男子誕生日で花言葉(アカセカ) 2017/07了
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「姫様、少しでも宜しいので何かお食べになってください」
若い女中が粥を片手に叫ぶが、私には何も聞こえない、ふりをする。
御簾の向こうでは何度目かの満月が昇っていて、煌々と庭を照らしている。
太陽の代わりに月明かりが世界を照らす光景にも見慣れた。
何時か何時かと道長様がこの月明かりの下、長い影を伸ばして私の元へ歩いてきて、この御簾を引き上げるのかと思い続けて、どれくらいたったのだろうか。
着物が重く感じて、揚々と手を上げることもできなくなった。見れば私の手首は自棄に細く、ぼこりと骨ばっている。ああ、汚い手。これでは道長様に嫌われてしまう。
ぎゅっと爪を立てて握り込めば、掌はじくじくと痛む。
私の心もじくじくと痛んでいて、相殺されたような気がした。
「姫様っ…もう、お待ちにならないでください!きちんとご飯をお召し上がりになられて、お元気になってくださいませ…!姫様には平家からも縁談のお話が届いております!どうか…どうか目を覚ましてくださいまし…っ」
粥を置き、頭を下げて懇願する女中は黒々とした髪を持っている。
私のは、どうだろう。
パサついているのではないか。
ああ、なんだって私はこんなことになったのだろう。
道長様が「また来るわな。待っててや」と言って去っていったのはいつだったか。
私は、私は。
「…お前」
「っは、はい!」
面を上げた女中は泣き腫らした顔だ。
「鏡を」
「……はい…」
女中が文机から手鏡を持って来て私に手渡す。
そっと月明かりを集めて、私は久方振りに自分の顔を見た。
「ひっ…」
自分の顔をここまで醜いと思ったのは初めてだった。
唇はかさつき皮が剥れ、頬はこけ、髪も乱れ、眼窩は黒く鈍い。
精気が全く無い顔は幽鬼のようだ。
手鏡を放り投げ、溢れ出る涙を受け止める術もせず、ただ仰ぎ泣く。
「こんな…このような顔では…道長様が来てくださる道理はないではないか…っ!」
きらきらと御簾の間から月光が光る。
いっそこのような私は、消えてしまいたい。
貴方に愛されない私なんて。
消えてなくなってしまえばいい。
【恋の病にかかった私は恋によって身が細り、治すことも儘ならぬまま】