3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

「…………っ!」


気がつくと私たちは動物園から遠く離れ、石切場の跡地のある森の中にいた。


森は若干薄暗く、不気味な印象を与えられる。


……………やっぱり私の手は震えている。



「そんなに遊びたいなら相手になるよ……

………ここなら邪魔が入ることないだろ?」


眼の前の白銀の戦士……アナザーRXはマントを脱ぎ捨てるとベルトから光の剣……否、光の“杖”を取り出した。


それは元はBLACK RXの武器であり、貫いた者を確実に葬り去る………『リボルケイン』。

進化したことでシャドームーンも使えるようになったと言えば納得なのだが、『シャドームーンがRXと同等の進化を果たした』というのは聞いたことがない。



………私が知らないだけなのかもしれないが。





「…………の、ノゾミお姉ちゃん……っ!

行っちゃダメ………!!」


武器を構える私に対し、千花は私にしがみついて戦いを止めようとし始める。


私には彼女の行動が理解できない。



「離して………私は絶対に負けないから」


「無理だよ!

なんでか分かんないけど………


ノゾミお姉ちゃんじゃあの子には勝てないよ!!」


涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、千花は私に『戦うな』『私では奴に勝てない』と言った。

なんで千花までそういうのか、私には分からなかった。


私が弱いから?まだ力が足りないから?



私は希望の担い手なのに…………。



自分に何が足りないのかなど全く分かるわけもなく、この時、ただ私を心配してくれた千花が泣きながら私を止めたのか、その理由にすら気づけず、千花にまで自分を否定されたような気がして…………私は苛立ってしまったのだ。



「っ!そんなのやってみないと解らないじゃん!!」


「きゃっ!!」


私はライダーに変身していることすら忘れて、彼女を思いっきり突き飛ばしてしまった。



「っ………!」


勢いよく木に叩きつけられ、千花はその場に崩れ落ちる。
更には力のコントロールが出来なくて、運悪く鋭く尖った木の枝が千花の腕を貫いた。

彼女は腕を押さえながら蹲った。

普通なら大怪我だ。
だが、その手からは血………?いや、血ではない黒い体液が滲んでいた。




「千花…………っ!

えっ………千花………?」


私はそれを見て、思わず固唾を呑み込んだ。


今まで普通の女の子だと信じていた彼女が………

私を唯一理解してくれた存在が………



私が唯一信じていたものが、崩れていく。




私が私の手で壊してしまった。



───見ないように……気づかないフリ、してたのに。




「うっ……!

…………え?

な、なにこれ…………?


なにこれ!?血………じゃない!?

なんなの……?なんなのコレ!?」


千花も自らの腕から滴り落ちる黒い体液を見て動揺する。

記憶を無くしてるってのが本当なら、本人だって気づいていなくたって無理はない。




「あーあ………やっちゃったね、ノゾミちゃん。

まだ戦ってないのにもう自滅してんじゃん……

ま、これが希望の担い手(笑)クオリティなんだろうケド」


私を、私たちを嘲笑う白銀の戦士。


私には奴が悪魔に………いや、それ以上にタチの悪い存在に見えた。



私は、『あの感情』が胸の奥底から沸いてくるのを感じた。


それは例えるなら“黒いうねり”。

大蛇のようにのたうち回り、私の“理性という鎖”を引きちぎっていくもの。




────そう、それは『憎悪』。



………奴を殺したいほどに憎む、どす黒い感情。




「…………あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


私は剣を強く握りしめると奴に突っ込んでいった。


何が本当に大事なのか何一つ解らないままに、私は…………




また『あの時』と同じ過ちを繰り返してしまったのだ。
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