1話:ポケモンの世界になりました。

「はぁ……なんとかなったな………!」


「やぁ!久しぶりだなジニア」


ピカチュウたちを無力化すると俺たちの元にやって来たのはデスマスユーキド………そう、勇騎さんだ。



「これからポケモントレーナーを目指すというのに随分とみすぼらしい格好をしてるじゃないか。えぇ?」


「黒幕はお前か………勇騎。

随分となめたことしてくれたな……!」


仮面をつけた勇騎さんの表情はもはやわからないが、ジニアは普段からは想像もつかないほど怒りを露にしている。

どうやら今回に限り『巻き込まれた』というのは本当のようだ。



「ハッハッハッ!この私こそが真のォ………ポケモンマスタァァ………!」


「知らねーわ。ていうかそのスーツ今すぐ脱げや。

おめぇとペアルックとか耐えられねぇわ」


珍妙な動きをするデスマスユーキドとそれを睨むジニア。

そんなふたりのスーツを見比べると………なるほど、たしかにほぼ同じだ。


しかも中のワイシャツまでご丁寧に黒色だ。




「ぷっ………!マジでペアルック………!」


「笑うんじゃねぇよ」


そんなふたりの格好を見て思わず吹き出してしまう。

ジニアには悪いけどこれは笑うなという方が無理だ。



「ハッハッハッ!怒っている割には随分と楽しんでる様子だが?」


「な、何をバカな……」


直後、ジニアの肩に乗っかってくるのはジニアのオオタチ………たしかノアールちゃんだっけ。

そしてジニアは肩に乗っかったオオタチを誘導し、両腕で抱き抱える。


オオタチの尻尾が長すぎて地面についてでろーんとしている。




「……………嗚呼、ここは天国か」


「オイィィィィィィィィ!!」


オオタチを抱き抱え表情筋がゆるみきっている馬鹿野郎と、デスマスの仮面を被って支配者気取りの馬鹿野郎。


なんとシュールな光景だろうか。



「おっと……呆けてる場合じゃねぇな。
ここで終わりにさせてもらおうか………」


「ハッハッハッ………!そんな脆弱なポケモンでなにができる………?

……それに」


ジニアや俺を挑発するかのようにそういえば、背後のユーキド研究所の跡地を見て…………





「………私も研究所が吹っ飛んでしまった……。





やべぇ…………どうしよ。泊まるところねぇ」





「「それ自業自得だから」」



「ほ、ほほほほほざきやがれ!真のポケモンマスターなるこの私の辞書に自業自得の文字はなァァァい!!」


デスマスの仮面越しからでもわかるこの動揺。

やっぱり勇騎さんだ。
安心と安定の勇騎さんクオリティだわコレ!





「まぁいい。私はこれで失礼させてもらうよ!はーっはっはっはっは!!」


どこからともなく現れた農業用一輪車に痺れていたり眠っていたりするピカチュウたちを拾い集めては荷台に乗っけて、全て回収するとデスマスユーキドは凄まじいスピードで走り去って行く。




「あー………空飛ぶとかそんなんじゃなくて、走って撤退なんだな」


隣には呆れ顔のジニア。


俺も思わず苦笑してしまう。



とにかく………助かった、っていう解釈でいいのかな?
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