無変換だと本名は千鶴(ちづる)、審神者名は花車(はなぐるま)になります。
花車
名前変換
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――水無月某日
※本丸内部でゲームできる設定です。通電してるんだからできます。不思議空間(ご都合主義)と言うことでご了承ください。
※実際あるゲームですが、システム変えてます。ストーリーモード(群雄絵巻)に2Pモードなんてありません。面白いので復刻期待してるソフトナンバーワン(ステマ)
※ゲーム出演声優さんが同じ刀剣男士いますがあえて触れてません。触れません。
※武器使用はゲーム通りではありません。大薙刀を凛が使えてます。悪しからず。
「じゃじゃーん! 今日はこのゲーム持ってきましたー!」
花車の本丸大広間で楽しそうにゲーム本体とソフトのパッケージを見せるのは安芸国で本丸を率いている琥珀だ。
お互いにのんびりした一日があることを事前に通信で話していれば、琥珀が急に「そっちでゲームしたい」と言い出したのだ。花車もゲームは好きだったので二つ返事で返したのだが、なんのゲームかまでは聞いていなかった。
琥珀の供としてやってきた太鼓鐘が慣れた手つきでゲーム機をセッティングしていき、こんのすけに通信用グラフィックに映像を飛ばす指示をしている。大広間にいた加州と、琥珀が来ると聞いて太鼓鐘も一緒かとワクワクしていた光忠、それから出陣もなく暇そうにしていた小狐丸がその様子を見ていた。
山へ修業に行った組、万屋に行った組、はたまた趣味に凝っている者や、道場で打ち合い稽古をしている組、全員分の布団の洗濯を買って出たものと、出陣や遠征がないながらも、各々好きに忙しそうに動いている中で、花車は他審神者とゲームに講じている。
終われば琥珀も一緒に夕飯を手伝ってくれるらしいので、そこで家事をしてくれているものや稽古疲れなど、全員分の労いをするつもりだ。
「なぁにこれ……義経……えっまってこれ、まさかストーリー系のアクションゲー……?」
「ピンポンピンポーン! 古いゲームなんやけど、中々グラが最高で動作もまあまあ問題なし! しかもなんとー、歴史アクションゲーかつストーリーモードでも二人操作ができるという代物や! ま、そこまで派手なアクションはないんやけど、史実通りとIFモードがあんのが醍醐味やなあ」
鼻息荒く語る琥珀は、早速太鼓鐘にソフトを渡して起動するよう頼んだ。
しかし琥珀が思っていたテンションを返さない花車を不思議に思い、「苦手やった?」と不安そうに訊ねる。
「あ、いやいや! 違うんだけど…いや、ガンシューティングとかそんなの想像してて……そっかストーリー…え、そのストーリーモードやるの?」
「せや? 義経視点でのストーリーモードやけど。ちょっと武器まだ見つからんのあってさあ。俺が合戦やってる間にちょいちょいと花ちゃんに隅々まで探してもらお思て」
タイトルを聞いた小狐丸の顔がピクリと動き、ソフトを読み込んで動き出した大画面をじっと見つめる。加州が「懐かしい感じなの?」とのんびりと問う。
「…いや、源平はよく知らぬ。されど
「ふぅん? 俺、源氏とか平氏とかよくわかんないけど…元の主の上司がそういうの好きだった人がいたな。でも、
花車が自分に構わないからか、詰まらなさそうに塗られた赤いネイルを弄る加州に、光忠が全員分のお茶を持って現れ机に並べながら笑った。
「源平合戦とかは、確かに刀剣にとっては革命期かもね。けれど実際そこまで合戦は多くなかったはずだし、一番戦が多くて刀が実用性重視になっていったのは、僕の元主、伊達政宗公がいた戦国期かな」
「そうそう! 俺達より前は刀ってのは宝物に近い存在で、どれだけ数を切れるかじゃなく、美しさとかそっちが重要視されていたって俺の本丸にいる獅子王がいってた! つっても銘があるの限定って感じだけど」
