青鬼(桃組) 未完
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「…え、えぇーとぉ…」
暫く宵藍様の腕の中で泣き崩れていた私は、桃園君の声で我に返る。
鶯を扇へ戻して宵藍様から離れて立ち上がり、桃園君達を見据えた。
すると後ろから馬の蹄の音。
首だけで振り向けば悠歌が近付いてきた。
「高子さん、終わりましたか」
「悠歌…うん。人払いしてくれてたのね、有り難う」
「いいえ」
悠歌が私の左隣へ降り立ち、私は再び桃園君達に顔を向けた。
そして、ぺこりと頭を下げる。
「あやふやでしたので、もう一度、私からきちんと自己紹介致します」
下げた頭をゆるりと上げて、各々の目を見る。
赤鬼と目線があったときは、少しだけずらした。
「…国文科二年の藤原高子と申します。二条后こと藤原高子の生まれ変わりです。蒼鬼様…宵藍様との出逢いは伊勢物語にて少し脚色はありますが綴られております」
「少し…って、私は高子を食べたりなんかしてないわよ!」
ふんっと言う宵藍様に、思わず笑みが零れた。
「…ふふ。…それと、その後私は、実は鬼に食べられたのではなく、兄上に連れ出されたとありますが、兄上と二条様の元へ帰った後も、蒼鬼様との情愛は続いておりました」
「…情っ!!?えっ!ちょ、っとまって!たんま!」
「あ、あまりにもな情報で頭が追いつきませんね…」
「要するに、初代の二条后と青鬼が恋人同士だったーって事だろ?で、それも密かなってやつか。報われねぇ関係だもんな」
「ちょ、咲羽!」
桃太郎達が騒ぎ出したが、雉だけがぺこりと私に頭を下げてきた。
それに少しだけしんと静かになる。
「祐喜様の敵ではないのでしたら、私達が敵意を向ける理由が御座いませんわ。祐喜様に倣って…雉乃木雪代、一年生で同じ国文科に御座います。やっとお逢いできた昔年の想い、よくよく理解できますわ」
私達も同じでしたから、とふわりと笑った雪代ちゃんは、とても幸せそうに見えた。
雪代ちゃんに続いて、猿も、犬も名乗る。
「高猿寺咲羽。体育科だ。二条后っつってもただの姫さんじゃないんだな。戦う姫は好意が持てるぜ」
「咲羽お前、相手は二年生だぞ!…ごほん、僕は犬飼雅彦、理数科です」
「…よろしく、お願いいたします、雪代ちゃん、高猿寺君、犬飼君…そして桃園君」
私も笑顔で応答すれば、桃園君は申し訳無さそうにそろりと手を挙げながら私に声をかけた。
「あの、よければそろそろ紅を仲間に入れてやってほしいかなーって…」
「…紅、と言うのは…」
解ってはいたが、一応訊ねる。
ほら、一歩、赤鬼が足を踏み出した。
「…僕が、紅。今代の赤鬼、暮内紅だよ」
私を見るその赤い目は、何かを酷く訴えているようにも見えて、思わず横に視線をずらす。
それでも、赤鬼はまた一歩、私へ近付いた。
「…君は、何時の時代も僕のことをちゃんと見てくれないね…」
寂しそうな声に、ふと視線を戻してしまった。
私が思っていたよりも近くに赤鬼の顔があり、反射的に眉を顰める。
「ちゃんと…見て欲しいのでしたら、私の邪魔をしないで下さいませ」
扇で口元を隠しながら赤鬼を睨むと、横からシュッと手が出て来た。
驚いて身を引き、その手を辿ると桃園君。
桃園君は唇を真一文字に引いて、申し訳ありませんと言った顔をして私を見ていた。
「…何ですか?」
「い、いや!なんか…剣呑な空気でしたので…その、青鬼とそう言うのだったんなら、鬼が嫌いって訳でもないんですよね…?なのに、どうして紅だけそんな態度なのかな…とか…」
段々と尻すぼみになっていき、手もそれに比例して沈んでいく。
最後には小さくなった桃園君に、少しだけ仕方がないという感情が芽生えた。
くるりと後ろを振り返る。
「悠歌」
「はい」
急に話しかけたのに、悠歌は解っていますと言ったような顔をして微笑んだ。
そして、私の隣に立つ。
「この場で長話も如何なものかと思われます。鬼抹テストも終わりましたし、…そうですね、普通科の教室へ行きましょうか」
「こっからならさ、理数科が近いんじゃねぇの?」
「理数科は鳥もちダミーの処理で人が多いのです。普通科の教室は被害がなかったと聞きますし、そちらで」
そう言った悠歌は引き連れていた疾風丸の手綱を引いてから、ひらりと乗る。
そして一度全員を見回してから、私へ手を差し出した。
「高子さん、我々は先に行きましょう」
「…でも」
私が悠歌の手を渋ると、後ろから宵藍様の声が聞こえた。
「乗せて貰いなさい。私達は人より早く行けるし、こいつらも獣基の力を使えばひとっ飛びよ。いくら強くても、高子は人間でお姫様だから」
「宵藍様……わかりました、でしたらお先に失礼いたします」
私は宵藍様の目を見て頭を下げ、悠歌の手を再び取る。
後ろに私を乗せてから、悠歌は皆に声を張り上げた。
「それでは、桃園君、私達の教室でお待ちしてますよ!」
疾風丸の背に揺られて後ろを小さく振り返ると、そこには何ともいえない顔で微笑みを携える宵藍様がいて、私は不意に、顔の見えない前代の蒼鬼様の影がその後ろに立っているように見えた。
私は悠歌の腰に腕を回し直し、額を悠歌の背中につけて堅く目を閉じた。
*