道連れ(三年) 2017/07了
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遠い昔に、子供と大人の境で死んでしまった人だけが埋葬される場所があった。
埋葬とは言っても、人里離れた山に打ち捨てるだけで、その後特に念仏を唱えたりご供養に行ったりなどはされていなかった。
何百、何千と打ち捨てられた山は、先の子供の骸で埋め尽くされ、棄てる場所がなくなった。
そうして次からは海に沈めに行くことにした。
いつからか、その山には妖が出ると噂になった。
人を浚うのだそうよ。
子供と大人の境の子は、よくよく気を付けること。ほうら、また一人いなくなった。
必死に野山を駆け回って、藪を突き抜け、頭に草を引っ付けた富松は、不意にその怪談話を思い出した。
どの山の話だったかは忘れたが、死体を山に打ち棄てるのはよくある話だ。
親戚類縁がいない者は特にそうで、死んだ体を山に打ち棄てておけば、野生の動物に食われていつの間にか消えてくれるからだ。
しかしあの怪談話に出てくる、子供と大人の境と言うのが富松には解らなかった。
子供でもなく、大人でもない者を棄てる山。
姥捨て山や子棄て山は口減らしなどでよく聞いたが、その歳限定の棄て山の話など、今まで聞いたことがなかった。
「…そもそも、子供と大人の境ってなんだってんだよ」
怪談話に文句をつけながらも、ひたすらに山の獣道を進む。
「だーっ!どこにいんだよあのバカドモ!」
別に富松は好きで獣道を進んでいるわけではなかった。
同室である迷子二人が行方不明になっていたため、昼過ぎから探し歩いていたのだ。
午後の授業が終わり、外での訓練となった時に我先にと駆出した二人を、富松は見逃していた。
教員と先程の授業内容について少し相談をしていたためだった。
他の同級生が気付き、戸惑いがちに富松へ報告をしに来てそこでやっと発覚したのだった。
実技担当教師からは探索許可は得て、授業丸々潰して探しに出たのが昼過ぎだった。
今、上を見上げれば一番星が出そうな頃合いだ。
黄昏。
これ以上陽が落ちると全く姿は見えず、音と気配で探さなければならない。
富松は段々と焦り始め、再び山の上手へ駆出した。
瞬間、何と無くぞわりとしたものが首筋を撫でた。
ぴたりと富松の足が止まり、息を殺して辺りに神経を張り巡らせる。
ド、ド、と自分の心臓の音が耳に聞こえてきたころに、やっと自分以外の声が聞こえたことに、妙に安心した。
それが人の言語だったのと、自分達と同じ年代のような声色だったというのもあった。
「何してるの?」
その声は少年と少女の間のような声だった。
後ろからかけられた声に、ゆっくりと富松は振り向き、その先を見る。
そこには自分と同じ学年色の衣を纏った少年が立っていた。
少年と認識したのは、同級生だと思ったからだ。
顔の作りはどちらともにも見える。
自分の組にいたかは覚えていないが、い組かろ組だろうと憶測をし、富松は詰めていた息を吐いた。
「…ぁ…迷子を…、次屋と神崎を見なかったか?」
悪い意味で有名な二人だ。
相手は名前も知らない同級生だが、二人の事は知っていると思ってだった。
案の定、目の前の同級生はあの二人の名前に小さく頷いた。
そうしてにんまりと笑う。
「知ってるよ。さっき向こうで見たよ。一緒に探そう?」
「本当か!ありがてぇ…!」
同級生が手を差し伸べ、富松を見れば、何の躊躇もなく富松は手を取った。
「そう言やぁ、おめぇ名前は?どの組だ?ろ組じゃねぇよなぁ…」
これでろ組であれば、確実に機嫌を損ねられるが、富松にはなんとなく自分と同じ組ではないという勘があった。
理由は解らなかったが。
「ああ…その前に、君も名前を教えてよ。下の名前、知らないんだ」
同級生が先導しながら、山道を降りていく。
ザクザクと下草を踏み鳴らす富松に対し、同級生は静かに歩き、獣にも気取られない位の気配の薄さだ。
富松は感心しながら口を開く。
「俺は作兵衛。富松作兵衛だ」
「作兵衛。宜しくね、私は」
ガサリ、同級生が答えるより先に、近くで茂みが動き、二人はピタリと止まる。
しかしそれもすぐに富松の叫び声で動きを再開した。
「こんの…っ馬鹿野郎共ぉぉお!」
茂みから飛び出たのは探していた迷子二人組。
頭からつま先まで泥だらけで、木の葉も数枚つけている。
なんにせよ、二人揃っていたのは僥倖だった。
富松はぱ、と繋いでいた手を離して、二人に駆け寄り、素早く縄をかけて縛り上げる。
「いっってー!作兵衛痛い!」
「おい作兵衛、競合区域が移動したぞ」
いつもよりきつめに縛られた神崎が嘆き、次屋はぼんやりと間抜けたことを言った。
富松の顔に青筋が何本か浮かんだ。
「まあまあ、見つかったし、帰ろうよ」
「ぐ、う…!そうだな…言う通りだ…おいおめぇら!授業は終わっちまったし、もうそのまま帰るぞ!今度は食堂も閉まっちまう!」
同級生に諫められ、富松は震える拳をなんとか治め、二人の縄をぐい、と引っ張り上げて先導し始めた。
「あれ?お前誰だ」
「本当だ。俺らの組だっけ?」
ずるずる引っ張られながらも、二人は後ろについてくる同級生を初めて気にする。
キョトンとした顔で双方から見られ、同級生は肩を竦めて苦笑いをした。
「昔からいたよ。こんなに沢山お喋りするのは初めてだね。組が違うから、機会もなかったね」
その思ったよりも柔らかい言葉に、二人は何となく安心した。
そうして、前を歩く富松が大きな声で「さっさと歩け!」と叫ぶ。
「はーい!そうか、じゃあ初めましてだな!今日から宜しくな!」
大きな口で富松に大きな返事をしつつ、神崎は後ろを歩く同級生に笑いかける。
「うん…。ねぇ、どちらが神崎でどちらが次屋?噂は知ってるけど、ごめんね、把握していなくて」
次屋が目を少しだけ開いて、まじまじと見る。
「噂?まあいいや。俺が次屋。次屋三之助。で、こっちが」
「神崎の方だ!」
次屋の声に被せるように神崎が答えると、同級生はにこりと微笑んだ。
「そう、宜しくね。三之助、神崎」
学び舎はもうすぐそこだ。
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