3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

「っ!!」


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」


ギリギリで避けようと飛び退くユライトとイージス。

しかしユライトは避けきれたものの、イージスの方は避けきれなかったようで、自ら炎に呑み込まれていくかのように炎の渦に巻き込まれ吹っ飛ばされていく。



「セッテ………っ!!」


ションベンタレは吹っ飛ばされていった親友を助けたいのだろうが、やはり自由には動けないご様子。


当たり前だ。簡単に動けないようにこっちも力を調整しているんだよ。



「あーあ、神龍サマが避けちゃうから」


「…………っ」


『神性の常時解放』。

その身に宿した文字通りの神の名に恥じない超常の力を解放することで戦闘力を爆発的に上げるモノだ。


その反面、戦闘に必要ない人間は欠如していく。

普段は温厚な吉田英華ですら、こうして仲間がやられたことに大した反応を示さなくなるほどには。



おそらくこれが神龍としての人格なんだろう。

でもね………いくら神龍と言っても。

いくら創世龍の加護を受けたといってもね………。


マスクドライダーシステムという『既存の平成ライダーの壁』から抜け出せなかった時点で勝負は決まってる。



「………クロックアップ」


《Clock up!》


神龍としての彼女は表情をまるで現さないが、吉田英華……いや、フェイト・T・T・アーチャーとしての彼女はめちゃくちゃ怒っているんだろうね。

ゼクターの操作によりクロックアップを発動した。


高速の世界からによる強力な一撃。



少なくともセッテのイージスとは比べ物にならないくらいのスピード。


いや、僕が見たどのクロックアップより彼女のクロックアップは速い。



でも…………『だけども』がつくんだよなぁ。




「………速いねぇ、確かに」


ユライトのクロックアップによる攻撃をその強力な装甲で耐える。

キカイの力を受け継いだゼーレ・FKGハイドスマッシュの装甲には奴の攻撃は傷ひとつつかないし、痛くもなんともない。


………さっきアナザーRXに変身してた時に喰らったユライトのライダーキックは地味に痛かったから、やっぱりゼーレの装甲は相当なものだと思う。



「でもね、どれだけ速かろうとハイパーだろうとなんだろうと………クロックアップは“宇宙の力”。


宇宙そのものであるギンガの力にかなうわけないじゃん」



《GINGA……Awaking》

《ストライク・ザ・プラネットナインッッ!!》


ギンガの力の発動と共に現れる無数の惑星。

僕という太陽を中心に形成される銀河の星々はひとつひとつが獲物を狩り取る弾丸。



───奴の独壇場である高速の世界など、容易く侵略する。




「はぁっ!!」


拳を振るうと共に、惑星たちは一斉に獲物目掛けて降り注ぐ。


その姿はさながら“流星の雨”。




「ぐっ…………!」


クロックアップの世界からも惑星が自分に負けないほどのスピードで迫っているように見えたのか、急に方向転換し回避を試みる。


残念だけど、無意味だ。




───惑星たちは彼女の動きを正確に捉えた。



「………あぁぁぁぁぁぁっ!!」


彼女が移動した先に急に現れそのまま炸裂したり、物理法則を無視して方向転換して炸裂したりで惑星は全て彼女に炸裂していく。


どういう原理かは知らないが、この能力は高速移動やそれに準ずる能力には“とにかく強い”。

かつて僕と同じようにギンガの力を手に入れた『ウォズギンガファイナリー』も、クロックアップしたアナザーカブトや高速移動を得意とするゲイツリバイブ疾風に対しこの能力で勝利をおさめている。


そして僕の力はもはやギンガそのもの………いや“オリジナルすら凌駕している”。


その威力もスピードも、もはや桁違いだ。



《GINGA……Awaking》


《ギカンティック!ギンガーーーーー!!》


「これで終わりだぁぁっ!!」


拳に宿る破壊の力。

本来ならエネルギーの弾丸として放つそれを僕は拳に宿らせた。


そして、惑星の攻撃で体力を失っているユライトに放つ。



「っ!プットオン!!」


《Put-on》


いい判断だ。

──やっぱり、神龍は他の雑魚共とは違う。


この土壇場でプットオンを局所的に発動させ防御を固めるとは。


そして彼女には創世龍の加護だってある。



…………戦うのがこのゼーレじゃなければ、逆転もあり得たかもね。



「っ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「フェイトさんっ………!」


破壊エネルギーを纏った拳はプットオンされた彼女の胸部にヒット。


しかし、プットオンされた装甲の内部から爆発音が響き渡ると彼女はプットオンされた装甲に撥ね飛ばされるようにして吹っ飛ばされた。


むなしく僕の足元に転がるマスクドフォーム時の胸部装甲。


そう、仮面ライダーに詳しい人なら察しがつくかも知れないけど、この機能はパラドクスに由来するものだ。


パラドクスレベル50には『ダイレクトヒットグローブ』『ダイレクトヒットシューズ』という装備が、パラドクスレベル99には『ダメージインパルサー』という装置がグローブやシューズに仕込まれている。

前者は相手の防御機能を全停止させることで防御効果を一切無視した攻撃を行え、後者は攻撃の衝撃を相手の装甲の内部に直接伝えることが出来るのだけど、このゼーレにはそのどちらもが強化された状態で組み込まれている。


対するユライト……吉田英華の纏う『創世龍の加護』だが、エターナルの26本による一斉マキシマム………俗にいう『世界のひとつやふたつ容易く破壊できる』一撃すら耐えられる……と言われている。

対ライダー戦なら間違いなく最強クラスの防御能力。


だけど………あくまでもそれは相手が『既存のライダー』であることが前提の話。



特殊機能が云々ではなく、そもそもこのゼーレのパワーにそんな加護なんてものは通用しない。



……………それほどにまでデュアルフュージョンの力は………創世龍の加護ならぬ“ハルシオンの加護”は凶悪なのだ。



そう、だからこそこうやってユライトは普段ではあり得ないような吹っ飛ばされ方をしたって訳なんだ。



吹っ飛ばされていったユライトは大木を何本もなぎ倒しながらようやく停止し、ゼクターが分離して、ようやく変身が解除された。




「………想定より遥かに強すぎる………!

まさかここまでなんて……………!」


彼女は地面に前のめりに倒れるも、片膝をつきながらも僕を睨む。


父さんがこの世界にやって来たばかりのセッテにやったように、セーフティシステムをぶっ壊すなんて方法もやろうと思えばやれるけど………今回はただの遊び。


ユライトに関してはそこまでやりはしない。



ジャパニーズにはお馴染みの『武士の情け』って奴だ。


彼女は正真正銘の戦士だ。



………どうせなら、ちゃんとした戦場でちゃんと決着をつけたいだろ?
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