3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

「ねぇ……千花」


「ん?どうしたの?」


千花が愛しくて仕方ない。

一緒にいるだけで心が暖かくなる。

この世界に迷いこんで忘れていた本当の私を思い出させてくれる。


だからこそ……少しだけ千花をからかってやりたくなった。



「……そういえば、なんでスカートの下にスパッツなんて履いてたの?

別に女の子同士だから要らないじゃん」


込み上げてくる笑いを堪えて、彼女にいたずらしてやりたい衝動をぐっと堪えて、私は彼女の太ももを撫でる。

顔が熱くて、心臓も凄まじい速さで鼓動する。


でも、欲望には抗えやしない。




「のっ……ノゾミお姉ちゃんが、アタシのお尻ばっかりジロジロ見てるからでしょ~………

こないだの銭湯の時だってずーっと私のパンツ見てたし……」


「あれー?千花、女の子同士なのに何緊張してるのー?」


顔を赤らめ、私から目を背ける千花の頬をツンツンつつく。

頬をつつく反対の手で彼女のお尻を撫で続けている。


手を這わせるたびに彼女は小さくピクンと跳ね、俯く。

みるみるうちに顔が赤くなっていく千花の顔はリンゴのよう。




「………………千花」



────“愛してる”。

私はそういって彼女の唇に自らの唇を重ねた。


舌を這わせるのではなく、彼女の唇の感触を味わうように舌で彼女の唇の形をなぞった後、自分の唇で彼女の上唇を甘噛みした。

とれたての果実のような柔らかさを味わうと、私は彼女の唇から自分の唇を離し、彼女を見つめる。


リンゴのような真っ赤な顔に、琥珀色の瞳が涙で潤んでいた。



“愛してる”。


……この時感じていた彼女への想いは嘘ではなかった。




しかし………私は気づいていなかった。



彼女は紛れもなく私を“愛していた”。


しかし、私は……彼女を“愛していた”のではなく、彼女に“恋をしていた”のだと。





だってそうでしょ?



『恋』は『愛』に昇華する前の、自分本位なエゴ………そして“執着”だ。



自分本位の感情を彼女に向け続けた挙げ句、私は彼女の意思を何一つとして尊重出来ていなかった。しようともしなかった。

“愛している”ようで“愛していなかった”のだ。



……………結局私は、彼女を思い通りにしたかっただけなんだよ。
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