4話:今!(この世との)別れの時~♪(あの世へ)飛び立とう~♪……って、黙れや!!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ポツポツと雨の雫が少しの間私の頬を打ったかと思えばすぐさま雨脚は勢いを増し、寒空の下の私の体を濡らす。

どしゃ降りという表現すら生ぬるい、まるで大きなバケツをひっくり返したかのような水の塊のごとき豪雨。


それら全てが1月の冷たい風と共に私の体を凍てつかせる。



冷たい……寒い………痛い…………。



本当に私は何をしているのだろうか。


靴すら履かず、上着も羽織らずに部屋着のまま、あのアパートから飛び出した。


何をどうしていいのか分からなくなった。

自分なりに最善を尽くしても。ひたすら努力をしても。



誰も理解してくれない。
誰も認めてくれない。
誰も助けてくれない。



なにひとつとして報われやしない。



状況はますます悪くなる一方で、そのうち私は自分のことすら分からなくなった。





「あぁっ!!」


足元をロクに見ていなくて、何かに躓いてしまい顔から地面に叩きつけられる。


鈍い痛みと共に鼻の奥にツンとした感覚を覚えればナニカが鼻から口元へと滴り、流れていく。



ああ、情けない。本当に情けない。



本当に私は何をしているのだろうか。



地面から起き上がることすらせず、仰向けになり空を見上げれば黒みがかった灰色の空から雨が降り注ぎ、私の全身を濡らす。




──この雨が。
この街の涙のように降り続ける雨だけが、私に寄り添っているようだ。


毎日のように戦火に晒され、何度も何度も崩壊の危機に瀕して、そしてそこで暮らす人たちの命も奪われていく。

暮らす人のいない街は空虚な箱。

賑やかできらびやかで、喧騒と活気に満ち溢れた姫矢の街も、その裏は人々から見放され雨の音が響くのみの閑散としたものとなっていた。


そう。今の私のように。

仲間だと信じていた人たちから見放され、ひとりで傷ついて、泣き叫ぶ。


そうだよ。この空も、この街も泣いてるんだ。

…………私と同じように。





「あぁぁぁああああああああああ!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


どおしてだよおおお!!

どおしてだよおおおおおおおおおおお!!」




恐怖、絶望、憎悪、怒り、悲しみ、嘆き………

それら全てが心の内側で渦巻き、膨れ上がっていく。


黒く淀んだうねりが私の内側から食い破るように暴れる。


夢も故郷も家族も友人も奪われ、残った大切な人たちにも見捨てられた。



なんでこうなったの?なんで全部奪われたの?


私が何をしたっていうんだ。



私はただ……みんなと一緒にいたかっただけなのに。



私は…………私は……………











「…………惨めだな、お前」



──直後、私の顔に打ち付ける雨は黒い影に遮られる。


そして私へ放たれる冷たい言葉。
向けられた冷ややかな視線。



声だけでわかる。
私の視線に入り込んできたのは私の敵。


私から全てを奪った男の腹心………!





「来栖……!!」


黒い傘に黒い服……。

見飽きたほどに何度も顔を合わせたあの男。



来栖 黎人がそこにいた。
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