3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!
─────2023年1月下旬──
「………どうしたの、ボーッとして」
優しい声が響く。
月音よりも大人びた声。
はじめて出会った時の冷たさを感じる声ではない。
そう、声の主はドラゴンのお姉さん……英華さんだ。
「ううん、なんでもない………それよりも、どう?俺のコーヒー」
「美味しい………知り合いの淹れたコーヒーと同じくらい」
「お褒めに預り光栄です、ドラゴンのお姉さん」
理緒や月音の見よう見まねでやってみたのだけど、どうやらうまくいったみたい。
少し嬉しくなり、わざとらしくおどけてみせるとドラゴンのお姉さんは困ったように笑う。
改めて思うのだが、浮世離れした金色の長髪を後ろでまとめた彼女は何をしても絵になる。
あり得ないほど美しいのだ。
それこそあの夜にはじめて出会った時の金色の煌めきを改めて思い出してしまう。
正直、ノンたんやセッテみたいなゲテモ………トンデモ女たちと同じファンタジー世界の住人とは思えない。
いや、むしろファンタジー世界の住人だからこその美しさなのか。
あれ?それだとあのトンデモ女たちってぶっちゃけかなりハズレの部類なんじゃ…………あー、考えるだけ無駄か☆
「………勝利くん、ひとついいかな?」
「どうしたのさ?食い物なら簡単なモンしか作れねーけど………」
「違う違う。そうじゃ……そうじゃない」
愛は渡さないってアレか?
………なんてジョークを言える雰囲気ではない。
「ノゾミと千花のことなんだけど」
「………」
あのときの月音のように何かを言わなきゃいけないけど、言うのを躊躇っている………そんな顔。
思わず身構えてしまうが、俺の方が警戒していると彼女が話せない。
俺は用意したマグカップにコーヒーを注ぐと一口だけなんで自らを落ち着かせる。
「…………ノンたん、最近様子おかしいよな。
あまり飯食べなくなったし、ずっと千花とベッタリでさ………。
だから俺と理緒のふたりでセッテのフォローとかしてるんだけども」
「うん、その事なんだけど…………
その……………ノゾミと千花、だっけ……。
あのふたりを引き離せない、かな?」
───その言葉に戦慄したのを今でも覚えている。
彼女の口から語られた言葉は、恐らくノンたんにとっては希望を奪われる最悪の一言だろう。
何せ、信頼している仲間がそんな言葉をいい放つのだから。
そして一見すれば、彼女もその罪から逃れたいと………自分の手は汚したくない、自分は傷つきたくないという弱さや無責任さの現れのようにもとれる一言だろう。
だが、彼女の目はそれを明確に否定していた。
むしろノゾミに嫌われてでもノゾミを護るといったようなそんな覚悟………だろうか。
それにわざわざ俺にその話を持ちかけてきたんだ。
彼女は、その汚れ役を自ら演じるつもりなのだろう。
それこそ、たとえノンたんに恨まれることになろうとも………でも、最近ノンたんの様子はおかしいのはなんとなく解るんだ。
でも、それでノンたんと千花を引き離すという発想にどうやったらたどり着くのかは解らない。
だから……………
「………ごめん、俺にはそんなことしなきゃいけない理由が解らない」
「そう、よね………」
どう言葉を返していいか解らずに、言葉を濁して黙ってしまったんだ。
──でも、たまに思うんだ。
この時、さっさとドラゴンのお姉さんの言葉の真意に気づいていれば。
ノンたんに、少しだけ感じていた違和感に注意していれば、ノンたんはこんなにも傷つかずに済んだのでは、と。
俺は何一つとして気づいていなかったのだ。
その漠然とした違和感こそが、悪夢の始まりだったことに…………。
「………どうしたの、ボーッとして」
優しい声が響く。
月音よりも大人びた声。
はじめて出会った時の冷たさを感じる声ではない。
そう、声の主はドラゴンのお姉さん……英華さんだ。
「ううん、なんでもない………それよりも、どう?俺のコーヒー」
「美味しい………知り合いの淹れたコーヒーと同じくらい」
「お褒めに預り光栄です、ドラゴンのお姉さん」
理緒や月音の見よう見まねでやってみたのだけど、どうやらうまくいったみたい。
少し嬉しくなり、わざとらしくおどけてみせるとドラゴンのお姉さんは困ったように笑う。
改めて思うのだが、浮世離れした金色の長髪を後ろでまとめた彼女は何をしても絵になる。
あり得ないほど美しいのだ。
それこそあの夜にはじめて出会った時の金色の煌めきを改めて思い出してしまう。
正直、ノンたんやセッテみたいなゲテモ………トンデモ女たちと同じファンタジー世界の住人とは思えない。
いや、むしろファンタジー世界の住人だからこその美しさなのか。
あれ?それだとあのトンデモ女たちってぶっちゃけかなりハズレの部類なんじゃ…………あー、考えるだけ無駄か☆
「………勝利くん、ひとついいかな?」
「どうしたのさ?食い物なら簡単なモンしか作れねーけど………」
「違う違う。そうじゃ……そうじゃない」
愛は渡さないってアレか?
………なんてジョークを言える雰囲気ではない。
「ノゾミと千花のことなんだけど」
「………」
あのときの月音のように何かを言わなきゃいけないけど、言うのを躊躇っている………そんな顔。
思わず身構えてしまうが、俺の方が警戒していると彼女が話せない。
俺は用意したマグカップにコーヒーを注ぐと一口だけなんで自らを落ち着かせる。
「…………ノンたん、最近様子おかしいよな。
あまり飯食べなくなったし、ずっと千花とベッタリでさ………。
だから俺と理緒のふたりでセッテのフォローとかしてるんだけども」
「うん、その事なんだけど…………
その……………ノゾミと千花、だっけ……。
あのふたりを引き離せない、かな?」
───その言葉に戦慄したのを今でも覚えている。
彼女の口から語られた言葉は、恐らくノンたんにとっては希望を奪われる最悪の一言だろう。
何せ、信頼している仲間がそんな言葉をいい放つのだから。
そして一見すれば、彼女もその罪から逃れたいと………自分の手は汚したくない、自分は傷つきたくないという弱さや無責任さの現れのようにもとれる一言だろう。
だが、彼女の目はそれを明確に否定していた。
むしろノゾミに嫌われてでもノゾミを護るといったようなそんな覚悟………だろうか。
それにわざわざ俺にその話を持ちかけてきたんだ。
彼女は、その汚れ役を自ら演じるつもりなのだろう。
それこそ、たとえノンたんに恨まれることになろうとも………でも、最近ノンたんの様子はおかしいのはなんとなく解るんだ。
でも、それでノンたんと千花を引き離すという発想にどうやったらたどり着くのかは解らない。
だから……………
「………ごめん、俺にはそんなことしなきゃいけない理由が解らない」
「そう、よね………」
どう言葉を返していいか解らずに、言葉を濁して黙ってしまったんだ。
──でも、たまに思うんだ。
この時、さっさとドラゴンのお姉さんの言葉の真意に気づいていれば。
ノンたんに、少しだけ感じていた違和感に注意していれば、ノンたんはこんなにも傷つかずに済んだのでは、と。
俺は何一つとして気づいていなかったのだ。
その漠然とした違和感こそが、悪夢の始まりだったことに…………。