎重に水に浸して壊れないように並々と掬って一度足元に置く。
今度は腰紐に刀の柄を括りつけ、自分の足を斬れない程度に調節すると、再び器を持ち上げてゆっくりと歩き出した。
川を見つける前と違って足取りは軽く、刀の重さは感じなかった。
自分でつけた横長の印を見付けながら、ゆっくりゆっくり、水を零さない様に歩いてやっとの思いで殺生丸の所へ辿り着く。
浅く息をする殺生丸の横に佇み、慎重に刀に気を付けながら水を置いて、直ぐに刀を結ぶ腰紐を解く。
そうしてゆっくりと鞘に戻せば、やっと大きな息をつくことができた。
「…ただいま、殺生丸君」
自分の持っていた服は邪見に預けてしまっている。
仕方がないと、自分の下履きを引き裂いた。
それを水に浸して緩く絞り、ゆっくりと静かに殺生丸の顔を拭く。
汗も土煙の汚れも、全てを流す。
そうして今度は左腕にこびり付いた血を優しく拭きとる。
ペリ、と凝固した薄い血液が剥がれる音がするとピクリとその腕が動いた。慌てて彩登美が殺生丸の顔を見れば、薄っすらとその目が開いている。
「っ…ぅ、あ……殺生…丸君っ」
ぶわりと彩登美の視界がぼやける。
殺生丸は静かにゆっくりと瞬きをすると、浅い息を繰り返す。
彩登美は泣きながらも必死に顔や首筋に水布を当て、息を整えようと殺生丸の胸に片手を置いた。
するりと、その左手に殺生丸の右手が乗せられる。
「殺生丸君…?」
ぼやける視界の中、殺生丸の口が僅かに動く。
彩登美は聞き逃さまいと耳を近付けた。
「……お前が…また、いなくなってしまった」
譫言のような声で、殺生丸は呟いた。
途端に音もなく彩登美の涙は溢れる。
「いるよ…っ此処に、いるよ…。もうずっと一緒だから…」
彩登美の頭の中には、幼い時の殺生丸と父が剣技の修行をして、傍らで母が微笑む光景が流れる。
もう誰も失いたくないし、失ってはいけないのだと彩登美は胸が苦しくなる。
ギュ、と殺生丸の右手を握り返した瞬間、がばりと殺生丸が顔を起き上がらせた。
「っな、に?」
彩登美が数回瞬きをすると雫は落ち、視界は透明になる。
その先に見えた殺生丸の顔は、文様が浮き出て大犬へ変化をする手前だった。喉からはグルグルと低い獣のような唸り声を上げている。
完全に手負いの獣の姿に彩登美は心底驚いたが、ガサリという音と、殺生丸の顔の向きでそちらに何かがいるのだということが解り身を強張らせた。
恐る恐るゆっくりと首を回してそちらを向けば、そこには想像していたよりもずっと安全なものがいた。
「…子供…?」
みすぼらしい恰好をしているが、ボサボサに伸びた黒髪をちょこりと結い、じっと大きな目でこちらを見ているのは、幼い女の子だった。
彩登美が声を上げたことにより、女の子は肩を揺らしたが逃げる気配はない。
ともすれば近寄ろうとさえしているようであった。
彩登美はこの女の子が人間なのか、それとも化けた妖怪なのか判断が付かなかった。
こんな山中に幼い子がいるのだろうかという疑念もあったのだ。
しかし彩登美が警戒するよりも先に、その女の子は殺生丸の一際大きな唸り声で肩を竦め、すぐに何処かに消えていってしまった。
「あっ…行っちゃった…どうしてあんなに唸ったの?妖怪の変化だったの?」
再び殺生丸の左腕を拭きながら、彩登美が問い掛ければ、まだ息は浅いながらも徐々に落ち着いてきた殺生丸が鼻を鳴らす。
「あれは人だ…今はまだ私は動けない。面倒事は…」
「そう…でも帰ってきちゃったよ」
話しているうちに再びあの幼子は二人の元へ来て、恐る恐る先程よりも近くに寄って来た。
殺生丸から人であると聞いた彩登美は、先程より警戒が薄く穏やかに笑みを浮かべる。
すると幼子はサっと大きな葉を彩登美の前に差し出した。そこには茸が数個と木の実が乗せられている。
しかし急な提供に戸惑い、受け取らない彩登美を見ると、静かにそれを地面に置いて再び背中を見せて森の中に消えていく。
後に残った彩登美は、それを拾い上げると殺生丸に見せる。
「どうしよう?くれたのかな」
「…要らぬ」
「…でも、食べられるものだと思うの。勿体ないし、折角だから」
そう言うと彩登美は茸と木の実を分けていく。
暫くは殺生丸と共に此処にしかいられない。
殺生丸のように物質を食べなくてもやっていけるわけではない彩登美は、素直に幼子からの施しを受けることにした。
殺生丸も理由は解っている為、とやかく言うことはなく再び上体を木の幹に預け、楽しそうにこれからのことを話す彩登美をいつもの無表情で見つめることにしたのだった。
(森の奥で動けないあなたと二人きりも幸せです)