4話:今!(この世との)別れの時~♪(あの世へ)飛び立とう~♪……って、黙れや!!

「それに…………」

「………」

はぁ、とため息をつくと俺はセッテの方に向き直る。
これをセッテに対して言うのはいささか抵抗がある。
セッテにとっては酷な話かもしれない。

ノンたんと出会う前のことも、ノンたんと出会ってからのことも俺は知らない。

だけど、それでもこいつがノンたんから『心』を貰ったと言うのなら、これは話しておかなければならない……と思う。

セッテのためだけじゃなくてノンたんの為にも。


「あんまり言いたかないけど……たとえ千花がいなくたって、俺は今のセッテとノンたんの事を応援はしない」

「なんで!!」

当然セッテは声を荒げる。
セッテにとってはノンたんこそが世界の全て。
そのノンたんとの関係を否定されることは、セッテにとっては己の全てを否定されているようなものだ。


「だったら逆に聞くけど。
セッテはさ、ノンたんと一緒にいて……

ノンたんを幸せにしたいの?
それとも、セッテ自身が幸せになりたいの?

自分の胸に聞いてみ?
今は……セッテの中でどっちの気持ちの方が強い?」


「………そ、それは」


バツの悪そうな顔をして黙りこむセッテ。
自分の都合が悪くなった時に黙りこむ癖はセッテにもあるのか……。


でも、その沈黙こそが答えだ。



「…………やっぱりか」


「……っ!だったら何!?

アンタだって他の男にノエルちゃん盗られたら悔しいでしょ!?」

俺の言葉に激昂したセッテが食ってかかる。
……痛いところをつくよ本当に。


でも、俺の答えは最初から決まってる。



「……あぁ、悔しいだろうな。
泣くだろうな。
そしてその幸せ者をぶん殴るだろうな。

でもさ……ノエルが本当にソイツの事が好きなら、ノエルが本当にソイツといて幸せだって思えるなら……

俺はもう、それでいいって思ってる。

泣きながら赤飯炊くよ。
ちょっと塩味効いてるかもしれねぇけどな。ハハッ……」


「………なんで……?

なんで?なんで!なんで!なんで!!なんで!!

アンタ、ノエルちゃんのこと好きじゃないの!?

なんでそんな事言えるの!?意味分かんないよ!!」



「……好きだからだよ」



「……ッ!?」


俺はセッテの出自を詳しくは知らない。

でもノンたんやドラゴンのお姉さんから少しだけ聞いた。

どうやらセッテは元の世界で戦闘用に作られた人造人間の類らしい。
でも……


初めて人の心に触れて。
初めて人を好きになって。

そうやって少しずつ心を芽生えさせていったのだという。

そして今は……初めて『嫉妬の苦しみ』を知った。
大切な人を横取りされた『怒り』を知った。
恋が実らなかった『悲しみ』を知った。


今、セッテは混乱しているんだ。
自分の中に渦巻く黒い感情に。


でも……いや、だからこそ向き合わなければいけないんだ。


そして、俺たちが出来ることはセッテが正しく人の心と向き合う手助けだ。

同じ心を持つ『人間』として。
たとえそれがセッテを苦しめることになったとしても。傷つけることになったとしても。

それはきっと、セッテが人として生きていくために必要なのはことだから。


ノンたんだけじゃなくて、セッテにも恨まれる覚悟は出来ている。

……俺は話を続けることにした。



「………好きだから、好きになったから。

だからあの子の幸せを願うんだよ。

あの子が幸せでいられるなら、俺はそれでいい。
たとえ俺が隣にいなくたって………。

『好きになる』って、そういうことなんだって俺は思ってる。

だからさ………」


「……っ…………!」


セッテは目を見開き、俺を睨む。

その間にもセッテの目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

──そうだよな。

苦しいよな。
悲しいよな。

この気持ちを、どこにぶつけていいか分かんないよな。



──わかるよ。

形は違うかもしれないけど、ついこないだまで俺もそうだったから。

どこにぶつけていいか分からない怒りに振り回されたから。



「……今は辛いかもしれない。
だけど、セッテにはノンたんと離れて自分の気持ちを整理する時間が必要なんだと思う。

俺は、セッテまでおかしくなるのは耐えられねぇ。

勇騎さんたちには俺から言っとくし、お前の分も働くからさ……

Re:BUILDとの戦いも、BATTLERのバイトもしばらく休んでくれ」


「わかんない……。私に分からないよ……!

うっ……うぅっ………。

……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


結局俺にセッテを諭すことは叶わず、セッテは小さな子供のように大声で泣き出してしまった。

分かってはいたが、俺には理緒ほど相談役には向いてはいないらしい。

俺にやれることはないのかもしれない。

それでも、俺はセッテの背中をさすり彼女を慰め続ける。


一度差しのべた手だ。
今度こそ離したりはしない。

そう自分に言い聞かせて……。
36/41ページ
スキ