女の子と大人達(nrt) 凍
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瑚咲は、すこしとくべつだからつれられてきた。瑚咲は、かちがあるんだって、カブトさまがいっていた。かち、はよくわかんない。
瑚咲は、まえから人の手にさわると、気もちがわかった。
いたいとか、こわいとか、うれしいとか、おこっているのとか、なきたいとか、生きたいとか、ぜんぶぜんぶわかった。
それで、村のみんなからは、とおいところへぽいっとされた瑚咲は、あさと、ひると、よるにごはんをもってきてくれる人いがいに、あえなくなった。
おかあさんはいたとおもうけど、わからない。おとうさんもわからない。
くらいところへおかれて、「ここに住むのよ」といわれてから、ずっといたそのばしょは、なにも見えなかった。
そこへ、とつぜんあかりが見えた。
かみのながい人が、瑚咲へまっ白な手をのばして「来なさい」とわらった。
まぶしくて見えなかったけど、きっとわらった。
だってその手をにぎったら、うれしいって気もちでいっぱいになったから。
***
瑚咲、とよばれた。
今さっき、いつものチックンがおわって、ペタペタとはってあったシールもはがして、よばれたほうへはしっていった。
瑚咲という名まえも、この人がつけてくれた。
まえは、その子とか、あの子とか、そういうふうにしかよばれてなかったから、名まえはなくて、でもそれだとフベンだって、いわれたから、名まえをつけてもらった。フベン、はしらない。
その人は、瑚咲のオンジンで、瑚咲の大じな人だ。カブトさまより大じ。オンジンは、カブトさまにおしえてもらった。カブトさまは天さいなの。
その人の名まえは、大蛇丸さま。
かん字は、大蛇丸さまのだけ、さいしょにおぼえた。ほかの字は、ゆっくりとかりんちゃんにおしえてもらってる。かりんちゃんの名まえはむずかしかった。
「なーに、大蛇丸さま」
瑚咲がはしるとぺたぺたと音がなる。瑚咲がはだしだから。
さいきん、ゆかがとってもキレイになったらしい。かりんちゃんがいってた。
大蛇丸さまのすわる大きなイスへむかって、手をのばす。大きなイスからは、しゅるしゅると大きなへびが瑚咲のからだにまきついて、もち上げた。
ぽとり、とおとされたのは大蛇丸さまのおひざの上だった。
「瑚咲、お前、検査は終わったの」
「うん、なんにもなかった!大蛇丸さま、なにしてたのー」
いつものさらさらのまっくろなかみのけ。
目は金いろだ。キレイな目は、まえ、さこんが見せてくれたほう石みたいだ。
さこんは、見せてくれたのに「お前にはまだはえーからやんねーよ」とかいって、かわりに金いろのあめ玉をくれた。
それで瑚咲はしょーがないからゆるしてあげた。おいしかった。
大蛇丸さまは、瑚咲のくろくてみじかいかみのけをなでた。くすぐったい。
ふひひ、とわらうと、大蛇丸さまの金いろもほそーくなった。
「お前の村のことを考えていたのよ。ねぇ、瑚咲。未練は今でも…ああ、覚えているはず、ないわよねぇ」
ときどき、大蛇丸さまはむずかしいことをいうから、よくわからない。
でも、まだ手はさわらない。大じなときだけにしなさいって、大蛇丸さまがいったから、瑚咲はあんまりすぐに手をさわらなくなった。
そのかわりに、いっぱいうでや足をつかむ。
みんな大きいから、瑚咲はつかんでいないとすぐにみんなからはなれてしまうからだ。
まいごになっても、すぐにかりんちゃんと大蛇丸さまがむかえにきてくれるけど。
かりんちゃんは、瑚咲のばしょがすぐわかるんだって!すごいねぇ。
「んー?みれんってなに」
「…そうね、瑚咲はまだ七歳だったわ。いいの、忘れなさい」
ゆるりゆるり、大蛇丸さまの手がみじかいかみをつかむようになでる。
なんだかねむくなってきた。
大蛇丸さまのおひざの上は、すこしかたくて、それでほんのりあたたかい。でもちょっとつめたい。
