男子誕生日で花言葉(アカセカ) 2017/07了
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ああ、やっと来てくれた。
本当においしそうに食べるのね。
そんなに美味しい?
嬉しいわ、貴方の為に作ったのですもの。
ああほら、指に、掌に、汁が落ちてしまうわ。
まあ、その割れた舌先で器用に舐めとるのね。
貴方が目を細めて食べている様子を見るだけで、私も胸がいっぱいになるの。
私の体に虫が付いたとき、貴方は素早くそれでいて優しく虫を追い払ってくれたわね。
蝶が頭に止まった時はとても眩しいものを見るかのように私を見て笑っていた。
貴方が私を美しいと言ってくれるたびに、笑顔になるたびに、私は身の内が震えて、貴方の儚い姿に酔い痴れた。
貴方のためにこの花を、貴方の為にこの実を。
初めて私が姿を見せた時、酷く驚いた顔をしていたけれど、すぐに柔らかく笑って、「いつも旨い桃を有難う」と言ってくれたわね。
ふふ、私だって本当は仙人様のために育てていた桃だったのだけれど、あんなにも美味しそうに食べてくれる貴方を見たら、貴方だけの為に桃を育てようと思うじゃない。
けれどね。
「オロチ様、私は幸せでした。いつも美味しそうに食べてくれて、ありがとうございました」
「…藪から棒に。どうしたというのだ」
風に流れる自分の薄桃の髪を押さえて、私は精一杯笑った。
「私は今日、消えてなくなります。もう齢も何千年。私の寿命が近付いていたのは御存知でしたでしょう。それが今日なのです。もうすぐ、私は枯れ果て、孰れこの幹も腐っていきます。寿命が尽きるのと、私が消えるのは同じこと。ですのでオロチ様にご挨拶を」
桃の木の精霊として、白蛇の化身であるオロチ様に目をかけられたのはとても誇りでした。
「それとね、オロチ様。私、」
オロチ様の御顔がいつもより怖く、白くなっている。
私は最後の声を音に出すことが出来ず、そのまま小さな光の粉となって体が消えて風に揺られる。
意識だけは停滞し、私はオロチ様の体へ光の粒子となった体を操って、キラリと飛び込んだ。
【小さな愛の芽生えを覚えていた私だったけれど気付いた時には風に舞って消えてしまった】