3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

………そうだ。“月音”の事、まだ話してなかったよな。


俺が彼女………『星宮 月音(ほしみや つきね)』に出会ったのは去年の夏……将さんと初めて出会った頃。

銀色のオーロラ……『オーロラカーテン』によって迷い混んだ世界で出会ったんだ。



まだ小さいのに………あ、ごめん。年齢聞き忘れたわテヘペロー☆

おぉっと………ジョークだよジョーク。


あの子は実際は俺よりひとつだけ年が上で、それなのに『ささめゆき』っていう喫茶店を経営してて、それで料理も凄くうまいんだ。


うちの喫茶店のエースの理緒と同じレベルかそれ以上かもしれない。

出来るのなら、理緒を月音に合わせてやりたいな。


きっと互いに刺激になると思うし。





─────2022年 7月下旬─



「………まだハンバーグはふたつあるから、おかわりしたくなったら言えよ?」


「わかった」


───月音との思い出で忘れられないことがひとつある。


それは彼女に晩御飯をご馳走になった時。

俺も一緒になって手伝って作った煮込みハンバーグ。


その味がちいさなころに母さんが作ってくれたハンバーグ、その味と一緒だったんだ。


もう食べられないって、そう思ってたのに……

懐かしさと暖かさで、思わず彼女の前で泣いてしまったんだ。


動画の広告収入でお金は稼いでいたけど、ちゃんとした料理って食べてなかったから。



「………月音、ハンバーグ、全部もらっていいか?」


ひとつめのハンバーグを食べ終えると、俺は思わず呟いていた。


涙を脱ぐって、鼻をすすって。

横目で彼女を見てみれば、滲んだ視界の中で彼女は困ったように笑っていた。



「お前、欲張りだな………」


言葉とは裏腹に優しい声色。

それだけでも、涙が溢れそうになる。



「………同じなんだ」


「………」


「………死んだ母さんが作ってくれたハンバーグの味と」


「そっか…………」


彼女は新しい皿にハンバーグをふたつ乗せると俺の前に皿を置いた。

ハンバーグ特有の香ばしいにおいが鼻孔をくすぐり、赤茶色のソースが食欲をそそる。



「………いただきます」


俺は置かれた皿に両手を合わせると、再び箸を手に取りハンバーグを食べ始めた。

箸でハンバーグを切ると、ハンバーグから肉汁が溢れだした。


──月音いわく、ミンチをこねる前に冷水を少しずつ入れながらこねたり、表面を焼く前に小麦粉をつけることで肉汁を閉じ込めることが出来るんだそうな。



「………んなぁぁぁ~~」


「語彙力死んでるぞ、椿」


「最初から俺に語彙力なんざねぇよっ」


──美味しかった。本当に美味しかった。


それ以上に楽しかった。

だって、こうやって食卓を囲んで楽しく食事をしたのは凄く久しぶりだったから。



この日、この瞬間だけ俺は………『あの頃』に戻っていたのだと思う。
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