無変換だと本名は千鶴(ちづる)、審神者名は花車(はなぐるま)になります。
花車
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――文月某日
第一陣の祭り旅行からすぐ、第二陣が出発することになった。
第一陣と違うのは行く目的地なだけで、帰りが間に合わないので祭り後に宿泊すること、他荷物の準備や前回のことを踏まえて資金換金を多めに申請してなど、やることは沢山あった。
「祇園祭は何回か行ったからね、任せてよ!」
花車が鼻息荒く言うが、安定が蛍丸の帽子をチェックしながら「沖田君の何か買ってきて」という言葉で勢いは削がれた。
横で大荷物に凭れて座っていた小狐丸と、並んでチェックリストを確認していた加州と長谷部が冷めた目を向ける。
「あのさあ…何度も言ったけど、主は祇園祭に行くの。新選組関連のどこかに行くわけじゃないんだって」
「そうだぞ。そもそも元の主の何かとは一体なんだ。希望が不明慮すぎる」
「難儀な奴じゃのう…元の主と縁が深すぎるのも考えものじゃな」
三者三様に安定へ非難をすると、安定は怒ったように頬を膨らませて「僕は行けないんだからそれ位良いじゃん」と文句を零す。
うーんと腕を組んで悩んでいた花車が、ポンと手を叩く。
「羽織とか!」
「…主って目、見えてる?」
「うわ失礼! ていうかそっか、出陣するとき羽織ってるじゃん…だんだら……じゃあ他に何があんの……沖田総司のブロマイドとか…?」
「えっ」
「…えぇ…」
あからさまに喜色の色が浮かんだ安定に、花車と加州はドン引きする。
長谷部が「そんなもの欲しいのか…?」と心底怪訝な顔で安定に訊ねると、少しだけ顔を赤らめて「いや、あればだよ! 勿論、あればってはなし!」などと言うが、否定しないことでその要求が明確になった。
「お、おっけ…もし見つけたら買うね……」
「うわぁ、ありがとう!」
「…う、うん」
素直に喜び、目を輝かせた安定にもうなにも言うまいと皆一様に口を閉ざす。
長谷部が「元の主の写真などいるか? 今の主のものであれば欲しいが」と言って蛍丸から気持ち悪いものを見る視線を受けていた。
「ねぇ、今回は祭り後に泊まるんだよね。場所ってどこなの?」
蛍丸が興味深げにタブレットを覗き込む。
「それがさあ……最後の最後で空きが出てくれたから取れたんだけど四条烏丸にあるホテルなのよ! めっちゃ近い! そんで人気だし、部屋の窓から祭りが見れる! けど一つ問題が…」
楽しげな顔から一気に真面目な顔になった花車に、聞いていたもの全員が真剣になる。
「部屋割りが4人1つじゃなくて、ツイン2つしか無理でした! なので誰か私と相部屋です!」
花車以外には衝撃の発言だったようで、全員が一瞬黙った後に、叫ぶなり目をかっ開くなり口をあんぐり開けるなり様々な反応を取った。
「…そんなに? この前行った時も相部屋だったじゃん」
「いやいやいや! ちょっと待ってよ主! 前とは違うから!」
「そうだよ! 前は4人1つでしょ?! 今回は2人部屋ってことなんだろ?!」
加州と安定の勢いに圧倒されながらも、花車はコクコクと頷くと、「間違いは絶対にないから…」と呟く。
「あるわけないしさせるわけないだろ!」
「あったらすぐわかるから、帰ってきたときお互い覚悟しなよ! 特に小狐丸!」
加州に指をさされた小狐丸は少しだけ片眉を上げたものの、すぐに嫌そうな顔をする。
「……何故
「小狐丸さん、なんだかんだ一番主に近いし引っ付いてるからだよ」
「そう。色々見ててわかりやすいんだよなー…ああーダメだ、不安しかないんだけど。ねえ主、今から格安でも何でもいいから4人部屋とか探しなよ」
「ええー! 無理だよもう今日だもん! バカなこと言ってないでもう行かないと間に合わない! ほら行こ行こ」
徐々に険悪な空気になって来ていたので無理矢理終わらせ、花車が3人を引き連れて本丸から万屋へ移動し、さっさと市駅に向かう。
前回と違って朝方というのもあって人通りはあり、閑散とした雰囲気はなかった。
ここから石見銀山へ向かう観光団体なども駅前にはいたので、大男二人を引き連れた女と子供の組み合わせは不思議に見えるのか無遠慮な視線がビシビシ向けられる。
「ある……ん゛ん゛っ……花さん。あまりに不躾であれば苦言を呈してまいりますが」
「いやいや! やめよ。そういうのが一番ヤバイから。見られるのわかってたことなんだからしょうがないよ」
半袖シャツを羽織った長谷部が眉を寄せて周囲を見れば、視線はさっと消える。
こちら側の事を「変」だとか「怖い」だとでも思っているのか、気にはするけれども、チラチラ伺うくらいだ。
田舎だから仕方がないと割り切り、時間もギリギリなので小走りにホームへ向かうと、2分後には黄色と藍色の特急が滑り込んできた。
