無変換だと本名は千鶴(ちづる)、審神者名は花車(はなぐるま)になります。
花車
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――閑話(15~17辺り)
「私がいない時でも、自由に飲んだり食べたりしてほしいから、みんなには…というより希望者でいいんだけどさ、料理だったりお茶の淹れ方だったりを教えていこうと思うんだよね」
そう声高らかに言ったのはいつだったか忘れたが、花車はその宣言通り、一期一振からの願いでお茶の淹れ方をレクチャーしていた。といっても、本当に初歩の初歩、そもそもお湯の沸かし方とは、から始まった時は花車もどうしようかと思ったが、案外何とかなった。
最終、熱湯もでるウォーターサーバーを導入したので、それこそ竈に火をくべて、から教えずともよくなった花車は文明様様だと万歳をしたのは言うまでもない。
「そうそう、急須は揺すっちゃだめ……そう!」
何度目かの教えの後、一期は漸く湯呑にお茶を入れ切ることができた。
傍で見ていた安定は、「やっとかぁ…」と溜息を吐く。
本来自分が飲む分に関しては丁寧な手順など踏まない花車だったが、人に教えるとなると別で、中学生時代に行っていた茶道教室の授業をなんとか思い出して日本茶の淹れ方を教えていた。
折角初めて飲むお茶、淹れるお茶なのだから、純粋に美味しいと思ってほしいがために厳しくしていたが、一期はなんとも思っていないのか、最後の一滴を湯呑に入れ終えると、やりきりましたと胸を張って満足そうだ。
「お茶一杯飲むのに、めちゃくちゃ時間かかるんだね…」
「本当に美味しいのを飲もうと思うとねー。私はもう手間暇かけるより市販最高って思ってるけど、やっぱり先生が淹れたお茶とか湯呑で飲むと、この世で一番おいしいんじゃ? って思っちゃうわ」
「そんなもんなのかなあ……、どう? 一期さん、美味しい?」
安定から問われた一期は、コクコクと頷き嬉しそうに笑う。
そして音もなく机に置いてあった細筆を取ると、さらさらと何かを書き記して安定に見せる。花車から見ればミミズのような、なんとか平仮名に読めるような、そのような字だが、安定にはわかるようで訳知り顔で頷く。
「そっか。よかったね」
「ねぇねぇ安定くん。一期さんなんて?」
一期一振の口が利けないのは、出会ったときにはわかっていたが、声が出せないとこうも会話がスムーズにいかないものなのだと痛感した。
特に筆談も花車にとっては難しい。声が出なくなったのを皮切りに、筆談の手段で字を教えてくれたのが初期刀の加州清光だったこともあって、一期の書く字は江戸期仮名遣いのもの。
加州自体も簡単な手習いレベルしかわからない、ということで平仮名のみを教えたのだが、花車にとってはそれすら強敵で意味がわからなかった。なのでこうして、一期と“会話”がしたい場合は誰かについていてもらわないといけないのも、歯痒かった。
「苦くて、それでいて奥に甘さがあって、香りもよく、素晴らしいだって」
安定が話すごとに、強調するかのように真横で頷く一期は、本当ならその舌を回して花車へ伝えたいのだという気迫がある。
もどかしく歯痒く思っているのは花車だけではなかった。
「そっかぁ、よかったぁ! さっき教えたのは深蒸し茶。他にも水出し煎茶とか色々あるんだよ。もう専ら、こうやってゆっくり飲むことが減ったから今は市販のペットボトル飲料ばかりなんだけど、たまにはこうやって、のんびりお茶をしたいね」
「お饅頭も美味しいしね」
「そう、お茶請けってめっちゃ大事だわ。ほんとそう。ある程度運営にめどがつけそうだったら、みんなで和菓子パーティーとかしたい」
不思議そうに一期が首をひねると、安定がパーティーの意味を説明する。
理解をした一期がこれまた楽しそうに頷き、とてもゆっくりした書き方で花車の読める文字を書いた。
「ぜ、ひ……ぜひ!! いやこっちこそ! ていうか練習してくれてたの?! ごめんね、私が読めないばかりに…! 教養のなさに自分が一番嘆いてる!」
きゃあきゃあと喚く花車に、安定も煩そうにしつつ何も咎めることはしない。
もちもちと花車が取り寄せた酒饅頭を口に運ぶ。花車が好きだと言っていた酒饅頭は、生地が薄めで中の餡も塩が混ぜて合って食べやすい。苦めに淹れたお茶ととても相性が良かった。
お茶の淹れ方を教え終わった後、花車がなにやら一期に自分が読める文字を書いては見せてとしているのを後目に、まだ見ぬ初期刀を始め、あとどれくらいの刀剣がこの本丸にいるのだろうと、安定は酒饅頭を咀嚼しながら、大広間の天井を見上げた。