道連れ(三年) 2017/07了
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あれ、は、だめ。
僕にはわかる。
きっと、ろ組の奴らもわかっている。
虎若は気付いていないけど、僕にはわかる。
伊賀崎先輩に、最近妙な影が被さっていることに。
ううん、伊賀崎先輩だけじゃない。
他の三年生にも、被さっている。
神崎先輩や、富松先輩は他に比べたら薄いけど、伊賀崎先輩と、浦風先輩はとっても濃い。
そうして、三年生の先輩たちがよく話しているところに、見知らぬ人が立っている。
それは凄く気持ちが悪いものだった。
妙に細い手足。
手は大きく骨ばっている。
体の大きさは三年生のみんなと一緒くらい。
顔は、見えない。
見ようと頑張っても、黒いぐちゃぐちゃしたものが纏わりついていて、何も見えない。
そのぐちゃぐちゃは、よく動く。
あれは、なんだろう。
そもそも、男か女かもわからない。
首から上がよくわからないのだ。
けれど先輩たちと同じ萌黄の衣を着ている、様な気がする。
それもよくぶれてしまうから、実際は別のものを纏っているのかもしれない。
いずれにせよ、アレは悪い者だ。
「伊賀崎先輩」
「…ん?」
僕は必死に父さんの檜扇の欠片を握り締めて伊賀崎先輩に語り掛ける。
父さんの霊力が詰まった檜扇を少しだけ欠けさせて貰った小さな欠片は、僕を悪いものから遠ざけてくれる。
今の伊賀崎先輩に話しかけるのも、これがないと怖かった。
「…気を付けてください。最近、よくないです」
今はあのよくわからない黒い人はいない。
今くらいしか、時間はない。
「なにが?」
「何がって…あの…」
先輩は、首に、ジュンコがいないことに気付いていないの?
僕が話しかけたことで、孫次郎がちらりと僕を見た。
きっと孫次郎も気にはなっていたんだろう。
「ジュンコ…どうしちゃったんですか?」
「ジュンコ?何言っているの三治郎。ジュンコならちゃんとここにいるじゃない」
伊賀崎先輩は、そういうとうっとりした表情で首元の空間を撫でた。
ソコ、にはなにもない。
ねぇ、伊賀崎先輩、そこにジュンコはいないんだよ。
何を見ているの。
ナニを見せられているの?
「…せ、んぱい…お願い、先輩。ちゃんと見てください」
「……ヘン、な三治郎」
「先輩!」
伊賀崎先輩はそう呟くと、ふらふらと畑の方へ去って行ってしまった。
僕はその後ろ姿をじっと見つめ、その背中に黒い濃い影が増幅したのを確認した。
ああ、気持ち悪い。
伊賀崎先輩と入れ替わりで、静かに孫次郎が近付いてきた。
「…さ、三治郎。伊賀崎先輩…」
「怖いね…僕じゃどうにもできないよ」
「…一番黒いよ、伊賀崎先輩…三年の中でも…」
「…知ってるよ」
僕は、知ってるよ。
どうにもならないかもしれないけど、先輩が少しでも気付いてくれるかなって。
けど。
「三治郎、先輩…連れていかれちゃう」
「…でも、けど…」
じゃあ、どうすればいいんだ。
僕じゃ何もできない。
なんでか知らないけど、アレはいつの間にか三年生の場所に貼り付いていて、入り込んでしまっていて。
僕なんかじゃ、なんにもできない。
「見えてるだけなんて、なんにも…意味ない」
先輩たちが引きずられない様に出来る力があれば、こんなに苦しくなくてすんだのに。
「伊賀崎先輩は……」
しあわせなのだろうか。
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