2話:希望の担い手(笑)が人間辞めてました。

「………ごほん」


「「あ、すいませーん………」」


ミチノリ社長がわざとらしく咳払いすると、俺とジニアは我に返りポケモンたちをしまう。

顔見知りでなおかつ童顔とはいえ、相手は大企業の社長さんなのだ。


ちゃんと礼節をわきまえないと。


「勝利さん、テラスタルの解説を」

「あっ、そうだった……。 

これが最後の説明になるけど、テラスタルってのはポケモンのタイプの力を強化したり、ポケモンのタイプを変えることができるんだ。

技は変化したりしないけど、テラスタルタイプと一致していたらパワーが上がる。

ステラタイプを使わなくても多分これが一番使いやすいかも」


テラスタルとは『テラスタルオーブ』なるアイテムに貯められた『テラスタルエネルギー』をポケモンに与えることでそのポケモンのタイプを既存のものから『テラスタイプ』に切り替えるという強化方法だ。

テラスタル使用中は体が宝石のように輝き、そのポケモンの頭部に『テラスタルジュエル』と呼ばれる冠が装着される。

テラスタイプは全てのポケモンがひとつずつ持っているものであり、テラスタル中のポケモンは自身が持つタイプの力がパワーアップし、タイプに一致した技が強化される。

テラスタイプはポケモンの種族ごとに決まっているわけではなく、個体によって異なっておりテラスタイプ次第では全く別のタイプに変貌する。

現在発売中の最新作『スカーレット』『バイオレット』では特定の場所に特定のアイテムを特定の数持っていくことでこのテラスタイプを変更することができる。
これにより戦略の幅も広げることができるというわけだ。


「じゃあ俺のノアールちゃんも、ノーマルタイプの技を強化するって使い方だけじゃなくて弱点のかくとうタイプをスカすことも出来るってか?」


「そうだな。テラスタイプをゴーストタイプに変えれば弱点のかくとうタイプを無効化することができる。
ただその場合、弱点もゴーストタイプのそれに変わるから注意が必要な」


「あいよ」


そして、今よりも少し先の未来に『スカーレット』『バイオレット』でダウンロードコンテンツが配信され、そこで新たなポケモンの追加と共にテラスタルも強化されるのだが……それはまた別の話だ。

今はタイプを変えたり、既存のタイプを強化するという使い方をするのがテラスタルだと覚えていただければオーケーだ。



「まぁ、こんなもんかな……。」


「勝利さん、お疲れ様です。
………私からもここでひとつ補足です。

テラスタルやメガシンカ、Z技はともかくダイマックスやキョダイマックスに必要不可欠なガラル粒子はガラル地方限定のもの。

ただ、このキーユウ地方にもその代わりになる粒子があります………ロトム」


「おまかせロト!」


「喋った………だと?」



ミチノリ社長の指示の元、どこからともなくポケモン図鑑に手足と顔がくっついたようなポケモンがやってくる。


こいつはでんきタイプとゴーストタイプの複合ポケモンの『ロトム』。


プラズマで構成された体を利用し、様々な電化製品の中に潜り込んで融合してはその姿を変貌させるポケモンだ。


そして、このロトムはポケモン図鑑と融合した通称『ロトム図鑑』。


ポケモン図鑑と融合したことで、人間の言葉を話せるようになったようだ………なんでかは知らんけど。


無論、最近のポケモンはよくわからないジニアは某少年漫画のようなリアクションしながら固まっている。


ちなみにノエルはロトム図鑑を見ながら目をキラキラさせている。



「このキーユウ地方には各地に高濃度の『キーユウ粒子』が放出しているポイントがあるロト!

そこには野生化した強力なポケモンが住み着いていたり、それを利用してポケモンジムが設立されてるロト!」


ロトム図鑑の液晶には青白い光の粒子が天に向かって登っていく様や、ダイマックスにより巨大化したポケモンたち、それからNPCによるジム戦の様子などが映し出されている。


巨大化したポケモンが怪獣映画さながらにバトルを繰り広げる様は映像越しにも迫力が伝わる。

さぞ実際のバトルは迫力満点なんだろうな。



「すげぇ…………」


「こうして、我が社が開発したデボンスペックを使えばキーユウ粒子の恩恵を受けることで、ダイマックスやキョダイマックスが使用可能ロト!」


「なるほど………そのキーユウ粒子がガラル粒子の代わりになって高濃度のキーユウ粒子に満ちたポイントでダイマックスやキョダイマックスが使えるわけだ」


ロトム図鑑に見せてもらった動画や彼の説明によりダイマックスやキョダイマックスに関しては理解できた。

そして、高濃度のキーユウ粒子が放出されているジム戦では必然的にダイマックスやキョダイマックスが切り札になるのも、なんとなく想像できる。



「………でも、社長。

ダイマックスやキョダイマックスはいいんだけど、他のはどうやって発動するの?

メガストーンもZクリスタルもテラスタルオーブもないんだよね?」


ふと思ったことを口にする。

ダイマックスやキョダイマックスと違ってメガシンカやZワザ、テラスタルは場所に縛られないものだが、これらはそれぞれ専用のアイテムが必須になる。



「デボンスペックを持ってすればそれらの特別なアイテムを必要とせず使用することができます。

ただ、それにはまずポケモンジムを最低ひとつクリアしてください。

それが最低条件ですね」


「………なるほど」


詳しいことはとりあえずジム戦クリアしてからって訳ね。

ミチノリ社長はそこまでいうと立ち上がり……



「ナカムラシティにもポケモンジムがありますので、まずはそこをクリアすることをオススメします」


「おぉ………!」


「………ただ、最近ナカムラジムのジムリーダーが行方不明になったとか」


「えぇー!?」


なんだよソレ!また探せってか!?

イベント発生ですかこのヤロー!



「ちなみに“彼女”がナカムラジムのジムリーダーロト!」


俺たちに割って入るようにロトム図鑑がミチノリ社長の前に立つと、ロトム図鑑にある人物の姿を映す。

どや顔のアホ丸出しのポーズ。


あの少々ネガティブな性格からは想像も出来ないが……アイツも疲れてたんだろうな。




「「なっ…………」」


俺とジニアの顔が固まる。


見覚えのある人物どころの話ではない。


て言うか、『やっぱりこうくるよね』としか言えないかも知れないが、ツッコませてくれ。頼むから。



何故ならば、だ………。




「「ナカムラジムのジムリーダーって………


こいつ(ノゾミ)かよォォォォォ!!」」


……ナカムラシティジムのジムリーダーはあの希望の担い手(笑)、ノゾミ・ナカムラだったからだ。
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