2話:魔法少女としてがんばります!……ってどおしてだよォォ!!

「分かってる………“許されない”ってことは。

他の誰かから大事な人を奪ってきて、自分だけは大切な人の命乞いをする。

醜いよな…………」


どんな犠牲を払おうとも、誰が傷つこうとも、どんなリスクを背負おうとも、それがどんなに大きな十字架であろうとも…………

俺たちは『アンゲロスを根絶やしにする』と決めた。



自分を見失うくらい、奴らが憎かった。
俺たちから家族と居場所を奪った奴らが。


でもそれ以上に生きるために、動画配信での広告収入と奴らの撲滅という希望にすがるしかなかった。



───それほどにまで当時の姫矢は何もなかったんだよ。



なにもかも壊されて、頼れる大人も誰ひとりいなかった。

しかも許可証の制度のせいで救助が遅れる有様。



血の聖誕祭からチームバルチャーをやるまでいた孤児院、『霧継院』では、スマホをひとり1台持たされていたから、亨多のスマホから動画配信をスタート出来たけども、そのスマホを充電するための電力を得るためにもひと苦労したし、無論動画配信が軌道に乗るまでは盗みを働くしかなかった。


俺たちは助けるべき存在として『選ばれなかった』から。


社会から見捨てられた存在だったから。




「そんなこと分かってる。

俺は裁かれてもいいよ………最初から、地獄行きなのは覚悟の上だから」


ただ、孟と亨多にも嘘をついていた。


動画配信しながら人間の姿をしたアンゲロスを殺すなんてイカれたことなど普通の人間に出来るわけがない。

あのふたりが迷うのは容易に想像も出来たし、真実を知ったふたりが傷つくのは分かりきっていた。


俺は霧継院でアンゲロスが生まれる瞬間を見たし、“先生”の持ってた資料も読んでしまったからわかる。

……こんな現実なんか知らなくてよかったんだ。

知ってしまえば俺たちは、姫矢の街では生きてなんかいけない。




………それも誰かさんの“薄っぺらい正義感と希望”の前に台無しにされたんだけども。




そして……何より俺ひとりがこの罪悪感と十字架を背負っていれば何の問題もない。

それにアンゲロスと戦うのは、ほとんど俺ひとりだ。




だから、何の問題もない。



そんなある日、沖田 優里香(おきた ゆりか)が俺たちの前に現れた。


ショートカットが似合う小柄な女の子だった。

小学生の頃に俺たちのアンゲロス狩りの真似をして襲ってきた奴のせいで家族を皆殺しにされて、自分もアンゲロスにならざるを得なかった………らしい。

そして、アンゲロスになってからは“未来を奪われたかのように”体の成長も止まって子供の姿のままだ。



もちろん模倣犯の出現もそれがアンゲロスの出現を招くことも想像に難しくなかった。

むしろそのリスクを真っ先に考えたのは俺だったくらいだ。



だけど考えていたより事態は深刻で、模倣犯もアンゲロスとなんら関係のない被害者もこの街に山ほどいた。


そして姫矢の街を覆っていた誰がアンゲロスかわからないという『疑心暗鬼』がそれを助長し、いつの間にかアンゲロス狩りを名目に軽い気持ちで人間が人間に暴力を振るうという事件が多発していた。



俺たち以外アンゲロスと人間を区別出来る術はないから、アンゲロスだといって騒ぎ立てれば警察もその線で動いてしまう。

警察も適当どころか、見るからに投げやりになってるんだ。




そのせいで、あの子は全てを奪われたんだ。

………かつての俺たちと同じように。




“何があってもアンゲロスを倒す”。



軽い気持ちでやってるつもりはなかった。

リスクだってわかってるはずだった。




…………でも俺たちがもたらしたものは、ただの“地獄”だった。








「…………でも、それで何の関係もない勇騎さんを殺すのは違うだろ」


「…………」


俺ひとりが裁かれるならそれでいい。


街を地獄に変えて、関係のない人たちを死なせて、仲間に嘘をついて…………

『4人いた』チームバルチャーの仲間だってひとり死なせた。


そんなクズの俺なら殺されたって仕方ない。




「俺なら………殺されたって、仕方ねぇし文句を言うやつだって、いない。

でも、勇騎さんは………………」





「あ?……文句を、言うやつなんて…………いない……………だと………………?」



「!?」



何を思ったのか、ユライトが攻撃する手を止めた、その瞬間だった。


かすれるような声が響きわたる。


明らかにドラゴンのお姉さんの声とは異なる声。



そう、その声は………………




「勇騎さん!!」
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