鳥取行ということで、人は多いもののそこまでではなく、前回と同じく指定席をボックス席に変動させて腰を落ち着かせる。
「聞いてはおりましたが、電車とは斯様に速いんですね。移動時間も短縮されるわけです」
「だよね。若い人たちが、日本って狭いなーって思うわけだ」
「…蛍くん、あなたも十分若いんだからね……見た目7歳くらいって理解してよ……」
今回の旅行メンバーはもしかしたらかなり手綱取りが難しいんじゃ、と若干花車が不安がっていれば察した小狐丸がキャップの下から人のいい笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。花さんが困るようなことには致しませんので。私も長谷部も蛍も、きちんと心得ております」
「アッ、ハイ…」
にこにことしながらお茶を開ける小狐丸は、その白く長い髪をまとめ髪にして黒キャップの下に潜り込ませている。
毛量も多いので大変苦労したが、なんとか花車がまとめ上げ、背後から見れば項に白銀の毛がちらりと見える程度になった。
そもそも小狐丸も長谷部も顔が非常に良いので、派手髪であってもアイドル路線のヘアスタイルということで、周囲も納得するはずだ。若い女の子などからは別の意味で密かに騒がれるかもしれないが。
長谷部はその煤色の髪がアッシュカラーなのでそのままにしたが、蛍丸だけは外見年齢的にプラチナブロンドがアウトだ。
目の色や顔の作り的に、北欧や東欧の子とでも言ってしまえば納得してもらえるかもしれないが。
もし万が一にパスポートなどの提示を求められでもすれば面倒なので、やはり目立たず周囲と調和して行動するしかない。
我が子だと説明しても、小学一年生に染色ならまだしも、このような白銀の派手な染色、カラコンなど絶対に怪訝な目で見られるだろう。
そのためなるべく背後からも分かりにくいように、つば広のグレー迷彩のサファリハットを被せた。これで背後からは絶対にバレない。正面から見ても前髪がちょろっと出ているくらいなので、帽子を脱がない限り絶対にわからないだろう。
蛍丸に関してはカジュアル系ゆるコーデが出来たので花車的には大満足だった。そしてさり気無く自分も同じようにゆるコーデにして、蛍丸と服の色をリンクさせた。親子と間違われるのは必至だろうなあと思うが、何も困らないのでそれでいい。
問題はこの男二人のどちらかを周囲が旦那認定してくることだ。
またあの新幹線のようなことが起きるのは避けていきたいと思い、今回は行きも帰りも蛍丸には窓際を座ってもらうことにした。子供(見た目だけだが)が通路側にいると話しかけてくる中年以上の女性が必ずいるからだ。
「一時間足らずでもう松江まで行くのですね…」
「そーだよー。私もこっちから京都に行くの初めてだからどういうルートなのか知らないけどね。関東方面からだったから…長谷部さんは実家九州だっけ」
「…はい、福岡です」
「あっ、じゃあこの間私、長谷部さんの地元にいたんだね!」
「俺も九州だよ。阿蘇!」
「おお、確かにそうじゃんね」
蛍丸は復元刀ではあるが本歌と同等のためにそれが本霊となっている。
お互いに地元では何が有名か美味しそうなのかなどを語りつつ、2時間強の移動はすぐに終わり、一旦乗り換えの駅につく。ここでは次の乗車時間まで1時間半ほどあるので、お昼ご飯の調達とした。
「倉吉駅ってなにがあるんだろうねーっと、案内板発見」
駅近隣には沢山の飲食店や土産物やが並んでいることがわかり、どういう系統が食べたいか意見を出し合う。
結果多数決で和食が良いとのことだったので、駅から南に徒歩5分程の和食料理屋に決めた。ランチがやっているか微妙だったが、そこは駅前店、ちゃんと営業をしており一安心しながら店内に入れば、個室に案内される。
全員が蕎麦定食を頼むと、丁寧で迅速な対応で持ってきた女性スタッフがワゴンに乗った定食を静かに全員の前へ並べると、丁寧なお辞儀をして透かし扉を閉めて出て行った。
艶やかなザル蕎麦と、季節の魚と野菜の天ぷら、小鉢に入った煮物、茶わん蒸し、別皿に自然薯とろろがついた定食はとても美味しそうだ。とろろの上に乗ったウズラの卵黄がつるんとしていて綺麗に見える。
個室だということで蛍丸と小狐丸が帽子を脱ぎ、各々境目を指先でいじった。
「いただきます」
花車が率先して手を合わせると、それに倣って全員が手を合わせて箸を持つ。
一通り蕎麦を啜り、揚げ物を咀嚼し、小鉢の煮物を噛み締める。
前の時も時間に余裕があればこうやってゆっくり美味しいランチなりに夕食を食べられたかもしれない、と今後の旅行スケジュールを考える。
倉吉の街並みも和風建築が多くて、ここはここでゆったりとした観光地なのだと知り、まだまだ自分の知らないことが多いと、とろろを流し込みながら思った。
「おいしいねえ…知らない土地で美味しいものを頂けるのも旅の良さって感じ」
