青鬼(桃組) 未完
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ザク、ザクと部屋に軽い音が響く。
自分の寮室は真っ暗で、今が昼か夜かもわからない。
私はあの赤鬼のせいで、あれの言葉のせいで、全て嫌になってしまった。
どうして
どうして鬼に魅入られるのか。
前世の業はそんなにも酷いのか。
勿論、今も昔も藤原家は酷い扱いを様々な人にしてきた。
だってそれは自分達が伸し上がる為。
其れの何が悪いの。
力のないものは踏み躙られ、蹴落とされるのは常考でしょう。
かと言って私は人の赤子を殺すだなんて非道な事はしていない。
なにもしていない。
寝取ったことだってない。
世間の噂では酷い言われ様だったけれど、私は来るものを拒まなかっただけ。
それに、あまりにも無知で下賤で横暴な者には対処をしていたから、誰彼構わずではなかったもの。
蒼鬼様はそれを理解したうえで、あの日私を。
私は、道を踏み違えたの?
あのまま、業平様に囚われていればよかったのか、兄様達の言う事を聞いていればよかったのか。
もう何もわからない。
何が正しかったの。
前世の私は、何を思って生きていたの。
この気持ちは今のものなの。それとも昔の。
「も、う…こんな輪廻、立ち切れれば良いのに…」
ベッドへもう一度、鋏を突き立てる。
ザク、と音がして引き抜いたときにいくらか羽毛が舞った。
ああ、これが赤鬼なら。
どんなに喜ばしいのか。
けれど赤鬼に敵意を向ければ宵藍様に嫌われてしまう。
それはだめ。
そんなのは絶対にダメ。
そもそも
桃園君達は桃太郎として、鬼の呪いを解くために。
圧倒的に多くの生まれ変わりはそのような枷を持っている。
それが解けた時、次代の生まれ変わりは平凡に過ごすという。
私は、呪いなどない。
だと言うのにどうして平凡に過ごせない。
あるとすれば、赤鬼が必ず私の近くに生まれ変わってくるということか。
そうか。そうだわ、あの言霊は充分立派な呪いだ。
「赤鬼と…和解をすれば…次代は…もしや」
フラフラと立ち上がり、鋏を床に落とす。
私が動いたことによって床やベッドの上に散った羽毛が舞いあがる。
「随分な病み具合ね、高子」
「…っ」
キイと軋んだ音を立てて窓が開いて、そこから宵藍様が顔を覗かせた。
暗い部屋に、カーテンの間に体を滑らせて窓枠に腰掛けた宵藍様は酷く幻想的で絵画のよう。
「宵、藍様」
「閉じ籠って、携帯も出ないで、一体何をしているのかと思えば…全くあんたも紅も、何考えてるのかしら」
そう言いながら、均整の取れた足を伸ばして私に近付く。
歩くたびに、高く二つに結われた髪が揺れる。
「高子と話がしたいと思ってたのよ。さて、どうしてこうなったのかしら」
立ち竦む私の目の前に来た宵藍様は、私の頬に手を滑らせた。
冷たく細い手入れの行き届いた指先に触れられた私の頬は、一瞬で熱くなる。
思わず撫でる宵藍様の手を取って、握り締めると驚いた顔。私はそのまま細い首の後ろへ手を回した。
ぎゅうぎゅうと抱き締めれば、その体へは簡単に腕が回る。やはり女性なのだ。
私と同じ。
「宵藍様…。宵藍様、私、…今世では願いは叶いませんか」
「……ごめんね」
そう、私と同じだから、今世では私は愛する蒼い鬼の子供を身籠ることはできないのだ。
でもそれでもいいのかもしれない。
決まってどの高子も、三人目が摩り替えられている。
三人目と言う縛りが抑々ない状態であれば、私は赤鬼との子供は授かる心配がない、かもしれない。
別の人と一緒になっていた代の高子は蒼鬼様と会えなかったからだ。
ならば私は。
愛する蒼鬼様と出逢えて、子供の心配もない。漸く今代で呪いは消えるのかもしれない。
「…私、宵藍様と一緒にいられるだけでよいのです」
「馬鹿ね」
けれど宵藍様は、私がいて良かったのだろうか。
あの時、赤鬼は私に好意を告げてきた。
私はてっきり宵藍様と赤鬼は、想いが通じ合っているのだと思っていた。
だって宵藍様は、明らかに赤鬼に心を許しているような風に見えたもの。
そうなると私は、宵藍様にとって邪魔になるの?
赤鬼は私が好きで、宵藍様は赤鬼が好きで、私は宵藍様が好きで、けれど輪廻の因果で宵藍様は私を好きになる。
ああ、でも。
「ごめんなさい、ごめんなさい宵藍様」
「なあに?それよりも、この部屋を何とかしなくちゃね。衛生上ありえないわ!ああ、そうそう。今日は夜も一緒に食べるつもりなのよ」
私と体を離すと、宵藍様は部屋をぐるりと見渡して、ピンと人差し指を立てた。
「…ごめんなさい。有難うございます、私、宵藍様が本当に好きです」
「…どうしたの?本当に。全く、うちのお姫サマはいつの代も不思議だわ」
腕組みをして鼻を鳴らしながら羽毛を摘まみ上げた宵藍様は、きっと私の謝罪の真意なんてわかっていない。
けれどそれでいいの。
それで。
私が、幸せですもの。
*
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