キバ(nrt) 2013/10了
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「うずまき君も、奈良君も、強かったんだねー」
先程奈良君の試合が終わったばかりで、会場は凄まじい熱気に包まれている。
一試合目のうずまき君の試合は途轍もないどんでん返しで、賭けをしていた人間達は番狂わせだったみたいだ。遠くの方で騒いでいる人間がいた。
奈良君の試合は何だか一悶着あったみたいで、二つほど飛ばされて早めのお出ましとなった。
テマリさんが相手で、いのは「ボッコボコよー!」とか叫んでいたが、それは奈良君の性格的にきっと無理だと思うと諫めておいたが。
テマリさんが背負っていた細長い棒のような物は、大きな扇子だった。風使いだのなんだのと周りの忍さん達が言っていたが、確かに凄かった。
私は、基本的に試合展開にはついていけない。
早すぎて目が追いつかないからだ。
それにちゃんとした忍術だって初めて見る。
うずまき君の試合相手の日向さんの周りに現れた丸い青い壁みたいなものや、沢山のうずまき君や、うずまき君の体に巻き付いた赤いチャクラや、青い掌サイズの球体や、奈良君の伸びる影やテマリさんの大きな扇子から繰り出される見えない風の刃など、沢山沢山わからないものが現れた。
いちいち聞くのも水を差すようで悪いし、忍術合戦も肉弾戦もさっぱり解らないままここまで見て来た。
次は我愛羅さんらしい。
それより、と本題を思い出す。
きょろりと探してみるが近くにはいないみたいで、仕方がないと席を立つ。
「のぞみ?」
立ち上がった私に、いのとサクラちゃん、後から合流した秋道君の視線が絡む。
「ちょっと、えっと、トイレ行ってくるね」
まさかキバ探しに行きますとは言えず、小さな嘘をついて曖昧に笑い、そこを離れた。
小さく声もなく、いのが「頑張れ」と口をパクパクさせていた。
***
一度一階まで降りて、売店でオレンジジュースを買って飲みながら階段を上がった。
忍の人がここまで集まる場所になかなか行かない私は、厳つい人達が沢山で真新しい。
キョロキョロしていると、何度か声をかけられた。
それをやんわりと断りながら、観覧席に続く廊下を歩いていると、前から知った顔が歩いてきた。
二人組。
探し求めていた、キバと、ヒナタちゃんだ。
ああ、同じ班なだけ、そう思っても胸がズキリと重くなる。
それでも今日は腹を決めたんだ、と後退りしたい足を踏ん張り、引きつらないように意識して笑顔を見せた。
「ヒナタちゃん!…キバ、おはよう!」
手は、震えていないだろうか。
「おー…もう昼だけどな」
「お、おはよう、のぞみちゃん。久し振り、だね」
可愛らしく返事を返してくれたヒナタちゃんと、何だかまた不機嫌な感じのキバ。
ああ、本当にそうなんだろうか、私は邪魔をしてしまったのだろうか。
玉砕覚悟とは言ったけれど、やっぱり痛いものは痛い。
どうしよう、今すぐ逃げたいよ、いの、イト。
「あ、あのさぁ…ちょ、っと…キバにお知らせしたい事というか、お話があるって言うか」
オレンジジュースのペットボトルを握り締めて、なるべくキバの顔を見ないようにするため、二人の足先をじっと見つめる。
何分たったか解らないが、右の足が動いた。
目の前の足は、ヒナタちゃんだったから、動いたのはキバだ。
ああ、話も聞いてもらえないのか。
告白できないのか、と鼻がつんとする。
ざり、と動いたキバの足を見ていると、段々と私の目の前へ近付いてきた。
目の前で止まった足をただ見ているだけの私の腕を、ぱしりと強めに取ったキバに、思わず顔が上がった。
少し、先程より不機嫌そうな顔。
「お前、俺に用があるってんなら、顔ぐらい見ながら言えよ」
そう言ったキバは、私の腕を掴んだまま歩き出した。
え、え、とこんがらがる頭を必死に整理しながらキバの後を慌てて足を動かしてついて行く。
ヒナタちゃんには何かを言ったのか、後ろを振り返ればもういなかった。
キバは私を人気のないところへ引きずり、漸く手を離した。
向かい合わせになり、「で?」と不遜な態度で私を見下ろしてくる。
声を出そうとした私の喉はカラカラで、ごくり、と唾を飲み込み、キバを見上げる。
どこか遠くで歓声が聞こえた。
ふいに、会場の方に顔を向け、見えもしないのに視線をそちらへ向ける。
我愛羅さんの試合が始まったのだろう。
頭にあの無表情が浮かび、少し力が抜けた。
口も笑って緩んでいたのだろう、キバの手が近付いてきたと思ったら、思いっきり両頬を、親指と人差し指で挟まれた。ぶに、と唇がタコみたいに突き出されてしまい、物凄く焦る。
キバに、キバに変顔を見せるだなんてあり得ない。
わたわたとキバの手を掴んで離そうとするが、腕に力を入れたみたいで離れない。
「お前さ、話って、なんだよ。つーかお前から言い出したんだからこっち見ろ。…俺のこと、避けてたことと関係ある話?」
言われた言葉に、手が止まり、まじまじとキバの目を覗く。
なに、言ってるんだろう。
私が覗き込んだ事で、キバの手がするりと下に落ちた。
「なに?私、キバのこと避けてなんか」
「避けてた。会わなくなった。朝来なくなったろ」
「あ、れは」
迷惑だと、漸く思ったからで。
キバの鋭い目が、ぎらりとした気がした。
「病院で会った時も、目があったのに、お前、逸らしたろ。ナルトといたよな」
「あれ、も…ちょっと、色々あって」
というか、ちょっと待ってよ。
「なんで、私ばっかり責められてるの。キ、キバだって、というか、キバから私に話しかけて来ないから、私、キバに嫌われてるんだと思って、成る可く近付かないようにしようと思って、それで!」
また鼻がつんとする。
涙腺も緩んだみたいで、視界がぼやけた。
「のぞみ、お前、なんでわかんねーの」
「は、あ?」
泣きたくないし、泣き顔なんて見られたくなくて、一歩後退りしようとしたら、また腕を取られて逃げられなくなった。
「いや、いいや。てか何となく解ったから、話せよ。言いたいことってやつ」
こいつ、なんでこんなに高圧的なの。
キバのくせに、キバの、ことなんか。
なんで。
「…っ、わ、たし、…キバのことが好きだ…!」
やっと伝えられた言葉は、およそ私が思い描いていた素敵なシチュエーションでもスマートな台詞回しでもなかった。