男子誕生日で花言葉(アカセカ) 2017/07了
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「ねえ千香子さん」
「なに?」
「僕ねぇ、夢があるんだ~」
はた、と私は食器を拭いていた手を止めて、漸く声をかけてきた漱石に向かって体を向けた。
いつも通りのほほんとした顔でへにゃへにゃ笑う漱石は、その手に数枚の原稿、ではなくてどこいらのデブ猫を抱きかかえている。
全く、また上着に猫の毛が纏わりつくというのに。
私はエプロンで手を拭いてから、漱石の腕からデブ猫を抜き取った。
何も言わずにだらりと体を預ける猫に、全くこいつは野生を失って何とものんべんだらりとして危機感のない猫なんだと失望で言葉が出ない。
「…それで、夢って?」
「うん。あのね、僕は将来、小説で有名になって印税生活するの。それでね、猫さんだけのお部屋を作ってね、その隣には僕と千香子さんだけのお部屋を作ってね。みんなでずぅっと幸せに暮らすんだ」
にこにこととても幸せそうに話す漱石は、なんともまあ阿保面だ。
しかしそれも許せてしまうのは、その語る夢が割と半分現実的だから、なのだけれど。
しかしもう半分は非現実的だ。
猫だけの部屋だなんてとんでもない。
毛だらけの部屋なんて誰が一体掃除をするっていうの。
私か。とんでもない。
「ねえ漱石。夢を語るのは勝手だけれどね、猫の面倒は誰が見るのよ」
「え?猫さんは猫さんで生きていけるよ~」
それだったら猫の部屋なんていらないじゃない。
なんて言葉をぶつけたところで漱石には何にも響かないのは解っている。
全く仕方がない子だ。
「うん、もういいわ。貴方の語る夢に私がいただけでもうけもんね」
「ええ?どうしていないと思ったの?そもそも、千香子さんがいない世界はいらないからねえ~。僕と千香子さんだけの部屋でずぅっと楽しいことして、過ごそうね」
にんまり、と言う様に笑った漱石の顔はいつもと違って少しばかり男臭くて、私の体に衝撃が走ったのは言うまでもない。
【夢想するのは御勝手に。けれど若さを押し出すのは秘めておいて】