3話:はじめてジム戦やりました。

「エルフーン戦闘不能!チャレンジャーは次のポケモンの使用が認められていますがどうなさいますか?」


「っ………!なるほど……勝手が違いすぎる………。

もちろん戦わせてもらおうか……!」


ジニアも『ガシャットが広げたゲームエリア内の体感ゲーム』という形だが、この男もポケモンバトルをやったのははじめてであり、

『ポケモンが覚えている4つの技を指示して戦わせる』
『物理攻撃・特殊攻撃・変化技の三種類の技』
『ポケモン一体一体がもつ“とくせい”なる特殊能力』
『ポケモンのもつタイプの相性』……

これら様々な要素が絡む奥の深いゲームは間違いなくジニアが得意としているもののはずだ。

しかし、物理学者兼組織のボスの肩書きをもつこの男は、如何せん娯楽から縁のない生活をしており、ポケモンの知識は皆無に等しい。

………何故か昔からオオタチは大好きだったみたいだが。


ポケモンの知識をインプットする暇もなかった以上仕方ないのだが、ジニアの手持ちは直接の戦闘に向いていないポケモンたちにとりあえず攻撃技を覚えさせた……といった感じだ。


ジニアは組織の部下たちに命令を飛ばし、戦況を有利に進めたり、自らが戦場に出て敵対するものを捩じ伏せるのは得意だが、予備知識なしのポケモンバトルは流石のジニアも戸惑うようだ。



「………仕方ねぇ、行ってくれノアールちゃん!」


「おぉーったっち!」


ジニアはすかさず次のボールを投げる。

2体目のポケモンはオオタチ。
ジニアの大好きなポケモン。


しかし……なんでオオタチは白いのに名前はノアール(黒)なんだろ?





「きゅー!」



「あはぁぁぁ………」






「…………


………あのー、ジニア様ァー?」


「……何でもねぇ。始めようか」


………なんか今このおっさん昇天してなかったか?

大好きなオオタチちゃんの笑顔みて昇天してなかったか?


本当にいろいろと大丈夫なのかこれ?



「オイ、ボサッとすんな………ジムバトルはここからだ」


「へーい………」


なーんか釈然としねぇがまぁいいや………

こっちはあのウオノラゴンとアリゲイツの噛みつきコンビをどうにかしてあのウナギ女からジムバッジをぶんどらなきゃならないんだ。


…………持ってるかどうかも怪しいけども。



「アリゲイツ!かみつく攻撃!」


「ウオノラゴン!エラがみ!」


2体のポケモンが牙を向き、こちらのポケモンたちに襲いかかる。


挟み込むように襲いかかるその様相はまさに獲物を見つけた捕食者。


──だがウナギ女と違って、オオタチもムチュールも黙って捕食されるほどマヌケじゃない。



「ムチュール!オオタチに飛び乗って!」


「ならノアール……そのまま“でんこうせっか”だ」


迫り来る2体の猛獣を相手取るべく、オオタチはムチュールのその背に乗せると『でんこうせっか』を敢行する。

でんこうせっかはその名の通り、高速で動きまわり相手より早く攻撃する攻撃技。


つまり、逆を言えば相手に先制できるほど高速で動き回れるのなら、相手の攻撃を回避することにだって使える……というわけだ。



「きゅーーーー!!」


「「!?」」


2体のポケモンの牙が迫ったその瞬間、ムチュールを乗せたオオタチのでんこうせっかが発動。

2体のポケモンの牙を掻い潜るようにして攻撃の回避に成功する。


そして、回避技のして発動させたでんこうせっかがもたらしたのはそれだけではない。



「がううううう!!」


「っ!アリゲイツ!!」


勢いあまったウオノラゴンがアリゲイツに噛みついてしまったのだ。



「オイ、ウオズ!何してる!?俺のアリゲイツがお前のウオノラゴンに噛まれてるぞ!?」


「ハハッ、済まないねケイツ君。こればかりは私も予想外だったよ」


「お前ーーー!」


目の前のトレーナーふたりも仲間割れを始めている。

挟み込んで同時に攻撃する場合、攻撃が外れてもいいように互いに攻撃を反らしながら放つのが基本中の基本だ。


だが、その基本を意外にも護れていない奴が多い。


まさかこのふたりもだったとは………。



「ムチュール!ウオノラゴンに“てんしのキッス”!」


「むっちゅ!」


俺の指示の下、ムチュールはオオタチから飛び降りるとアリゲイツを咥えるウオノラゴンの頭部に貼り付く。


そして………




「むちゅ~………」


そのまま柔らかそうな唇でキスをする。


すると………



「ウオッ!?うぉぉぉぉ~~………」


ウオノラゴンはアリゲイツを咥えたまま、目を回し始める。

これが“てんしのキッス”の効果。


かわいらしいポケモンがかわいらしくキスすることで相手ポケモンを文字通り混乱させる技だ。


この混乱……もといこんらん状態は状態異常とされ、一定確率で自分自身を攻撃してしまう。



「むっちゅ!」


ムチュールはウオノラゴンから飛び降りると再びオオタチの背中に飛び乗る。


てんしのキッスを食らったウオノラゴンはというと………



「うぉぉぉぉ…………!」


「あっ、アリゲイツーーーーー!!」

「……ウオノラゴンッ!?」


目を回しアリゲイツをくわえたままウオノラゴンはプールに落ちてしまった。


ウオノラゴンに噛み付かれたショックで気絶したままのアリゲイツ。

混乱して、プールに落ちたまま上がってこれないウオノラゴン。



「…………こりゃ、勝負ついたな。

ムチュールちゃん、プールに“れいとうビーム”」


「むっちゅ~」


そしてそのままムチュールに技の指示。

ムチュールは両手から青白い稲妻のような光線をプールに放ち、ウオノラゴンとアリゲイツが落ちたプールを凍りづけにしていく。


れいとうビームとは相手を凍らせる効果を持つ青白い稲妻のような光線を放つこおりタイプの定番技だ。


ゲームでは一定確率で凍らせて動きを封じることだって出来てしまう。


そして、プールに落ちたウオノラゴンとアリゲイツはプールごと氷付けにされてしまった。




「………アリゲイツ、ウオノラゴン戦闘不能!よって勝者!チャレンジャーカツトシ、ジニアペア!」



静まり返ったスタジアムに審判の声が響き渡る。

これで勝負は決したのだ。
5/25ページ
スキ