4話:今!(この世との)別れの時~♪(あの世へ)飛び立とう~♪……って、黙れや!!

「…………ノゾミ」


セッテの顔は今まで見たことない程に冷たい視線をノンたんに向けていた。

親友が今まで見せたことのない表情に愛想が尽きたのか、それとも見たくなかった一面を見せられてどんな顔をしていいのかわからないのか。 

しかし……その顔はすぐに怒りとも悲しみともとれる表情にかわり、セッテはノンたんを睨み付けた。


ノンたんの話では“一度全部抜け落ちた”というその桃色のウェービーショートヘアーが彼女の複雑な想いを現すかのようにフワリと舞った。




「せ、セッテ……………違うの……………」


先ほどの嘲笑がすっかり狼狽に変わり、後ずさるノンたん。

まるで逃げ道を塞ぐかのように彼女の背中が水槽に当たると、へなへなとその場に座り込んだ。





「…………ノゾミはやっぱり……そういう人だったんだね」



「………っ!セッテっ!」



端から見ればあまりにも言葉足らずな会話。

でも、それだけこの二人は心が繋がっていたのだろう。


言葉がなくても互いの事が分かってしまう。


でも………それは上辺だけ。


互いの心の底に抱えた闇までは分からなかったようだ。

そして、互いの醜さを受け入れるだけの覚悟もなかったようだ。


セッテも………ノンたんも。




だからこそ終わりは唐突に、そして呆気なく訪れる。



『親友』と言っても所詮は『他人』。自分自身にはなれやしない。



残念ながら、これが現実だ。




セッテは、俺が毎朝セットしてる桃色のセミロングの髪をたなびかせ、ノンたんに背を向けると部屋を飛び出していった。


まるで、親友の醜い姿を見たくなかったと主張しているかのように。



セッテ自身がノンたんの醜さを受け入れられないと証明しているかのように。




「どおしてだよ………」


そして、それはノンたんも同じ。

いや……ノンたんはセッテ以上に脆く潔癖なのだ。

それは敵とみなしたものに対する行動で示されている。



希望の担い手と自称しながら、一度敵と見なせば完膚なきまで叩きのめし希望を根こそぎ奪う。

それが俺がノンたんに抱いた第一印象だ。



『やらなきゃやられる』という厳しい世界なのは分かるが………

彼女と同系統の仮面ライダーになる仮面ライダーウィザードの掲げる『最後の希望』という理想とはあまりにもかけ離れているし、何よりもノンたんの語る『希望』はウィザードのそれとは比べものにならないくらい陳腐なものだった。

あまりにも矛盾を抱え、あまりにもお粗末で薄っぺらくて中身のないノンたんの『希望』。




これは彼女の暮らしてきた環境以前に彼女の性格や性質が関係していたのだろうと思う。





───だが、問題はそれを本人がまるで気づいていない事だ。







「どおしてだよ………


……どおしてだよおおおおおおおお!!」



ノンたんの慟哭が響きわたる。

セッテを追いかけるでもなく、いつものように言い訳をするわけでもなく、ただただ泣きわめく。


本当は殴ってでもノンたんにセッテを追いかけさせるべきだったのだろう。


でも、これは勇騎さんも悩んでたことなのだろうが………ノンたんの心の内側にどこまで踏み込んでいいのか、そしてその資格が俺にあるのか。


今の俺には分からない。



“仲間”にも“友人”にもなれず、ただただ“同盟”という中途半端かつ曖昧なもので繋がっているだけ。


俺は先ほどまで感じていた怒りがいつしか消えていたのに気づいた。

それと同時に、俺の胸の奥で渦巻く筆舌に尽くしがたい淀んだ想いにも。



───それは“罪悪感”。

ノンたんを中途半端と評しながら、結局俺も中途半端。

ノンたんに“同情”しているんだ。



俺も先生……ジニアのように徹頭徹尾冷酷に振る舞えれば、きっとこんなに悩まずに済んだんだ。




そうだよ………きっと、悩まずに済んだんだよ。






「…………」


勇騎さんが俺の腕を離すと、俺は静かに腕をおろした。




…………もう、ノンたんを殴るなんてこと出来やしなかった。
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