男子誕生日で花言葉(アカセカ) 2017/07了
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―中也君、中也君はおおきくなったら、おいしゃさんになるの?
ハ、として目が覚めた。
急に誰かにたたき起こされたような、妙に先走った感じで目を覚ました俺は、ゆっくりと部屋を見渡す。
窓からは茜色の光が差し込み、遠くにカラクリ車の音が聞こえた。
大きなため息をついてから、ガシガシと後ろ頭を掻けば、ピーンポーンと高いチャイムの音が響く。
仕方がなく寝起きの頭のまま玄関に向かえば、外にはさっき夢に出てきていた千香子がにこにこと立っていた。
夢と違うのは、千香子が成長しているということくらいか。
「中也君おはよう。今日は食料沢山買ってきたから、朝ご飯から夜ご飯まで私に任せてね」
そう言うなり、千香子は靴を脱いで勝手に上がり込み、冷蔵庫を開けて袋から野菜やら肉やらを放り込んだ。
「お、おい。何も聞いてねえぞ」
「言ってないもの」
「はあ?」
こいつの傍若無人っぷりに開いた口が塞がらないが、昔からこうだったと思い直し、とりあえず千香子の横に座って冷蔵庫を覗き込む。
ちらりと見た横顔は、あの夢の中のままどこか幼い。
「ねえ中也君」
「あ?」
「書き物のほうはどう?捗ってる?諦めてお医者さん目指す?」
驚いた。
夢と同じことを言うとは。
へらへら笑いながら言った千香子のこめかみをコツリと叩き、冷蔵庫の中に仕舞われていた瓶に入ったジュースを取り出した。
「あっ、こら」
「目指さねぇよ医者なんて。お前もいい加減それ言うのやめろ」
「…じゃあ、私の夢は叶わないなあ」
ぽつんと呟いた言葉は小さかったのに、やけに俺の耳に残る。
「…夢?」
千香子は冷蔵庫の扉を静かに閉めると泣きそうな笑顔で俺を見た。
「…大きくなったら、私お嫁さんになるの。そしたら……俺が医者になったら、お前と結婚するからなって…忘れちゃったか」
へへ、と笑った千香子に、俺は胸だか鳩尾だかはわからないが内臓が締め付けられるような痛みを感じた。
やめてくれ。覚えてるさ。
寧ろ挫折した俺が、お前を娶るだなんて烏滸がましいだろ。
だというのになんだ、お前は待っていたっていうのか。
俺の、馬鹿げた幼い頃の夢を信じて。
「…医者の、嫁になりたいんじゃなかったのか」
「…馬鹿だなぁ。私、中也君のお嫁さんになりたいんだよ。知らなかったの」
とうとう涙を零して笑い出した千香子を、俺は思わず引き寄せてきつく抱き締めた。
【幼い頃から変わっていない心に、正直驚いたよ】