3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

──Aegis SIDE ──

「………どうして………どうしてなんだよ………どうして……」

ノゾミたちが動物園に向かい、部屋を出ていってから、どのくらいの時間がたったのだろう。

30分?1時間?

もう少し経ってるかもしれない。

私は思わず脱いでしまった下着を着けると、ベッドの下から這い出た。

ベッドの下で泣きながら、惨めなことにノゾミの声を聞きながら自慰行為に耽っていたのだ。


惨めだった。悔しくて仕方なかった。

悔しいだとか悲しいだとか、そんなことをいいながら結局己の欲求に逆らえない。

ノゾミはもう私のものではない。
私は親友を奪われた惨めな女。

そしてベットから這い出て親友を奪ったあの女をひっぱたく度胸もなく、ノゾミと行為を続けるあの女を自身に置き換えて自慰行為をするしかなかった。

そんな現実をあの短時間で否応なしに突きつけられて、もう立ち上がる気力すらなかった。



──あの瞬間、私は失恋したんだ。

そしてもうノゾミは私に振り向いてくれないのも確信した。



ノゾミは……あの女に汚されてしまったんだ。




「───殺してやる」


私は徐に立ち上がると廊下にある、台所とも呼べないIHクッキングヒーターとちょっとした台があるだけの調理スペースに行き、包丁を手に取った。

私の心の奥底をナニカが黒く塗りつぶしていくのが分かる。


醜く、重く……ドロリと纏わりつく。

そんなドス黒い感情。


もはや憎悪だとか……言葉で表現することすら出来ない強く重い感情。


否定する気はない。もう、この感情に委ねて………


───殺してやる。





ノゾミを奪ったあの女も、あの女にうつつを抜かしたノゾミも………みんな殺してやる。

そしてさ、ノゾミの体から抉りとった心臓をネックレスにするの。


そうしたらノゾミと私はずっと一緒。

ノゾミはもう、私から離れられない。



「善は急げ、だよね………!」


目的が出来たからだろうか。
今度は逆に体に力が漲ってきた。
私は包丁を片手に部屋を飛び出した。

目標はノゾミとあの女。

あのふたりは今、駅にいるはずだ。


背中からブスリと一撃で仕留めてやる。


ドアを勢いよくあけ、私は部屋を飛び出したのだが………





「うぉっ!?」


「きゃっ」


……どうしてこうもうまくいかないんだろう。
間が悪いことにドアを開けた瞬間、別の仲間と出くわしてしまう。



「………せ、セッテ?
お前、なんでノゾミの部屋に………?

……って危なっ!!」

それはここのメンバーの中で最もデリカシーに欠けた男。

最もこういうことに疎いであろう男。

正義の味方ヅラをするお子様……篠原輝だった。
54/82ページ
スキ