青鬼(桃組) 未完
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産まれてから物心がついて間もなく、私は自分の家の異質さに気付いた。
大きな敷地の中に、4つほど、家と言うには大きすぎる、邸が建っていた。
表札にはそれぞれ「
各家には各家族があったが、私が住む北東「藤原」の家は一番大きく、お手伝いさんもとても多かった。
正月になれば一番最初に式藤原のお家が来て、次に京藤原、次に南と、各家が挨拶に来るのが習わしだった。
7歳になった時、母から藤原の家について教わった。式藤原が一番身分が低くて、私たち何もついていない藤原が一番身分が高いのだと。その言葉に、ほんのりと嫌な気分になったのは覚えている。
10歳になった時には、私は奇妙な夢を頻繁に見るようになった。雅やかな宮廷、着物、墨、紙、扇、そして深く美しい蒼。それと同時に、恋に興味を示すようになった。
13歳の誕生日には、優しい父から桐箱に入った舞踊扇を貰った。
鶯色の、扇の一面には桜と雪の花が舞い、もう一面には赤い椛の葉が流れる川の向こうに、寝殿造の屋敷が描かれていた。
「大事に使いなさい。いずれお前を護る術となるのだから」と教わったのも、この日だった。
それからというもの、様々な人と恋を楽しんだ。
しかし誰とどんなに素敵な恋をしてもどうもしっくりこなくて、この蟠りは何だろうと考えて、結局いつも恋は長続きしない。
頭の奥、心の底に何かが引っ掛かる。
ぐるぐると出自や異質な家の事を何度も考えたり、色々なところへ行ってみたりしたけれど、やっぱり何も見つけられなかった。
悩んで悩んで、解らなくなっていた。
そんな折、近所に住んでいた昔から仲が良かった巴家の娘が、私の手を握り、「高子さんはまだ、
何のことを言っているのか解らなくて、でも悠歌の言葉はとても胸を締め付けた。
その数日後、悠歌に後押しをされ、父母は勿論、家からも背中を押され、悠歌のいる学校へ転校することになった。
愛譚学園はとてつもなく大きくて、広くて、沢山の学科と生徒がいた。私は国文科の編入試験と面接を受け、難なく合格し、見事に愛譚学園国文学科一年生として学校へ通うことになった。
悠歌は愛譚学園中等部の三年生で、寮生になった私と同じくして彼女も寮に編入してきてくれた。
そこで、私の人生にはなかった多くのことを知った。
校内によくいるお面をつけた生徒や教師、なにか特殊な訓練でも受けているのかと思う程のしなやかな体術。CGのように生まれ出ては放たれる呪術や気弾。
総てが新しくて、目まぐるしくて、そして楽しかった。それが欠けていた一つのピースでもあったのか、私はとても自然に受け入れていた。
それだけではなく、学園の中で時折ある、電気の走る感覚や目頭が熱くなる感覚に戸惑いも覚えた。
そのことを悠歌に伝えると、ややあってから「そろそろだとは思っておりました」と嬉しそうに花を綻ばせ、「生まれ変わり」について細かく教えてくれた。
一定の人には「生まれ変わり」があるということ、その中には区分があり、動物組と人間組が居ること、そして獣基や妖怪など様々な種族や一族がいること。
嬉々として語った悠歌本人は、鎌倉時代の巴御前の生まれ変わりだと言うことらしい。
だから猛々しく凛々しかったのね、と伝えれば、嬉しそうに頬を赤らめていた。
生まれ変わりという言葉を知ってから、あの幼い頃からの奇妙な夢が鮮明になっていく。
小さな時からずっと持っていた違和感、恋をする度に膨れ上がる期待感と安堵感。
そうして全てが重なった桜の溢れる季節、私の中の何かが弾けた。
桜の下で蹲り、大事な扇を握り締めて目を見開きながらボロボロと涙を零した。
私は、平安時代の貴族、二条后こと藤原高子の生まれ変わりだったのだ。
納得して落ち着いてしまえば、早かった。
私はその二日後に五感全てを覚醒し、父に頂いた扇は覚醒具ということもわかり、使用方法を学んでいった。
しかしまだ一つ、夢の蒼さがわからない。
父に訊ねてみても、曖昧に困ったように笑むだけだった。
***
全ての通常のテストを終えた後、誰だか知らない何処かの学科の男子生徒から私は告白を受けていた。
長く続く鬱陶しい口上のような告白にうんざりしていた時、突如スピーカーから放送が入った。
『…―生まれ変わりの……』
放送内容は生まれ変わり限定の期末テストのことだった。
これ幸いと、私は喚く彼を無視して期末テストへ急いだ。
集合場所と聞いていた所に行けば、閑散としている。
既に始まっていたテストは、鬼抹テストと称した鬼ごっこだったようで、舞台には中途半端に幕が掛かっていて、ターゲットとみられる三人の顔写真が貼ってあるが、それぞれ口元しか覗いていない。
今更どうしようかと考え倦ねていたところ、悠歌が疾風丸に乗ってやってきた。
「高子さん!今お着きですか?」
「ええ、少し用事があって。…でも、今更参加しても意味はないみたいね?」
少し寂しい舞台の前で佇む私に、悠歌は疾風丸に乗ったまま近付く。
「いえ、まだ」
そこへ警備委員の人が慌てて走ってきた。
「副委員長!大変です!向こうで決闘騒ぎが!」
その言葉により、悠歌の顔色が変わる。
疾風丸の手綱を握り直し、私へ手を差し出した。
私は条件反射のように無意識にその手を取ると、悠歌は力強く引いて、私を疾風丸の上、悠歌の後ろへ乗せた。
毎度のことではあるが、そんな華奢な手のどこにそのような力があるのだと思う。
「行きますよ!高子さん、しっかり掴まっていて下さいませ」
「…うん」
多少の驚きはあったものの、私は頷き、悠歌のその細い腰へしっかりと手を回す。
私が乗ったことにより悠歌を先導する警備委員の男子生徒の背中を馬の蹄が追いかける。
決闘、と聞いたときの悠歌の少し嬉しそうに歪んだ口元には知らないふりをした。
*