人の身も、なかなか悪くない。
——聚楽弟任務後。
此処に俺が来たのは今から三か月前。例の特命で優と評定されたこの本丸に、政府から配属の命が下された。
調査段階から既に審神者と刀剣達の存在は認知していたが、改めて配属されるとなるとまた違う。一審神者であった彼女とこの本丸が、自身の主と居場所になるのだから。
当初は刀剣達ならともかく、主からも注意深く警戒されていた。なにせ今まで政府から献上されてきた刀とは違い、俺はそこと直接的な関係が深い。
確かに否定はしない。作戦中の敵本丸中心部で顕現した山姥切長義とは違い、監査官として進軍に同行した山姥切長義は俺しかいないのだから。
そして、現に政府との繋がりは途切れてはいない。
詳細は極秘情報になるため伏せるが、もし反乱の兆しが見えれば即告発、本丸解体の権限が俺にはある。あの任務はこれも狙いの一つだった。
しかし、俺が配属された本丸では、その心配は無用だと理解する。
日課の進捗は言うまでもなく、資材の状態も規定量を保持。審神者と刀剣達の関係も良好、と。
今日もまた、政府への報告書を送る。問題は何一つない。
そう、何一つ。
「やあ、偽物くん」
「写しは、偽物とは違う」
この本丸には、山姥切国広がいた。どうやら初期刀のようで、審神者に次ぐ発言権を持っていた彼は、俺が来る少し前に修業を終えたようだった。
あの作戦でも第一部隊の隊長として指揮をとり、進軍する様は見ていて不快に思うほど実力を見せつけられた。
政府も憎らしいものだ。致し方ないと当時は腹をくくったものの、先にあの偽物が顕現していると報告されていれば少しは余裕ができたはずなのに。
しかし、彼と接するほどに自分の感情がかき乱されていくのを感じる。彼と初めて対面し、出陣した際、山姥切の名について語られた。
——ふざけるな。山姥切である以上、そう呼ばれるべきは俺のはずなのに。その言いようではまるで、お前こそその名を体現するかのような…。
「……くそっ」
嫌いだ。
この本丸で“山姥切”の名に座り込んでいる彼が、山姥切の名を語ろうとするさまが。
嫌いだ。
何よりも、居場所を奪っている刀自身が、本歌の俺を尊重する様が。
嫌いだ。
たった一つ、彼を認めきれないだけで、これほどまでに追い詰められている俺が。
何よりも、嫌いだった。
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