セッティングを終えた太鼓鐘が、光忠の置いたお茶を飲み干す勢いで煽る。
いつの間にか花車と琥珀はお互いにコントローラーを持って、画面を注視していた。そこにはキャラクターを選ぶ画面で止まっている花車がいる。琥珀は主要コントローラーなのでストーリー攻略のキャラである義経を選択していた。
「花ちゃん、そんな悩まんでも、俺わりとやりこんでるから大丈夫やで。誰選んでもフォローできんで」
「うえぇええー……? え、本当に? 死んだり負けたりしても文句言わない?」
「ワッハッハッハ! 言わへん言わへん! 基本俺が指示するし、敵さんそっち行ったら守ったるから」
「え、めっちゃかっこいい発言ありがとう」
琥珀の言葉にちょっとだけ顔を赤くした花車に、加州がムっとして花車の背中に圧し掛かる。小狐丸が諫めるように加州に近付いて頭をはたいた。
「邪魔をするな」
「いった。いやだって、俺だって主守れるのに、コイツが言ったら照れるとか悔しい」
「…清光くん、ゲームの話だから…。いやまあ、琥珀くんなら現実世界でも守ってくれそうだけど」
「おう、菫よりは弱いかもやけど、変態一人くらいからやったら余裕で守れるで!」
「主ー! そういうこと花ちゃんさんの加州の前で言うなってー」
太鼓鐘に優しく諫められて、琥珀も笑いながら「すまーん!」と返事をする。
「よし、じゃあ、この女の子でもいい?」
「お、凛やん。ええでええでー、素早いし逃げるには最適! あ、武器かえるでちょっと待って」
「いいよ、てか武器チェンジできるの? 凛ちゃんはこれなぎなた?」
「おう。一回メインキャラでストーリーざざっとクリアしとんで、ある程度武器揃っとるし凛も変えれるよ。義経ストーリーモードやと最初牛若丸になるんやけどさあ、ちっさい癖に鬼丸国綱とか余裕で振り回すんなんやねん…とか俺は思っちゃうんで、今回は普通に三条宗近。花ちゃんは見た目とかで選んでもええよー」
「えーと…じゃあ…」
武器一覧をスクロールしていると、この場にいる全員が見知った名前などが連なって出ている。
「御霊? にしよっかな。あ、でも…っていうか…骨喰藤四郎…? あれ、骨喰くんって脇差じゃなかったっけ。薙刀じゃん」
花車の目に留まったのはすらりとして刀身が綺麗な薙刀の名前だ。それに対して加州が花車の肩越しに「元は薙刀って前言ってたよ」と教えると、いつの間にか隣に座っていた小狐丸も頷く。
「あ、そっか。確か鯰尾くんもそうだよね。焼けて記憶がって二人とも言ってた。そっかあ……骨喰くんってこの時代に薙刀でいたんだね。だから三日月さん、懐かしがってたんだ」
「この手のちゃんとした系のゲームはさ、こうやって発見があるとこがええよな。勿論、ぶっ飛んだゲームもおもろいけど」
「そうだね! えーじゃあ、折角だから骨喰くん薙刀バージョン使いたいなあ」
「おん、そうしいそうしい」
花車が凛の使用武器を骨喰藤四郎に変えると、すぐさまゲームはスタートして義経視点のストーリーは始まった。花車が操作に四苦八苦している間にも話は進み、琥珀が操作していた牛若丸も成長して義経になった。
元々ゲームには慣れてたのか、一場面をクリアしていくうちに花車の操作もスムーズになっており、琥珀はなぜ最初に渋ったのだろうと思っていたが、それは徐々にわかってきた。
ストーリーは中盤に差し掛かり、ムービーの静の舞を花車が目をキラキラさせて見つめ終えると、再び合戦が始まる。
「え、後白河法皇遅くない? 動き遅くない?」
「せや、遅いけど守ったらなあかんねんな。つーか毎回これ思うけど、もうおっさん馬に乗せて相乗りして逃げろや。そっちのが絶対早い」
「ゲーム性なんにも面白くなくなるやつだね…」
