青鬼(桃組) 未完
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私の右手は、蒼鬼様のお顔へ近付く。
「今代の、蒼鬼様は…女性ですのね…」
「あんた、」
その私の指先が、頬に触れるか触れないかの所で私は大きく後退り、鶯を右手に持ち直して体制を整えて前を見据えた。
ゆらりと揺れて流れた、赤い髪。
蒼鬼様の前へ素早く躍り出たのは、赤鬼。
「紅!」
「…チッ」
蒼鬼様が赤鬼の名前を呼ぶ。
彼女に名前を呼ばれたこと、私の前に出て邪魔をしたことなどが重なって、思わず舌打ちをしてしまう。
鶯を持ち上げて輪形を赤鬼へ向ければ、しゃらりと金属のうち合わさる音が鳴った。
「今代の赤鬼も、邪魔をするのですか。それとも、昔のような理由で邪魔をするのではなく…他の特別な理由かしら」
蒼鬼様の可愛らしいお顔と、赤鬼の凛とした男性特有の顔を見比べる。
ぎりり、と私は歯噛みして、手に力が入った。
「特別な理由…?僕は…いや、僕たち赤鬼は…!」
「…れ……ば…」
赤鬼の声がしたけれど、耳をふさぐ。
聞こえない聴こえない、聴きたくない。
ギュッと柄を握り、鶯を回す。
それならば。
「其れならば、あなたは消えて下さいませ!!」
両手でしっかりと柄を持ち、体の前へ横一文字にして出す。
「覚醒具“鶯”、
鶯は軽い爆発音とともに、その両先端が反り返った刃になる。
両薙刀になった鶯を右手に持ち直し、ぐるんと一回転させながら赤鬼へ突っ込んだ。
「うっわぁ!」
「紅!…っちょっと、やめなさい!!」
蒼鬼様の必死な声、それが余計に腹立たしい。
どうしてですか。私達の邪魔をする者は、排除してきたではありませんか。過去と違うことに、苦しくなる。
制止する蒼鬼様の声を無視して、私はそのままの勢いを殺さずに目を見開いて私を見る赤鬼へ鶯を叩き降ろした。
ガキィン!と凄まじい音がして、軽い衝撃波が土煙を舞わせた。
「ッ!!……あなた」
「重いな。女の攻撃にしちゃ」
煙が舞って、見えた先は爪。
私の鶯の刃を、大爪が止めていた。
「…
「悪いね…赤鬼はうちの大将の友達なんだわ。目の前で殺気ムンムンの奴の攻撃黙って見てらんねぇんだよ」
申の面が、ニィィイ、と笑うような幻覚を見た。
キンッと音をさせて爪を弾き、刃を離して距離を取った。
猿の後ろには面を被った犬の獣基と、先程の青い女の子。あの子が鳥の獣基なのは解っていたがそうか、同じ仲間か。
その後ろには、赤鬼と、その横に男の子。
そしてその一番後ろに蒼鬼様がわなわなと佇んでいた。
「それに、…こっちも聞きたいね。何であんたが青鬼を捜していて、赤鬼に刃を向けんのか」
「見た所…二年生としか解りませんが、何の生まれ変わりなのですか?」
「…それと、赤鬼が反撃の気が無いことも、教えていただけると有り難いですわ」
猿、犬、鳥、いや雉か、とくれば先程悠歌が言っていた一年生の桃太郎一行なのだろう。
絶対的信頼、無条件に好かれる主、疑わず傍を離れない獣基。その絆に邪魔など、他者の横槍など一切通用しない、ひとたち。
ただ、ただ素直に羨ましいと思った。
「…私は…」
鶯を通常形の錫杖に戻して右手で持ち、柄を地面へ着けた。
自分の足元を見て、唇を噛んでから、獣基たちに再び目線をやれば、制止の声がかかった。
「待てってお前等!一方的過ぎるって!…あの、俺、普通科一年の桃園祐喜です。桃太郎の生まれ変わりです」
「なんで敬語なんだよ」
「だ、だって二年生なんだから先輩だろ!じいさんばあさんと違うんだし」
「素晴らしい気概ですわ祐喜様!」
「咲羽は見習うべきですよねぇ!祐喜殿ー!」
桃太郎が話し出せば、やんややんやと騒ぎ出す獣基達。
その場違いな賑やかさに私は暫く呆気に取られる。
しかしそれもまた、桃太郎によって戻された。
「で、で、こいつら、桃太郎のお供の犬と猿と雉の生まれ変わりの獣基達なんです…俺、赤鬼…紅は友達だから、その、紅に刃を向けた理由が知りたくて」
呪い関係なら攻略の仕方教えますから!と叫ぶ桃太郎は、本気で必死だ。
私は、少しだけ力を抜いて、緩く首を振る。
「…解かなければいけない呪いは、掛かっておりません…」
「え」
「私は…」
大きく深呼吸をして口を開けば、音を出す前にザリッという砂利を踏む音がした。
視線を彼等から奥へ戻せば、蒼鬼様が一歩一歩歩いてきていた。
たったそれだけのことだけれど、じんわりと目の奥が熱くなる。
蒼鬼様は桃太郎の肩を強めに押して、桃太郎から半歩程前へ出て、私を見据えた。
そしてその形のいい唇を開く。
「…この人は、…二条后…藤原
「…ッ!!」
おぼえて、いてくれた。
「藤原高子?…え、と」
「ざっくり言いますと、平安時代の大貴族ですわ祐喜様」
「貴族!」
桃太郎達が何かを言って騒いだが、私はどうでもいい。
蒼鬼様が、私を憶えていてくれた。
それだけで。
震える脚を叱咤し、私はよろりと蒼鬼様へ駆け寄った。
そして恐る恐る蒼鬼様の手を取ると、途端に膝の力が抜けて座り込む。
「っ!高子!」
慌てた様子の蒼鬼様へ、私は見上げたまま微笑む。
「…憶えていて頂き…真に…真に嬉しゅうございます蒼鬼様…!」
込み上げるものを止める術など知らなかった。
ぼろりぼろりと落ちる涙をそのままに、私は蒼鬼様を見上げたまま微笑む。
蒼鬼様はしゃがみ、私と同じ目線になる。
「…憶えてるわ……今は、竜胆宵藍という名前よ」
「宵藍様…、わ、私は藤原高子と申します。どうぞ、高子でも高子でもお好きな方を」
「…高子ね、逢えて嬉しいわ」
「蒼…宵藍様…!」
宵藍様が、私を優しく抱き締めて、背中を撫でる。
私はそれだけで、一気に胸の靄も蟠りも溶けて消えてしまった。
そう、そうか、私は、ずっと、宵藍様に逢うために、今まで生きてきたのね。
*