キバ(nrt) 2013/10了
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とうとう明日に本戦を控え、里はいつもより活気づいている。
里内には多くの他里の額当てをつけた人達が溢れ、私達のような一般人はそれを目当てにいつもより商売に力を入れている。
忍の里らしく、明日は本戦のために一般学校は全校休校になった。チケットも手に入っているし、悠々と見に行ける。
夜にはイトが我が家に泊まりに来るため、私は午前中だけのバイトに入れ替えて貰った。
私の働くお店も今日は一段と慌ただしい。
二軒隣が忍具屋さんと言うこともあってか、来るお客様も多里の忍の人ばかりだ。
店内は本戦の話題で持ちきりで、中には賭事をしている人達もいる。
そんな少し厳つい客層の中を駆け回りオーダーを通していると、見知った髪色を見つけた。
記憶を辿り、ああ、一度来たお客様だと思い出した。
三人で来たのに2人にぎこちない空気を醸し出されていて、でもさして気にした素振りは見せず、ここは飲食店なのに何も食べなかった人。背負っている瓢箪にも既視感。
今日は一人みたいだが、何か食べているのだろうか。というより個室テーブルになっていたから今まで気付かなかったが、何もでていない気がする。
これはまずい。
伝票をキッチンに投げるように置いて、冷茶を持って急いで個室テーブルへ向かう。
「申し訳ありません、お待たせしました」
音を立てずにグラスを置いて、伝票を取り出す。
「ご注文、おきまりでしょうか?」
ちらりと私を見てから、赤い髪のお客様はグラスに入ったお茶を見た。
「…甘くないものがいい」
「それでしたら、こちらの欄からお選びください」
甘いものが苦手なのか。
だからあの時は何も頼まなかったのね、というよりメニューくらい開いてみて欲しい。
そこにはご飯ものから飲み物まで品揃え良く載っているのに。
私が小さなメニューを開いて、指でその品目を囲むと、赤い髪の男の子は、そこから肉巻きキノコを選んだ。少し可愛い選択肢に思わず頬が緩み、そのまま笑顔に変えて注文を受けとった。
***
彼がお会計をするときには、店内の客は疎らになっていた。もうすぐ夕方五時だ。
後数時間後には夕食目当ての客が入ってくるだろう。
私ももう上がりだ。
彼からお金を受け取って、お釣りを渡すときに持っていた飴を二つ、掌に落とした。
男の子は無表情でその飴玉二つを見てから、目頭を少し歪ませて私を見た。
眉毛がないから表情がよく解らないし、なによりこの人表情筋固まっているのではないかと思うほど能面のようにポーカーフェイスだったため、その目元の動きに少し感動に近い驚きを覚えた。
「…なんだ、これは」
「サービスです。お客様、前回も来てくださいましたよね?そこで聞こえてしまったのですが、明日の本戦に出場するとか。ですから、応援です」
そう言って、開きっぱなしだった男の子の手を、飴玉を握らせるように折り込んだ。
男の子はじっと私を見てから、するりと視線を手持ちに落とし、握らせるために重なった自分と私の手をガラス玉のような目で見つめて、小さく口を動かした。
何か言ったのかもしれないが、音にはされていなくて何も聞こえなかったが、再び私を見た男の子は小さく軽く頷いて帰って行った。
きっと口べたか不器用な人なんだろうと思ったら、途端に何だか愛着がわいた。
うずまき君達には頑張って欲しいけれど、彼にも頑張って欲しいと思う。
しかしそんなにも必死になって中忍、というか上の階級になりたいものだろうか。上になればなるほど死亡率は比例するというのに、やはり忍はよく解らない。
レジを締めて、中の人達に声をかけ、ロッカーで着替えていると今やっとあの既視感が繋がった。
「瓢箪!瓢箪野郎!」
うずまき君が言っていた砂を操る瓢箪野郎だ。
そうかあの人が。
しかしどうやって砂を操るんだろう。やはり忍は少し不思議だ。