「せやんなあ……俺はイライラしてまうから、護衛は花ちゃん任せた。他の貴族助けに行くわ」
「はーい」
琥珀から指示を受けて、ゲームにだいぶ慣れた花車はスムーズに後白河法皇を護衛し、拠点まで移動する。
琥珀が残りの夜盗を倒している間、花車は光忠が淹れてくれた麦茶を飲んで喉を潤し、ぐっと伸びをした。加州もずっと背中に張り付いているわけではなく、いつの間にか自室から買ってもらっていた雑誌を持ってきて花車の背後で読んでいた。
無事琥珀がボーナスを獲得して次のステージに進んだところ、花車が「お!」と声を上げる。
画面には桃色の戦衣装を纏った巴御前がいた。
「初めて相手に女の人がいる!」
「巴御前、難易度上げてんのもあるけどめっちゃ強いで、俺が相手するわ。花ちゃんはボーナス用に木曽の軍旗切り倒しといてほしい」
「おっけ。てか、巴御前は実在した人?」
「確かそやった。ほら、義仲様とか言うてるやん? そいつの妾ぇ…ええっと愛人さん? やったかな」
琥珀が意味が通じないだろうかと心配して、言い直すと花車はわかったように頷いた。画面では巴の薙刀と、琥珀が操る義経の三条刀が打ち合っている。
「女の人ってか、愛人さんを戦場に連れてくるのって感覚どうなんだろう。え、この時代普通?」
ちらりと小狐丸に視線を移せば、小狐丸は首を少しだけ捻る。
「さあ。私はこの時九条におりましたが、九条家当主は源平の諍いを傍観しておりましたし、私自身あまり表に出ておりませんので、合戦場の規定などはわかりません」
小狐丸の心底興味のないと言った風な眼差しに、花車は傍観者と言われた九条家について問うこともせず、返事をするだけに留めると、光忠が後ろから助け舟を出す。
「戦国期での合戦場には遊女がいた時もあったし、なんなら足軽で参加している女性もいたよ。女武将も勿論いたし、武士の奥方は戦場までは出ずとも城が合戦場になれば戦っていたし、わりと僕の感覚では普通かな」
「え、そうなの? あ、でも私も確かに直虎とか聞いたことある」
「女城主やなぁ。直虎のほかにも女城主はおったみたいやで。歴史あんま勉強してなかったから、この辺りは菫のが詳しいわ」
巴を撃破した琥珀が会話に交じり、丸まっていた背筋を伸ばすために上に両手を突き上げる。
ゲーム画面はムービーに切り替わっている。太鼓鐘から麦茶を受け取ると、廊下から万屋帰りのメンバーが顔を出しているのに気付いて「よ」と軽い挨拶をしていれば、花車の方から鼻を啜る音が聞こえた。
「え」
花車が涙目になっているではないか。
小狐丸も加州も目を丸くしていて、ギョッとして琥珀がポーズ画面にすれば、花車は慌てて謝った。
「いやいや、疲れた? せやったら言うて! 画面ずっと見んのしんどいやろ」
「あー、違うの…ごめん。大丈夫! こうなったら最後までやる!」
赤い目をしたままフンと鼻息を荒くした花車に、加州が背中越しに「本当に大丈夫?」と聞く。
「うん。ちょっと…巴さんがかっこよすぎて…うう…これは……倒したくなかった…生きててほしかったやつ…」
義仲への哀悼を紡いで画面から消えていった巴のムービーに、花車は再びずびっと鼻を鳴らす。
「あ…なぁるほど? 花ちゃん、感情移入ガッツリするタイプか」
「そう、正解。だからストーリー系苦手なんだよぉ……心情考えて倒すべき相手に同情しちゃうんだよね……これ、義経エンド私大号泣必至な気がする」
コントローラーを握りながらめそめそする花車に、光忠は困ったように「きみは大将には向かないね」と言えば太鼓鐘が「向かなくていいだろ」と出された煎餅を豪快に食べながら笑う。
万屋から帰って来て大広間に留まって戦利品を広げていた鶴丸や蛍丸達が一連のやり取りを見て、花車が涙目の理由に納得の表情を見せる。
「主さんって俺たちのときもそうだったけど、涙脆いよね」
