3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

「………なぁ、椿」


「ん?どうした?」


夢中でハンバーグを食べ続ける俺を黙って見つめていた月音。

しかし、あれだけあったハンバーグを残り一口になった頃、唐突に彼女から話しかけてきた。


何故か言いづらそうな顔をして、どこか暗い顔をして。




「………アンゲロスを倒す動画で生計を立ててるって、アレ。




…………本当はお前も………嫌々やってるんじゃないのか?」



「…………っ」



その言葉を聞いた時、俺は思わず、箸を落としてしまった。


───箸がテーブルの上に落ちた音と共に、俺の意識は現実に引き戻された気がした。



そうだ………俺は“大罪人”。

こんな風に楽しい想いをしていいはずがない。



「……。
なんでそう思うんだよ?

まぁ、あえていうなら………学も信頼もないなかでも生きていかなきゃ、だろ。

やりたいだとかやりたくないだとか、そんなこと考えたことねぇよ」


───我ながら見事なまでに下手くそな嘘だと思う。

声も上擦って、テーブルの上に転がる箸すら、うまく掴めない。



「これでもいろんな客を見てきたし話してきたからな………たまにワケありの客もいるからな。

お前のは……典型的にワケありの客のソレだ」


「………」


その言葉に頭が冷えた。

やはり彼女には全てお見通し、というわけか。


俺は箸を掴むと黙って彼女の目を見た。

彼女の澄んだ目には姫矢の街に済む大人たちのように、同情や哀れみ、蔑みの感情などは感じられない。


ただ純粋に、俺を心配してくれているだけだと感じられた。


「……」

俺は母が作ってくれたハンバーグと同じ味がするハンバーグを箸で切り、一口食べる。

この期に及んで母さんに力を貰おうと思ったのか、それとも月音が作ってくれたハンバーグを無駄にしたくなかったのだろう。



「…………ごちそうさまでした」


俺は最後の一口をしっかり味わい、食べ終わると両手を合わせた。


こんなものが彼女のハンバーグ代になるとは思えない。

だが、せめて彼女の誠意には応えたい。



だからこそ俺は、語り始めた。



あの日からの、俺の全てを………。
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