道連れ(三年) 2017/07了
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・・・。
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気付いたら、同室の姿はいなくなっていた。
僕が帰ると絶対に僕の存在に気付いてくれていた、彼…ああ、そう、藤内。
藤内が、いなく、なって…ううん?
いなくはないか。
いつも絶対僕の、ことに、気付くから、僕の傍に、いるはず。
たまたま、今は任務でおつかいで、あれ、おかしいな、それだったら僕に声がかかっても、ああそうか、僕、影薄いから呼ばれなかったのかな。
どうしよう、藤内がいなくちゃ、僕誰にも存在を認めてもらえない。
どうしよう、いやだ。
そんなのって。
僕が頭を抱えて、一人で部屋の中の真ん中で座っていると、いつの間にか部屋に一筋、月明かりが入っていることに気付いた。
変だな、僕、しっかりと障子を閉めたはずなのに。
そろそろと体を崩して、障子に近付いて締める為に手を伸ばす。
「数馬」
僕の耳元すぐ後ろから、その声は聞こえた。
沼から上がったような気持ちの悪い水っぽさと、泥の様なかすれた声。
ぞわりと一気に背筋が粟立ち、指先一つ動かすのも怖くて、目玉だけがぎょろぎょろと動いた。
誰だ、誰だ。
知っているような、知らないような、妙なこの声は一体。
「数馬。数馬、ここにいたの。一緒に行こう。数馬、みんな数馬を待ってるよ」
左耳を掠めて、吐息が通りすぎていく。
すぐに僕の左肩に生温いなにかが置かれた。
そこで弾かれたように肩を見ることが出来た。
白い、ぐずぐずした手が乗っている。
そのまま体を反転させれば、ああなんだ、彼か。
いつもの同級生だ。
「数馬、行こう」
そこでやっと僕は自分に問いかけられている内容を理解した。
「…ど、こ…に行くの」
久しぶりに声を出したような気がした。
喉がひりつく。こくりと、部屋中に響いたのではないかと思うくらいの音で唾液を飲み込んだ。
「どこって、みんなのところ…ああ、そうそう。藤内が待ってるよ。数馬のことを心配していたよ。私もだけど。私も藤内も、数馬のことが大好きだからね」
大好き。
そうか。
好きか。
僕の事を見てくれているのか。
そうか。嬉しいね、嬉しいな。
さっき気にしていたんだよ、藤内のこと。
その藤内がいるなら行かなきゃいけないね。
うん。僕行くよ。
だって、僕独りぼっちは嫌だもの。
藤内と小賀がいるところなんでしょう。
僕は一人にならないでしょう。
「うん、連れて行って」
ふわふわする。
小賀がにんまり猫のように笑う。三日月のようだなあ。
そうだ、月見団子を食べよう、僕と、藤内と、小賀とで。
きっと幸せだよ。
僕は小賀の蛞蝓の様な質感の手を握った。
・・・・。
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