「そうですね。ですが俺は主がお作りしていただく手料理のほうが一層旨さを感じます」
「確かに、ぬしさまのものが一番美味しいですね」
「心がこもってるからなんじゃない? 主さんよく言うじゃん、丹精込めて作ったよってさ」
「ぅわ…や、やめよ…ありがたいし嬉しいけど恥ずかしい。そんでこのお店の料理長さんだって心込めて作ってくれてるからね?!」
三人の大真面目な語り口に赤くなる一方、どこかで漏れ聞こえていたらばどうしようと焦る。
もし聞こえていたらこんな失礼なことはない。三人には、褒める時には別の引き合いを出さない様言い含め、食べ終わったらそそくさと会計をしてのんびりと駅に戻った。
着いたころにはもう12時を回っており、後数十分で出発時刻になる。急いで特急のホームに行き、今度は青くつるんとしたフォルムの電車に乗り込む。
大型のキャリーケースを荷物置きに預けると、指定席を探して同じようにボックスにし腰を落ち着かせてから、三人がきょろりと周囲を窺う。
「随分と先程の電車と雰囲気が変わったな…」
「さっきのはちょっと暗かったよね。シートの色合いかな」
「揺れもほぼありませんね。座席も少々厚くなっているようで」
最初に乗った特急は確かに簡素な作りで、普通電車と内部がどう違うのかわからないくらいだったが、今回の特急は車内も落ち着いた色合いの高級感がある。
車体によっては前面展望あるので、子供も楽しめ、そして速度も比べものにもならず、3時間で京都まで行けるものだ。
「んふふ、ちょっと奮発してグリーン車のほう選んだしね! まあ電車にもたくさん種類があるんだよ。今回は乗らないけど新幹線っていうのはもっと早いし、他にもトロッコ電車とか地方ならではのものが沢山あるよ」
「へえ、その地方地方の特色が…凄いですね」
「私も全部は知らないし、今度皆で乗れたらいいね。トロッコ電車とかさ、秋田くんや獅子くん喜びそうだなぁ…」
にこにこしながら語る花車に、蛍丸が「この電車でも相当喜びそうだけどね」と返せば、全員が深く頷いた。
静かな特急に揺られながら倉吉駅を去り、岡山、兵庫大阪を去っていく。智頭から自由席は満タンになり、姫路以降は人の入れ替わりも激しくなっていく。
指定席車用である花車達の車両も兵庫に入れば続々と人が変わっていく。
通路を挟んだ一人用座席もサラリーマンだったり、高齢の女性、中高生、女性など様々入れ替わる。誰もがちらりと花車達のグループを見るが、興味なさげに視線を外す。
都会に近付けば近付くほど、他人への興味が薄れていくようで、そもそも大阪に入れば若い人たちの派手髪も増え、小狐丸や長谷部の髪色など埋もれていくほどだ。
「花さん、先程青髪を見ましたが、まだ私は帽子を被っていなければいけませんか?」
「…ちょっと揺らいだ。でもやっぱ被っとこ! 増えたとはいえ大人数の内の少数派だし。白銀なんてなおのこと…ちょっとでもお巡りさんに目を付けられないように過ごしたいもん……特に蛍くんはホテルは入るまで絶対ダメだよ」
「ほーい」
花車が力説すれば、小狐丸は渋々引き下がる。
やはり普段被らないものをずっと被っているのは窮屈だろうな、と思うもののここは譲れない。
日本人は得てして、自分たちのルール外のものを奇異の目で見る国民性であり、手放しで受け入れるのは若者以下ばかり。日本国民の人数の大多数である30代半ば以上の人間は物珍しいものは嫌煙しがちなのだ。
余計なトラブルに巻き込まれない様にするためにも、相応の自衛は必要だ。
京都駅に入ると、構内は祭り期間と言うこともあって夥しい人間で溢れていた。
外国人も多くみられるため、本当に浮かないのでは、という思考が若干首を擡げる。
「…蛍くんはちょっとごめんだけど、こぎさんは夜更けたら帽子取っていいよ。あっ、でも髪は下ろさないでね。流石にその長さはこの時代の人間にいないから」
「おお、わかりました! ありがとうございます」
急にわくわくし始めた小狐丸は「次はどこへ」と破顔して声をかける。
前回の影響で自然と蛍丸と手を繋いでいた花車が、きょろと案内板を確認して手招きをする。
「地下鉄行くよー。人多いからはぐれないでね」
「本当に人が多いですね。京は狭かったと存じますが、入りきるのでしょうか」
長谷部が不安そうに花車を窺うと、花車は少し首をひねる。
蛍丸が繋がれた手を引っ張って花車の意識を引くと、道中に買ってもらっていた棒付き飴を舐めながら真ん丸の目で見上げる。
「…多分、長谷部は昔の儘の記憶で言ってるよ。今の京都じゃない」
「あっ、なるほどね。山城のってことか。あれで考えると確かに狭いかも。今でいう市内って感じだもんね…」
花車が懇切丁寧に現在の京都事情について教えつつ、なんとか人込みに負けず市営地下鉄まで向かって、四条まで4分。
そこからすぐに烏丸まで歩いていき、ホテルにチェックインをするまで、花車の京都談義は続いた。