3話:はじめてジム戦やりました。

「シビルドン今助けてやるからな!ちょっとだけ我慢しててくれ!

………ピッピ!バカ女を引きずり出せ!!」


「おらーーーーーーーーーー!!!」


俺の指示と共に、ピッピはバカ女の頭を掴みバカ女の体をシビルドンの口から無理やり引きずり出した。


このバカ女……ノゾミ・ナカムラのことはもはやどうでもいいが、シビルドンが心配でならない。



「ぐえっ!へぶっ!!」


シビルドンから引きずり出されると、ピッピに投げ飛ばされる形で地面に叩きつけられるバカ女。


自分の世界では『希望の担い手』だとかチヤホヤされてたみたいだけど、ここではなんの意味もない。

…………仲間たちに害しかもたらさないコイツは夢見がちのバカ女でしかない。


殺す価値もないが、ハッキリ言ってこのまま生かしとく価値もない。



昔、俺の“先生”は『棒で人を殴ることには堪らない愉悦がある』といった上で『それを認めて向き合わなきゃならない』と言った。

そして俺自身もそれを胸に刻んでこれまで生きてきた。






───だけど、今この瞬間だけは………







「………この瞬間だけは、先生の言葉………



…………忘れさせていただく!


ピッピ!“じゅうりょく”!!」


「ピッピッ…………ぴっ」


「ぐえっ!?」


ピッピが親指を立てて、それを下に振り下ろすいわゆる『サムズダウン』のポーズをとるとバカ女の体にのみ通常の何倍もの重力が襲いかかる。

この『じゅうりょく』という技、エスパータイプの変化技なのだが、本来は重力を操りひこうタイプのポケモンを飛べなくすることでじめんタイプの技をひこうタイプのポケモンにヒットさせることができるだけの技。


だが、このゲームでは攻撃や相手の動きを制限させたりなどの応用が効くようだ。



「さぁて…………ジニア。

ノエルがこれから俺がやることを見ないようにしてくれ」


「へいへい」


ジニアがノエルの目元を手で覆ったのを確認。


…………これで準備は整った。






「………お前はいくつも許せないことをした。


勇騎さんたちの努力を台無しにし、勝手に孤立して仲間の調和を乱し、俺たちの想いを踏みにじった」



「ちょっと待って…………!」




「しかも、姫矢の街に災害をもたらして、沢山の人を不幸にして……。


だけどな………今一番許せないのは……………!





こないだ俺がおやつにって思ってとっておいたプリンを食べやがったことだァァァ!!」




「「「しょーもなっ!!」」」


「まぁ、食べ物の怨みは恐ろしいというからね」



ケイツとバカ女とジニアの声が重なる。

それに苦笑いするウオズ。


しょーもなかろうがなんだろうが俺は唯一の楽しみのプリンを奪われたのだ。

しかもこのバカ女といったら謝るどころか「プリンが食べられないのならパフェ食べればいいじゃない」と抜かしたのだ。


この超絶劣化版マリー・アントワネットめ………ギロチンどころで済ますと思うなよ。




「一緒に戦ってくれ!シビルドン!!」


「シッビッ!!」


──しかし、俺の怒りに賛同してくれる“仲間”もいる。


バカ女が口に入っていた為に自由を奪われていたシビルドンだ。

コイツもあのバカ女に怒りどころか殺意すら抱いている。
正直そのパワーであのバカ女を殺しかねないくらいだ。


どうやら俺とシビルドンの利害は一致したようだ。




「ちょっと待って!ちょっと待ってってば!」





「ノンたん…………いーや、疫病神ノゾミ・ナカムラ!

さぁ………お前の罪を数えろ!!」



もう、コイツに容赦などしない。

する気もない。


暴力の快感に身を委ねるのは最低の行為。


だが…………目の前には絶対に許してはならない奴がいる。






拳を握る理由はそれだけで充分だ。













「ま、プリン食われた怨みだけどな」


「だまらっしゃい!」
13/25ページ
スキ