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人の身も、なかなか悪くない。


 審神者に興味を示したといったが、政府ではもちろん主と呼べる人間はおらず、故に今代の主は見ていてなかなか飽きなかった。
 彼女は、鈴を転がすような声の人だと思う。

 当初内番や出陣等の命は近侍から全体へと伝えられたが、主に直接会う機会はほぼなかった。どうやらここの審神者はあまり表に出て指揮するようなお方ではないらしい。しかし一度だけ面と向かって会話をしたことがある。
 たった一日、近侍を務めた日があった。


「俺が行って来ようか」

 急遽政府から出陣の任務が下されたその日は非番で、他の刀剣達には休暇をだして本丸はほぼ手薄の状態。ましてや合戦先は練度の制限があるという条件に、主は頭を悩ませただろう。それを聞いた俺はためらいなく名乗りを上げた。
 案の定主に一人では危険だと非難されたが、現状この本丸内だと俺だけが練度も妥当、致し方ないことだと押し切った。
 何、問題はいらない すぐに帰ってこよう。そう言い残して。




 …言い訳はしない。実力が足りなかったんだ。

 意識が戻ると見覚えのある作りの天井が目に入った。
 じりじりとした痛みが全身に響く中、ああ、俺は失敗したのかと気づく。
 一体いつ油断した、偵察は把握できていたはず、遠戦での支障も申し分なかった、であればどこで…

 ふと身体の一部に違和感を覚えて顔を起こすと、泣きながら俺の手を握る主の姿があった。


「長義…ッ」


 その時感じた胸の違和感を、俺はまだ知らない。
 検非違使という敵の存在を告げ、何度も頭を下げる主の姿は、一生忘れることはないだろう。


 ただ、考えてしまった。
 山姥切、と、呼んでくださらないのだな、と。


 馬鹿らしいだろう、このようなときにそんな事を考えるなんて。
 …脳の端でちらついた黄金色の彼の姿に、ただただ虚しくなった。




 一度目の死は、居場所だった。



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