道連れ(三年) 2017/07了
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そう言えば最近よく見かけるようになったような気がするあいつ。
聞けば昔からいるとのことだったけど、俺の記憶にはあまり残っていない。
まぁそもそも組が違うからそんなものか、とも思ってあまり深く考えなかった。
それに、そんなどうでもいいことを考える前に、俺にとってはあいつは大事だ。
だって、あいつのヤマ勘は凄い。
頭がいいからなのか、次の試験で出そうなところも大抵ドンピシャだった。
基本的に授業中は眠いし、実技なんてなんでか知らないけど作兵衛がいないと実技演習場に辿り着けやしない。
だから基本的に試験で挽回しないといけない俺からすれば、あいつは物凄く重宝していた。
何だかんだ頭はいい左門は別に頼ってはいなかったけど、作兵衛と俺は基本的に試験前はいつもあいつのお世話になっていた。
何度世話になっても、嫌な顔一つせず、笑顔のままきちんと教えてくれて、ここら辺を重点的にと言ったヤマ勘戦法もよく当たる。
俺達に教えたって、俺達がいい成績をとったって、こいつには何の得もないのに。
不思議だなぁと思いながらも、重宝するし、いると便利だし、迷わないし、嫌な顔しないし、楽だし、別、に。
「いない、と困るっちゃ困るな」
呟いた言葉は宙に溶ける。
割と最近仲良くなったと思っていたけど、もう随分と昔から一緒にいるかのようにあいつは溶け込んでいた。
それはどうしてだろう、なんて俺の無い頭では考えつかないから、あまり理由は問いたくない。
疲れるだけだ。
それに、あいつの隣は居心地よくて、怒らないし、煩くないし、笑ってるし、よく話しよく聞くし、頭良いし、俺をすぐに見付けてくれるし、この残暑の中あいつの近くはどこか涼しいし、気持ちいい。
「あー…やっぱ、いないと困るな」
というか、いてほしい。
近くに。
なんだろう、あの安心感。
絶対に何があっても隣にいてくれるであろう安心感。
多分、こっちから手を伸ばしたらすぐにでも掴んで離さないような、そんな安心感。
後ろに倒れ込んで、畳の上で天井を見上げれば、そこにあいつの顔が逆様に現れた。
素直に驚いた俺は、目を見開いて固まる。
にんまりと笑ったこいつは、妙な声で「何してるの」と聞いてくる。
「ぁ、ああ、別に何も」
まさかお前の事を考えていたなんて言えるわけでもなし、俺は静かに当たり障りのないことを口にする。
するとこいつはにんまりと笑みを更に深くして、そっと手を伸ばしてきた。
俺の前髪に、触れるか触れないかくらいで手を止めたこいつは、「ねえ」と呟く。
「三之助、髪に触ってもいい?」
「は?や、別にそんくらい…いいけど」
わざわざ許可取るようなことか?と呆れていれば、嬉しそうに笑って、そのひんやりとした指先を髪に落とす。
触られている、と思った瞬間なんだか物凄く寒気がした。
ぞわりとした肌が粟立つ感覚に気持ちが悪くなって、思わず俺はその白すぎる手を叩いて払ってしまう。
「……さんのすけ?」
「…あ…いや、その…」
眼を大きく開けすぎて、目尻が少し痛い。
何だったんだ、さっきの感覚。
慌てて寝ころんでいた体勢を変えて、こいつから少し離れた位置に向き合って座り直した。
それでも片膝を立てていたのは、本能的にすぐに逃げ出せるようになのか、よくわかっていない。
だって、そもそも、逃げ出せるようにって、ナニから?
「…ご、めん」
振り払った事、あからさまに距離を取ったこと、気持ち、悪いと、思ってしまった事。
俺が小さく謝れば、こいつは少しだけ不思議そうな顔をしてから、すぐにばかりと口を開けた。
真っ暗な口の中は、赤みが見えない。
ぼかりと深い洞窟が口の中に広がっているような奇妙な咥内だ。
「な、にを」
「あーあー…あー…あーあーあーあー」
こいつは妙な声を上げて、高いような低いような声で呟くように声を出す。
発声練習のようなそれは、俺の心臓の下にやけに響き、そうして焦燥感を煽る。
「や、やめろ。なんだよ、やめろよ…!」
「あー…」
視線は天井を向いて、口だけは俺の方を向けて発声するこいつは、俺の制止の声に気付くと口を開けたまま黙った。
そうしてきょろりと目玉を動かして、俺をじっと見る。
「……三之助は、ぁー…」
ド、ド、ド、と無駄に心臓の音が響いた気がした。
「カワイソウだねぇ…?かーわいそ三之助」
「…は、あ?」
何が。
一体何が可哀想なんだ。
俺が怪訝な声を出したのを最後に、こいつはその妙な顔と声を止めた。
「三之助、ご飯食べに行こう。私はお腹がすいたな。作兵衛も、呼ぼうか、神崎君も」
「…あ、ああ…」
何事もなかったかのように、コイツは立ち上がり、そうしてちょっと迷ってから俺に手を差し伸べた。
俺はその白すぎる手に、とても悩んだが、静かに重ねた。
さっきの罪滅ぼしも兼ねて。
「…可哀想、三之助」
「は?さっきからそれ、」
「行こう」
「おい!」
俺の言葉を最後まで聞かず、強い力で引っ張って駆出したこいつが、にんまりと濃い笑みを浮かべているのには気が付かなかった。
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