姉上御楼上 2017/04了
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「どこなのよ」
すたり、と最小限の音を立てて太めの木の枝に降りたった五月は、目を細めて下を見回す。
さわさわと風が枯れ葉を揺らす音と取れて落ちていく茶色い葉。
もう殆ど禿げ山と化した裏裏山は完全に冬の装いだ。
五月は少しだけ身震いをした。
陽が落ちるのも早い、早く見つけなければ、と少しだけ溜息を吐いてから地面へ降り、駆け出した。
五月は枯れ木の山を走り抜けながら、萌葱色を探す。
先程学園でのんびりしていたら、最愛の弟である滝夜叉丸に、次屋捜索を手伝ってほしいと言われたのだ。
なんでも委員会途中にまたはぐれて、滝夜叉丸がどれだけ探してもなかなか今回は見つからないとのことだった。
七松は委員会終了後すぐに中在家に引き連れられて学園長直々のおつかいに出掛けてしまったため、滝夜叉丸と五月の平姉弟は、二人で次屋捜索に出たのだ。
「…滝ちゃんの手を煩わせるだなんて次屋君も困った子ね」
ぶつぶつと文句を言いながらも、五月は必死に目を凝らす。
これが相手が上級生ならば殺意の籠もった目つきになるだろうが、相手は下級生、まだ五月の心情は穏やかだった。
「どっちだー!」
「え?」
急に聞こえた声とともに、真横から何かが五月の体へ体当たりをぶちかました。
瞬時に受け身の体制に入った五月は、特にダメージを受けなかったが、それでも猛スピードの人一人を受け止めきれる体格はしておらず、地面に転がった。
「いっ、…た…!」
「いたたた…!わああ、すみません!」
ぶつかってきた人間は慌てて五月の体から降りる。
「大丈、夫……ん?神崎君?」
「はい!五月先輩ですよね!前会計委員会に来ていただいたと聞いたのですが、お会いはできませんでしたね!」
五月が神崎を確認すると、神崎は満面の笑みでいい返事をする。
ぶつかってしまったことなど、ポンと忘れてしまったようだ。
「そ、そうね。神崎君、なにをしていたの?」
「食堂に向かってます!」
ここは裏裏山なんですけど、と五月の頭に言葉が流れたが、この子は決断力のある迷子であると思い出し、頭を抱えたくなった。
「と、富松君は?」
ゆっくりと立ち上がりながら、土を払い落とす。
「用具の仕事とかで食満先輩にかり出されてました!」
「そう、解ったわ元凶は食満よ」
五月はいつもの如く全ての責任を六年生に擦り付けた。
神崎はその発言をさして気にせず、きょとりと首を傾げる。
「そういえば、五月先輩はどうしてここに?」
「私?私は次屋君を捜していたのよ。あの子、委員会途中で消えちゃったらしくて、滝ちゃんが困ってるの。滝ちゃんを困らせるだなんて、本当困った子よねまったく」
「三之助?さっき見ましたよ?」
「ええ!本当どこ…あ、やっぱりいいわ。神崎君、食堂の終了時刻まで時間があるから、私と一緒に探してくれない?」
「いいですよ!」
あっさりと神崎は頷き、五月の手を取る。
五月は神崎の柔らかい手の中にあるゴツゴツとした男の部分に少し顔をしかめたが、仕方がないと割り切り、今度はゆっくりと歩き出す。
「五月先輩は、本当に滝夜叉丸先輩のことが好きなんですね」
「ええ。滝ちゃんのためなら何だって出来るもの」
「ひえー」
凄い凄い、と神崎は真面目な顔で頷くと、五月は気分が良くなる。
大抵の人間が、五月のこの発言を聞くとげんなりとするので、神崎のような反応は五月からすると嬉しいものだった。
いや、比較的に盲目対象がいる伊賀崎や山村や佐武、久々知などはこの五月の言葉には理解を示してはくれるのだが。
「神崎君は優しい子ね」
思わず、五月の口から零れる。
神崎は何が?という顔で五月を見上げた。
「だいたい皆、鬱陶しがるでしょう」
「でも、それ、僕にとっての作兵衛だなって思うと納得できますもん!」
ぴたり、と五月の足が止まる。
それに伴って、神崎の足も止まり、神崎は満面の笑みで五月を見た。
「僕、作兵衛に一番迷惑かけてるなってよくわかってます。迷ってどこかわかんなくなっても絶対作兵衛が捜してくれます。その時は凄く怒ってるけど、でもすぐに笑うんです。三之助も凄く感謝してるんです!言わないだけで。だから、僕も作兵衛が困ってたら何だってしてあげたいし、なんだって力になってやりたいんです!」
「神、崎くん…」
五月の心の中はほわりと暖まる。
「さ、早く!三之助きっと腹減らしてます!僕もお腹すきました!早く見つけて滝夜叉丸先輩に三之助渡して、それから皆でご飯食べましょう!」
ぐいぐいと繋いだ手を引っ張る神崎に、五月はこくりと頷く。
「そうね、そうね…!滝ちゃんと神崎君と次屋君と、時間が合えば富松君ともご飯食べましょう」
「はい!きっと三之助はこっちです!!」
「神崎君そっちは来た道よ!」
バタバタと走り出す神崎に、声を大きくしながらも、五月はにこやかな笑顔で真っ直ぐ走り出した。
直後、遠くの方で狼煙が上がった。
(滝ちゃんが次屋君見つけたわよ!急ぐから抱えるわね!)
(うわぁああ!!)
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お姉ちゃんと神崎との距離が凄く近くなってやきもきする滝ちゃん