「感情表現が豊かなのはいいことだって! 愛染明王も感情豊かなのは大推奨してるぜ」
「国俊の考える基準って基本愛染明王だよね。別にいいけど」
蛍丸と愛染国俊がけん玉や竹の水鉄砲などを組み立てながら楽し気に会話する。鶴丸は買ってきた『伊達治家記録』に目を通しながら、フンと鼻を鳴らした。
「そのゲームとやらの時代は俺や小狐丸は宝物扱いだったからなぁんの感慨もないな。なあ、小狐丸」
「…私は鶴丸殿よりもまだ実践扱いです。神社に奉納まではされておりませんでしたよ」
小狐丸がすいとその鋭い眼差しを鶴丸に向けて、そのまま手に持っている書物を見て片眉を上げた。そんなものどこで買ったのだ、とでも言いたげだ。
「…なんか、鶴丸さんたちの会話聞いてると涙枯れそう。琥珀くんさっさとやっちゃおう」
「お、おう」
言われるがまま再開し、巴と分かれて逃げ延びた義仲を琥珀が騎馬で追討し、花車がその間今井や高梨を討つ。
ここではそもそも先に巴が泪を呑んだのに義仲が山中に逃げているのが許せなかったのか、花車は淡々とゲームを進めた。それからステージをいくつかクリアし、とうとう雪山に場面が切り替わってきた。その間にも、続々と稽古組や家事組などが、大広間に集まり、各自好き勝手になにかをしつつも、主である花車がやっているゲームに興味があるのかちらちらと窺う。
「ぎゃー! このむーびー! 泣く…! 静御前さん……!」
花車がコントローラーを軽く投げて、両頬を両手で覆うと、琥珀が「そやと思た」と笑う。
花車の声に驚いた数名もゲーム画面を注視する。短いムービーはすぐに終わり、即座に山中でのマップに切り替わった。
「とりあえずやなあ、ここなんよ。俺が武器探してるんわ。多分このスタート地点のこの、こいつ! この柵の向こうに行ったことないからそこやと思うんやけど」
この、とアクセントを強くしながら琥珀が義経をウロウロさせる場所へ、花車も凛を動かして辿り着く。
「この柵高いね。通常ジャンプじゃとどか…いや、凛ちゃんもうちょっと頑張ったらいけるじゃん」
「せや! 凛ならいける思うねん! ちゅーことで俺は静御前を護衛しとくでその間に試しておいて! できたらバトンタッチ。俺土佐坊のおっさん倒しに行くで」
「ほーい」
宣言通り琥珀が静御前に攻撃が当たらないように護衛しつつ山道を進む中、花車は凜を操作してなんとか高い柵を飛び越そうとする。
加州が後ろから「助走付けたら」や、小狐丸が「薙刀を支えに飛んでは」などと助言をするが、あまりうまくいかない。
途中で見始めた左文字派や粟田口派が皆首を傾げ、秋田藤四郎が「ジャンプするゲームですか?」と聞いたことで、隅に座って本を読んでいた安定と長曽祢が噴き出した。
「秋田君……薙刀持って女の子がジャンプするだけのゲームなんてマニアック過ぎない? どんなゲームよそれ…」
「わわ、すみません! よく考えればそうですよね…。でも、じゃあ主は何をしているのですか?」
純粋な質問に、今度は琥珀が笑いだす。
「すまんすまん! 花ちゃんにはその柵越え依頼したんよ。向こう側に未所持武器あるはずやからさあ」
「あ、なるほど」
琥珀が説明する中、昼寝をしていた三日月が大広間にやって来て、ゲーム画面を見止めると、少しばかり嬉しそうにして花車の近くに寄った。
「やれ、主よ。この薙刀は知っている気がするな」
「え、それだけ忠実に作ってんのかなぁ、すご…。これ、平安時代の骨喰くんだよー」
花車がガチャガチャとボタンを操作しながら言えば、名前を呼ばれた骨喰は驚いて画面を見て、三日月は嬉しそうに破顔した。
「やはりそうか。この反りと流麗さは見覚えがあった」
「……これ、昔の俺なのか」
「わー! やっぱり骨喰は薙刀の時も綺麗だね!」
鯰尾も自分の事のように喜んで、先程よりも画面を食い入るように見つめる。そうやっているうちに偶然か、凜が二段ジャンプをして軽々と柵の向こうに行った。
