4話:今!(この世との)別れの時~♪(あの世へ)飛び立とう~♪……って、黙れや!!

───本堂裏。


いつもはひとりでコッソリと来ては無縁仏たちに花束とお祈りを捧げてきたこの場所に宿敵が……ジニアがいる。

しかもジニアはというと、ここに来るなり墓前に跪いては花束を供え、祈りを捧げた。


『魔王』と形容するふさわしい強さと狡猾さ、そしてその傍若無人ぶりで俺たちを苦しめてきたジニアがアンゲロスとして始末され、身元引取人すら分からなくなった人たちのために祈りを捧げている。


なんとも不思議な光景である。


それを見透かしたのか、ジニアはふと口を開いた。




「…………可笑しいか?俺がこいつらに祈りを捧げるのが」


「そう思うんだったら世界を滅ぼすなんてバカなこと止めたら?」



ジニアは……先生はあの時からなにひとつ変わらない。
まるで時が止まったかのように、あの頃の姿のままだ。


ただ………変わったのはお互いの“立場”だけ。



……『教え子と先生』から『敵同士』へ。


俺たちが過ごした孤児院が………霧継院がなくなって、先生ともはぐれて、また路頭に迷って。


まさか先生が生きてて、こんな風に殺し合いをする間柄になるなんて思いもしなかった。




「アホか………何年越しの計画だと思ってんだ。今更後戻りできるかよ」


ふぅ………と小さくため息をつけば立ち上がり、俺をまっすぐに見据える。

俺を見ているようで見ていない、そんな空虚に満ちた目。


俺はその目を見たとき、酷く悲しくなった。


どれだけ姿は同じでも、もうそこには俺の知っている先生は…………駅の子として住民から蔑まれていた俺を導いてくれた優しい先生の眼差しはどこにもなかったからだ。



───奴は“敵”。

俺の知る『先生』は死んだ。

そして目の前にいる男は決して相容れない存在。


俺たちと戦う魔王……『ジニア・ロックディール』なのだとその目が告げている。



「………なんで、だよ」


───戦わなければならないのは分かる。

そうでなければ、他の世界はもちろん俺たちのいるこの世界も消えてなくなってしまう。


そうなれば、文字通り『世界の終わり』『人類滅亡』だ。



でも………………。
23/41ページ
スキ