キバ(nrt) 2013/10了
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キバにも会えず数日が経ち、いのやアンコさんの話を聞くところ、中忍試験が開始したようだ。
諦め切れずにウロウロと試験会場前にいたら、何人かのガラの悪そうなのに絡まれたが、お団子頭の女の子に助けられた。
木ノ葉の額宛てをしていたからきっと木ノ葉の人なんだろう。
一般人が何故此処に?と不思議そうにされたが、兄に着いてきて帰るところだ、と苦しい言い訳をした(女の子は素直に納得してしまったが)。
それから待ってみたけど、キバには会えなかった、が、久しぶりに香燐に会えたからもう良しとしてやる。
サクラちゃんにもうずまき君にも、久しぶりのうちは君にも会えたから良いんだ。
ギリギリとハンカチを噛み締めたい気分になりながらも試験会場を後にして帰ってきたのはつい先程。
え、今?
今はご覧の通り、目の前にこれまた久々な、はーちゃんがいたりする。
はーちゃんは私の顔を見るなり思いっ切り溜息をついてきた。
なんて失礼なんだ!いや、もうはーちゃんと私の間だからね、実の姉妹みたいだから、いいんだけど。
「人の顔見るなり溜息とかなにそれ!」
「ゴメン。でものぞみ、顔色最悪よ。しかもちょっと痩せた?ありえない!もしかして、いや、もしかしなくても、あの馬鹿のせいね」
また溜息をつき、頭を振る。
痩せた、かなぁ?とグニグニと顔を触っていると、はーちゃんは腕を掴んで歩きだした。
いきなりのことに目を白黒させ、縺れながらも慌ててついていく。拉致だ拉致!
「なに、なに?」
「家行くわよ。大丈夫。当分キバは帰ってこないから。あれ?逢いたかったんだから帰ってきてほしいの?」
「もうそれすらわかんないんだよはーちゃん」
「…とにかく、行くわよ。母さんも今日いないから」
なぜだか少し、悲しそうな顔をしたはーちゃんに、私の胸が痛くなったような気がした。
***
ことり、目の前に暖かい湯気が昇るマグが置かれた。
ふわふわと浮かんでは消える白い湯気は水蒸気となって部屋の湿度を少しあげる。甘い香りも広がる。
「あったまるわよ」
「ん、ありがとー」
人は、暖かいと心が安心して素直にお喋りをしてしまうと、聞いたことがある。
そんなことは、はーちゃんは考えていないだろうけど。
マグを手に取り、少しだけ口を付ける。
甘いココアが口の中に広がり、舌にまとわりついた。
相変わらずの犬塚家は少しだけ、ほんの少しだけ、犬クサい。それでも嫌なにおいではなくて、小さい頃から嗅ぎなれた安心するにおい。
それから、案外キバは犬クサくなくて、兵糧丸というよくわからない携帯食の香草臭さと少しだけ香辛料、それと傷薬の匂いがする。
「あんたね、キバのことを好きなのはよくわかってるけど、その想いのせいであんた自身が潰れてちゃだめじゃない」
尤もなことを切り出したはーちゃんに、鼻がつんとした。
「…私、キバの姉じゃなくて、一個人、あんたの友人としてアドバイスするとね」
そこで一旦言葉を切ったはーちゃんは、深いため息をついてから私をしっかりと見た。
「あんなやつ、好きになるだけ無駄。やめちゃったほうがのぞみのためになるわ」
悪いけど、と言ってから珈琲を飲むはーちゃんがぼやけた。
頬が温い。息をし辛い。顎が震える。
ぎゅっとココアのカップを握り込む。
私の方に顔を上げたはーちゃんが、驚いた声を上げてから、私の真横に移動して、床にしゃがんで私の手を握った。
「のぞみ?泣かないで。ごめんね、言い過ぎたみたい」
「……ん、んッひ、ぐす、ううん、ちが、違うのぉ…は、はーちゃ、私、わだしッ、」
「うん」
優しく優しく、私の手を撫でるはーちゃん。
ぽろぽろと私の目は大粒の涙を次から次へと流す。鼻水まで出そうだ。化粧、落ちる。
泣き顔きっと汚い。
でも、それよりも、汚いのは、私だ。
「私、キバのこと、好き。だけど、キバはきっと私のことなんとも思ってない。振り向いて、くれない」
「…うん」
「だから、私も、思った、よ。好きになるの、止めちゃおうかなって」
それは、確かに思った私の汚い部分。
純粋にキバを好きだった私が、隣にいてくれるだけで幸せだった私が、段々と、自分にベクトルを向けてくれないキバに勝手に苛々して。
想いを告げてもなければ、付き合ってもないのに、そんな事を思ってしまった自分に嫌気がさして。
イト達にも言われたから、ストーカーになりたくなくて、試験前に会えたらそれで終わりにしようと思ってたのに。
結局会えなくて、ずるずる引き延ばしてしまって。
元気で素直なうずまき君みたいな人を好きになればよかったのか、なんてバカみたいな自問自答して。
「でも、だめだった、の。私、なんだかんだでやっぱりキバのこと考えてる。キバが好き。辛いのも、受け入れる。…覚悟したから」
そう言って、はーちゃんの肩口に額を置いて自嘲した。
私は、砕ける覚悟は出来た。