目のまえの、大蛇丸さまの白いふくに、すりっとおでこをくっつけた。
とん、とん、とちいさなちいさなひくい音がきこえる。
きっとこれは、大蛇丸さまのしんぞうの音だ。
しんぞうは、このまえ見た。カブトさまがほそいガラスの入れものにういているピンクのやつを見せてくれた。
「これが動くから僕らは生きているんだよ」といっていた。
大蛇丸さまは生きている。
なんだかとってもうれしくなった。
生きてる。
生きてる。
「瑚咲、眠いの?」
「んー…大蛇丸さまおはなししようねー…」
ふわふわとする。
「お話ねぇ…今のお前とは出来る気がしないけれど」
せなかを、ぽんぽんと大蛇丸さまがやさしくたたいてくれる。
やめてーもっとねむくなるの。
むりやり、とじそうな目をひらいて、大蛇丸さまの左うでをつかんで、瑚咲のまえへひっぱる。
左手をにぎってみる。
すぐにあたまの中に、大蛇丸さまの気もちがうかんでくる。
うれしい。やさしい。
うんうん、大蛇丸さまいい人ねー。
「大蛇丸さま、やさしくてすきよー」
「ふふ、私が優しいのなら、この世界は善人の集団よ」
「ええー?おそとはねぇ…きたないよ」
ふにふに、大蛇丸さまのまっ白な手をにぎにぎする。
かたくて、でもすらっとしている。
きれーねー。
大蛇丸さまは、せなかにあった右手を瑚咲のおかおの下へおいて、上をむかせた。
大蛇丸さまの金いろの目とぱちりとあう。
「この世界は汚くていいのよ。それでこそ世界。作り替える甲斐があるでしょ。生きにくいけれど」
それに、私も汚いわよとわらった。
大蛇丸さまは、わらうとお口のはしっこがぴぃぃいっとつりあがる。
ちょっとこわい。
「大蛇丸さまはねぇ、きたないんじゃなくてねぇ、んーとねぇ、そう、おもいの」
つりあがっていたお口が、するんと下へさがった。
「お前、意味を理解していっているの」
「んんー?」
ちょっとだけ、おこった。
どろり、としたもやもやが瑚咲の中へ入ってくる。
なんかだめだったかなぁ。
でも、ほんとにどろどろしたおもたいものがある。
大蛇丸さまはやさしくてうれしいのがおおいけど、たまにどろんとした、なんていえばいいのかわかんない気もちでいっぱいになる。
おこってるのじゃなくて、すこしかなしいのと、こわいの。
いっぱいいっぱい、おおい気もちがぐちゃっとして、一つになって入ってくる。
それは瑚咲にはよくわかんない。
それは、一かいへんそうしてつれていってもらった白くて四かくい石のまえと、大きな大きなガラスの入れもののまえでだけあった。
それいがいは、しらない。
そういうときは、瑚咲はとってもかなしくなる。なきそうになる。
でもないたらこまるから、なかない。
大蛇丸さまがないていないから、瑚咲もなかない。
そういえば、あの四かくい石には、なんか文字がかいてあった。
「大蛇丸さま、おこったの」
「怒ってないわ。便利ね、その手。でも少しくらいコントロールしなければ面倒ね」
「そうねー」
大蛇丸さまは、小さくためいきをついた。
「はあ、…意味が分かっていないのに、相槌を打つの止めなさい」
そういった大蛇丸さまは、さいしょとおなじように瑚咲をへびをつかっておろした。
ひんやりとしたゆかに、足のうらがくっつく。大蛇丸さまを見上げると、すくりと立ち上がっていた。
「大蛇丸さま」
「少し、外へ行くわよ。着替えてきなさい」
「ほんと!おさんぽ?おさんぽ?」
「ええ」
「やったー!」
まっててね、と大きなこえでいって、大蛇丸さまからかけだした。
とびだしたさきで、なにかのにもつをかかえたカブトさまとぶつかりそうになったのはないしょだ。
カブトさまにはすこしだけ大きなこえで名まえをよばれた。
そうだ、あれは、大蛇丸さまのおかあさんとおとうさんの、名まえだって、カブトさまからきいたんだった。
【私の世界は優しくてどろりとしていてそれで、】
(大蛇丸様、少し甘やかしすぎでは?)
(あら、私のこと言えるの?ここ最近やたら床が綺麗ねカブト)
(………まあ)