Fleur
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「いやぁ、病み上がりなのにゼリーばっかチューチューしてんだろ??それじゃ身体に良くねェぜ?」
「そう!先輩のことが心配でご飯作りに来ましたよ〜!」
「じゃあその鉄板はカチ割っても構わないな?」
相澤が玄関のドアを開けると、重そうなたこ焼きプレートを持った都子と大量の酒が入ったビニール袋を持つ山田が居た。
「なんでよりによって鉄板系なんだよ。部屋煙くなるだろ。」
「えー、だって楽しいじゃないですか、たこ焼き。蛸以外にも海老とかも持ってきましたよ。」
「楽しいって言ってんじゃねーか。」
「ちゃんと下準備済みなのであとは焼くだけ!」
「焼いてから持って来いよ。」
「オーイ!ビール5本だけ冷凍庫に入れとくからな!!忘れんなよ!」
「お前らホントうるせーな…。」
遠慮なく部屋に入ってきて、リビングのテーブルを動かしたり延長コードを弄っている後輩と許可なくキッチンに入って冷蔵庫に物を詰める同僚。
さっきまで静かだった部屋が一気に色を変えて賑やかになった。
もうどうにでもなれと溜息を吐いてソファに深く腰掛ける。勝手にやって来たんだから準備も片付けも全てやらせようと心に誓った。
「あれ、先輩まだちょっと顔色悪いですね?」
「さっきまでは良かったんだが、お陰様でな。」
ラグの上に座って、鉄板に油を塗っていた都子がこちらを心配そうに見上げる。
「あ、癒してあげましょうか?」
「お前私服だろ、また全裸になるつもりか?」
先日のお見舞いの際には、私服で訪れ変身をしたために病室でうっかり全裸になったのでその件について指摘すると、都子の顔はみるみると茹で蛸のように赤くなる。
「ちゃんと脱衣所で変身します〜。もう、意地悪ですね…。」
「ほら、鉄板温まってんぞ。早く焼け。」
じゅっと言う音と共に生地やら薬味やらを入れ始めた都子の後ろ姿をしばらく見てたがふと目線を上げると、つまみの入った袋を抱えた山田と目が合う。ニヤニヤしてこっちを見ていて不快だ。
「何だよ?」
「いや〜?相澤も素直じゃねーなって思って。」
「あ?」
「何でもないデース。」
ヘラヘラと誤魔化す山田と少し鼓動が高鳴った相澤の微妙な雰囲気は、真剣にたこ焼きをひっくり返す都子には伝わらなかった。
「で、オールマイトさんが助けてくれたのねぇ。」
たこ焼きも焼き上がり、キンキンに冷えたビールで乾杯した後は3人とも結構なハイペースで飲んでしまった。酒の進む食べ物が多いし明日は休みだからあまり後のことは考えずにグラスを空にする。
学校の話やプロヒーロー達の下世話な噂話など話題も尽きず、酔いも回って話題はつい先日のUSJ襲撃時の話になった。
「らしい。俺も気絶したから聞いただけだが…まぁ、あと少し遅かったら死んでたな。」
「縁起でもない…」
「俺も助けに駆けつけたんだゼ!」
「活躍の報告は一切聞いてねぇけどな。」
シヴィー!と白ワインを煽る山田に呆れる視線を送りつつも曇った表情で日本酒を飲む都子はボソッと呟く。
「やっぱ、ルミと一緒に討伐行脚しようかなぁ。」
「止めとけ。敵の詳細が分からんうちは首を突っ込んでも狩られかねない。お前には無理だ。」
「私だって、そこそこ強いんですよ〜?」
「ハイハイ。」
くしゃりと頭を撫でてやると、飲め飲めと日本酒のグラスを押し付けてきた。止めろとそのグラスを押し返して、そのまま無理やり都子の口に持っていってみる。
都子は最初は驚いた顔をしていたが観念したのか目を瞑ってちびちびと飲み始めた。
ぺたんと座り両手は脚の間の床に置いていて、俺が飲ませてやる形になってしまった。何だよこの状況、と思っていると目を瞑っていた都子がこちらを見つめる。
酒に酔いやや潤んだ上目遣いで、俺が差し出すものを抵抗もせずに飲んでいるのを見ると少し変な気が湧いてくるのは仕方ないことだろう。
これはまずいと思い、グラスを口から離してやると上目遣いでこちらを見つめていた都子はすっと目を閉じる。
そして、少しだけ首を上に傾けて
「ん、」
「しねぇぞ、バカ。」
「いたぁい!」
あろうことか自然な流れでキスをせがんできたので
容赦無く頭を叩いてやった。
こいつは自分の魅力に気付いているのか、俺がどんな思いで接しているのか分かっているのだろうか。
ひどい〜と嘆きながらこちらを見つめる大きな瞳に映った俺はひどく情けない顔をしていた。
「コイツ……」
「さすが自由気ままなネコちゃんだな〜〜」
呆れて言葉にもならない俺と声を殺して笑っている山田の視線の先には、ベッドですやすやと眠る都子。
お手洗い借りますね〜とふらふらトイレに行って、帰ってこないと思ったら寝室で発見された。
顔は苦しそうでは無いのでこのまま寝かせてやるか、と考えてるとぽんと肩に手が置かれる。
「じゃ、俺は帰るぜ」
「何でだよ。」
「お前らの邪魔する気はねーからな。」
「そんなつもりは無ぇよ。」
「じゃあいっそのこと、キッパリ振ってやれよ。」
珍しく山田の眼光が鋭くなる。
「お前がはっきりしねーからコイツは前に進めないんだよ。その気が無いならキッパリ振ってさっさとホークスにでも譲ってやれ。」
バタンと玄関のドアが閉まる。相澤は鍵を掛け、はぁと息を吐いた。先程の山田の言葉が頭の中をぐるぐると回り、憂鬱な気分になる。これはきっと臆病でずっと逃げ続けてきた自分への罰だ。彼女はあんなにも真っ直ぐに自分と向き合っていたのにーーー
静かに寝室のドアを開けると、都子は先程と同じ体勢で横たわっていた。深い眠りに入っているようだ。
月明かりの差す薄暗い部屋で静かに眠る彼女は童話の中の眠り姫を思わせるように美しい。
相澤はベッドに腰を掛け、眠る彼女を覗き込む。
起きるなよ、
そう心で呟いて、そっと口付けを落とした
柔らかな唇に触れ
数年前の出来事が脳内へ一気に蘇る
唇の感触 、甘い匂い
柔らかくしなやかな肌
控えめな嬌声、
嬉しそうに呟いた 好き の一言
「ん、…」
長い睫毛が少し動いてうっすら目が開く
「…しょ…ぅ…」
「いい、寝てろ。」
優しく頬を撫でてやるとすぐに目は閉じて、また規則的な寝息に戻った。
先程よりもほんの少しだけ嬉しそうな顔をして眠った都子をしばらく見守って
相澤は静かに寝室を後にした。
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