「お、や、やったー!! 琥珀くん行ったわ!」
「おいおいマジか!! さっすがやで! ある?! 木箱ある?!」
「えーと、えと、ある! え、壊すよー?」
アイテムが入った木箱を花車が薙刀で打ち壊せば、中から太刀が現れてそれはすぐに凜に吸い込まれるように回収される。
「刀あった! 三日月さんだ!」
「よっしゃー! 三日月宗近ぁあ! やっぱそこにおったんか! これで武器完クリじゃい!」
「やったねー!」
「なんだ。俺を探していたのか」
二人の喜びように、三日月がぽかんとすれば琥珀が高速で頷く。その間に花車は急いで琥珀の元へ駆けつけ、静御前の護衛をバトンタッチした。
「せやねん…ここいっつも俺義経とか弁慶でやってまうから柵越えできやんだんよな……他の武器は全部そろったのに、三日月宗近だけなかったから行ったことないんここや思って…。花ちゃんが凜選んでくれてマジでよかった」
「言ってくれたら最初から選んだよ!」
「いや、ほら。初めてやるゲームなんやし、やっぱ自分で選んだキャラでやってほしいやん。最悪静御前とか選んでてもマップで場所さえ確認してくれたら帰ってやるつもりやったし」
ぐだぐだ話しながらもなんとかクリアをし、ステージがまた一つ始まる。そこもまた雪山の山中で、先程の続きなのが分かった。相変わらず静御前を護衛して、南端拠点まで送り届けると、クリアしたのかムービーに切り替わった。
雪深い山中で義経と静御前が抱き合い、そっと別れていくその様に、もう花車は鼻がズビズビしている。
「あれ、しらびょうしですね。あるじさま どうしてないているんですか?」
「うむ、見覚えのあるような雪山だなあ。なんのゲームだ? これは」
山へ遊びと言う名の修行に行っていた組が帰ってきた。
今剣が不思議そうに花車の前へしゃがみこみ、岩融も大きな体を邪魔にならないようにと少し離れた場所へ座り込む。
ぎくりとしたのは花車と琥珀で、今回のストーリー上とても深い繋がりのふたりが来てしまったので動揺をした。だが既にムービーは進み、義経の背中を寂しげに見つめる静御前と、その二人を申し訳なさそうに見る弁慶と凜が映る。既に花車の目はうるうるしてしまっている。
「あれ……あのかっちゅう……よしつねこうのとにてますね」
「ああ、あの僧の姿。正しく弁慶のようだ」
「…今剣くん達が帰ってくる前にクリアしたかったのに、ほんとごめん…そして今から見るのはもっとつらくなるかもしれない…」
「難易度ハードモードにせんだらよかった…ノーマルレベルならIFエンドいけたかもやのに……すまん…」
琥珀が見るからに落ち込み、花車が「え?」と疑問を投げれば、光忠や大倶利伽羅となにやら会話していた琥珀の太鼓鐘が答えた。
「そのゲーム、ノーマルモードだと主は仮想エンドでいっつも終わって、頼朝討ちに行くんだよ。けど今回は花ちゃんさんと一緒だから、多少無理してもステージクリア位できるだろってことで難易度上げた感じ」
「そう。ゲームシステム的に、ハードやもんで、今からの合戦は門守ることに必死になりそう……花ちゃん一人で景時探して倒してこいって言ってできる?」
「無理」
「じゃあ、まあ…史実エンドや」
琥珀と花車の会話で察せたのか、今剣が「よしつねこうの げーむ なんですね」と呟いて画面をしっかり見つめた。
「そうか、であればこれは吉野の山か」
「おう、俺さあ、このゲームやってからちょっと静御前調べたんやけど、これ、この吉野の山で分かれたあとほんましんどいで…知っとるこっちからすればここで分かれやんだらとか思うわ…」
「なにそれ。私聞かない方がいい奴?」
「うん。多分、花車ちゃんは泣く。絶対泣く。そんで頼朝に殺意湧くやつ」
「嘘。それ聞いただけ今も殺意湧きそう」
