青鬼(桃組) 未完
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「お待ちください!!」
疾風丸の嘶く声が響き、悠歌は手綱を強く引いて疾風丸を止める。
そして周りを警備委員会のメンバーが囲み固めた。
「誇り高き警備委員会として申し上げます。一対一こそ武士道の心得!!ならば最初に名乗りを上げた柴浦先輩と京野さんが戦うのが道理…」
声高に口上を述べる悠歌の後ろから、少しだけ顔を出せば、農学科の柴浦ちゃんと厳つい女の子が見えた。
その後ろには沢山の人。
みんな、生まれ変わり組。
私はあまり一年生とは関わらないから同年代しか解らないけれど、今年の一年生は濃いもの揃いらしい。そうでなくとも大半の生まれ変わりが揃うと華やかだ。
「この2人の戦い、警備委員会が仕切ります!!何人も手出しは許しません!!」
凛とした女武将、それこそ巴御前そのもののように悠歌が場を一気に鎮め、各々は動き出した。
幼馴染の活躍に少し誇らしくなって笑っていると、涼やかで澄んだ声が、大きな声量ではないはずなのにやけに耳に響いた。
「ちょっと、私はどうなるのよ!?」
思わずするりと私の手が悠歌の腰から落ちる。
私のその様子に気付いた悠歌はその声の方向から、私へと意識を向けた。
「…高子さん、どうされましたか」
私を気にした悠歌が、上体を捻って私を振り向く。
体をずらした事によって、声の主の姿が見えた。
蒼い髪を高い位置で二つに結い、大きくて綺麗な鎌を携えるその女の子は、額から二本の角が、生えていた。
私の目は大きく見開く。
ドク、ドク、と耳の真横に心臓があるのかと思う程心拍数が大きくなる。
「…高子さん?」
反応しない私に何度か悠歌が呼びかけてくるが、私の喉は砂漠の様にひきつっていて、返事を返す余裕は未だにない。
そうこうしているうちに、蒼い女の子に金髪の男子生徒が話しかけ、また別の青い女の子が現れた。
―――…どこか、どこかで、みた。なんだろうこの既視感。思い出せ、思い出すのよ。それはきっと、とても大事な記憶。きっと二条后の記憶。
大歓声の中、青い女の子と蒼い女の子が戦いを始める。
翼を出し、空を舞い、鎌が空を切り、呪術が飛び交い、砂埃が舞う。
楽しそうに笑いながら鎌を振り抜き、幸せそうな笑顔のその顔。
「悠、歌…」
カラカラに渇いてしまった口で、漸く悠歌に話しかけることができた。
「…はい」
いつの間にか、悠歌は疾風丸から降りていて、私を下から見上げている。
「あれは、誰…?あの、綺麗な、蒼い、角の」
「…一年生、桃太郎こと桃園君に攻略された、青鬼です」
「あお、おに」
パシン、と何かが弾けた。
***
深い深い、気持ちのいい夢を見た気がした。
重い着物を引きずり、何とか縁側に立った私が見た先に、深い蒼い髪の男性が、涼やかに微笑み、紫陽花の世話をしていた。
それを見て私も穏やかに笑う。
御簾を上げて外へ少し顔を出せば、男性は吊り眼がちの瞳を丸くさせ驚いた顔をしてから慌てて私の元へ駆け寄り、ふわりと羽衣のような薄布を頭に被せた。
そして私の頬を骨ばった大きな手で優しく撫で、「盗られたら困る」と涼やかな声で語りかけた。
胸はいっぱいになり、一筋の涙が落ちた。
端に、赤をみた気がする。
***
気付けば私は疾風丸から降りて、ふらりと観衆の外に佇んでいた。
舞う。舞う。青が。蒼が。舞う、笑う。
私が、ずっとずっと捜していた人。
突然、ピー!という甲高い笛の音。
決闘を終わりにさせる合図だった。
「!」
笛の音で気が戻った私は、脚に力を込めて勢いをつけ跳躍した。
下からざわりとした声が聞こえる。
合図によって戦いは終わっていて、土煙は消えていた。
視界良好、目測はそのまま、蒼い、鬼女。
腰に取り付けてあったホルダーから、扇を出して開き、掌を翳して扇の真ん中、桜の木の絵から鶯を取り出す。
鶯を軸にして、青鬼の前へガガッと音を立てて着地した。
しん、と静まる周囲。
扇をホルダーに戻した私が一歩足を出すと、しゃらん、と鶯の遊環が音を立てた。
「錫杖…?」
誰か、男の声で聞こえた。
青鬼は目を見開き、私を、その綺麗な大きな目へ入れた。
青鬼の視界へ私が入る、それだけでざわざわと腹の底が疼く。
「あ、お、鬼…さん」
一歩、また近付けば、青鬼はふるりと唇が震えた。
「あんたは…」
澄んだ声。
私の視界が歪む。
「あ、ああ…ッ……嗚呼…!幾年、幾年月、…あなた様を捜しておりました…!」
ざわり、空気がざわめく。
けれど私には何も聞こえず、彼女へまた近付きそっと右手を伸ばす。
「やっと、お逢いする事が、出来ました…
*