頼朝の名前に反応したのは膝丸で、今の今までのんびりと堀川らと茶を啜っていたが、ほんの少しずつ花車の近くへにじり寄る。
「主よ。頼朝はさほど悪い男ではない。まあ、苛烈ではあるが」
「うおー! びっくりした。さっきまで遠くにおったのに。…まあ、武将としてみれば立派な男やろなあ。女の人受けするかどうかは別やけど」
「琥珀くんのせいでどんどん頼朝へのヘイト溜まってる。なんで北条政子はそんなヤツと結婚したの?! あっ! 政略結婚!! 時代のせいだった!」
身もふたもない会話をしながらもゲームは進み、花車がギャーギャー言いながら敵からの猛攻を必死に受け流して門を守っていたが、やはり琥珀の言う通り梶原景時を討つまで手が伸ばせず、強制的にタイムオーバーで史実エンドのムービーに切り替わってしまった。
燃え盛る館へ涼やかな相貌の義経が進み、それを守るかのように弁慶が仁王立ちして、敵からの矢の雨を大薙刀でふるい落とす。この時点でもう花車は加州が持ってきたティッシュ片手に泣き通していた。
「だっだめ…だめだこれ……弁慶さんかっこよすぎる…!! ぐすっ、うう」
弁慶が最期の名乗りを上げて、狼狽えながらも敵が二度目の矢の雨を降らせれば、その一本が額に命中すると映像はスローに切り替わり、桜の花びらが燃え盛る館と一緒に燃えて落ちていく。
館の中の義経も自刃をするために腹を寛げさせてはいるが終始澄ました顔。けれどそれが一瞬眉根を寄せたと同時にまた弁慶へ映像が代わり、立往生が写された。
「あああああ……! ゲームってわかってるのに、こんな…こんなっ! 許されないよお……辛い…辛すぎる……そんな最後辛すぎるよ……! 熱いよね、痛いよね、悔しいよねぇ……!」
大号泣の花車に、若干琥珀は引き、自分も悲しげな顔をしているというのに今剣も花車を慰める。
「す、すさまじい泣きっぷりやな……。難易度下げてでもIFエンドにしたればよかった……ごめんな花ちゃん」
「いいよぅ…大丈夫……めちゃくちゃ感情移入しすぎたせいで今後藤原泰衡という名前だけで殺意湧きそう……! あいつが裏切らなければ死ななかったじゃん!!!」
「あー…でも頼朝に結局敵カウントされとるし、兄弟合戦するのはかわらんのちゃうんかな……これ、ゲームでは描写されんかったけど、史実やと義経、奥さんと4歳の娘殺した後に腹切ったんやで」
「うわああああん!!! なんでよー!!! 娘ちゃん一番かわいそうじゃんかあ!!!」
琥珀からの追い打ちに、とうとう花車は今剣を抱え込んで泣き出す。困ったような顔で「よしよし」と頭をかいぐる今剣と、後ろから加州が頭をぽんぽん撫で叩く。
三日月が琥珀を見てにこりと笑顔になり、次いで花車を挟んで向こう側から小狐丸がひょこりと顔を出した。
「あまり俺の主を苛めないでくれ」
「ぬしさまは優しい方なのです。貴方とは感性が違うので配慮をしてください」
「…う、お、スンマセン…」
「ま、これは主が全部悪いよな! ごめんな花ちゃんさん! これやるから!」
謎の圧力にかけられた琥珀は素直に謝り、太鼓鐘も尻拭いの様に花車へ謝罪をして、光忠が台所から持ってきたカステラを差し出す。
背後で光忠が「それ元々主のだよさだちゃん…」と呟いたが聞こえないふりをしていた。
それでもスンスンと泣く花車へ「でもほら、この後結局泰衡は兄ちゃんに殺されとるし、兄ちゃんも義経のことを思って寺建てたし、遺体もこの時代にしてはちゃんと埋葬されとんねん! な!」とわぁわぁと琥珀が元気づけるのに必死になり、可哀想に思ったのか、他の源平を知る刀剣達も次々に花車へ義経死後の近辺や、まるっと話を変えて雅やかな平安の話をなどをかわるがわるして慰めたのだった。
このゲーム以後、暫くは花車の前で「泰衡」「自害」「頼朝」は禁句になってしまったのは言うまでもない。