3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!
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姫矢市・望葉 区。
中心街である願葉区から北東にあり、古くからの民宿や旅館、銭湯などが多いこの区画は『町並み保存区画』として姫矢グループが江戸時代からの町並みを保存する事業を行っている………らしい。千花の説明によると。
…………はい、すっかり汚物にまみれ、汚れ芸人のポジションが板についてきましたノゾミ・ナカムラが語り部をつとめさせていただきますよー……って誰が汚れ芸人だっ!
「………ノゾミお姉ちゃん、臭い」
「言わないで………」
先ほど戦ったモンキーマンに尻の穴からひねり出したダークマターを顔面に叩きつけられたんだ、やっぱり匂いはとれないよね。
というわけでこの望葉区の銭湯にやってきたんだけど…………。
「それにしても凄いね………ここの町並み」
「そりゃあ、アタシたちが生まれるずーっと前からの町並みを保存してる場所だからねー。
ここは観光地にもなってるんだよ」
「へぇー………」
改めてぐるりと回って町並みを一瞥する。
願葉区とはまた違った顔を見せてくれる。
日本古来の木造の建物が立ち並び、まるでタイムスリップでもしたのではと錯覚してしまうほどだ。
しかも、そこにいる人たちも心なしか活き活きしているように見える。
土産屋でお団子を食べている子供たち、小さな稲荷神社でお祈りを捧げる老夫婦………そんな人々の活気で溢れる望葉の町は、夕焼けに彩られていた。
────美しかった。
ずっとここにいたいとすら思った。何もかも忘れて。
「綺麗、だよね………」
ここに来るのは初めてなのに、なんだか懐かしく感じてしまう。
それ以上に、夕陽に照らされた千花の横顔がただ、美しかった。
陳腐な表現だとは分かっている。でも、それ以外の言葉がまるで思いつかない。
…………そんな彼女の横顔に見とれていた私は自らの足元に注意が向かなかったわけで………。
「あっ!?アッーーーーーーーーー!!」
「ノゾミお姉ちゃん!?」
私の体は重力に引かれて、夕陽の町から一転し、何処かに落ちていく。
そう、マンホールの穴の中に落ちたのだ。
ていうかなんでマンホールの蓋ないの!?
妖怪マンホール女でも出た!?
「ノゾミお姉ちゃん大丈夫!?」
「うん大丈夫!!今行くから!!」
………腰を打ったが、幸いそこまで大ケガはしていない。
それに頭上からは夕陽が差し込んでおり、そこまで暗くない。
私は梯子を使って上へと戻る。
梯子をよじ登り、一段ずつ確実に。
踏みはずなさいようにゆっくりと確実に。
そうして、ようやく望葉の町並みが見えてきた………そう思っていた。
そこには千花の笑顔が待ってる。
そのはずが私を待っていたのは…………
「……………ゑ?」
───犬の、尻。
そう、犬の尻なのだ。
しかも結構大きい。
しかも………犬は、なんかプルプルと震えている。
もしかして………きばってらっしゃる?
「………ふっ、参ったぜ」
某紫の戦士の如くカッコつけ、拳を額に当てる私。
こんな事をしてる場合ではないのは分かっている。
でも………こうするしかなかったんだ。
──────ブリッ
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
──お食事中の方がいたら申し訳ございません。
私の顔面に、黒くて大きなダークマターが叩きつけられる。
犬の尻からひねり出され、凄まじい臭いを放つそれは、私の顔面を汚す。
そして私はそれに驚き、思わず梯子を掴む手を離してしまう。
「の、ノゾミお姉ちゃーーーーんっ!!!」
千花の叫び声が響く中、私は再びマンホールの闇の底へと落ちていった。
…………どーせいないだろうけどノゾミファンの皆様、ご唱和ください。
はい、せーのっ
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!
ど"お"し"て"だ"よ"お"お"お"お"お"お"!!」
姫矢市・
中心街である願葉区から北東にあり、古くからの民宿や旅館、銭湯などが多いこの区画は『町並み保存区画』として姫矢グループが江戸時代からの町並みを保存する事業を行っている………らしい。千花の説明によると。
…………はい、すっかり汚物にまみれ、汚れ芸人のポジションが板についてきましたノゾミ・ナカムラが語り部をつとめさせていただきますよー……って誰が汚れ芸人だっ!
「………ノゾミお姉ちゃん、臭い」
「言わないで………」
先ほど戦ったモンキーマンに尻の穴からひねり出したダークマターを顔面に叩きつけられたんだ、やっぱり匂いはとれないよね。
というわけでこの望葉区の銭湯にやってきたんだけど…………。
「それにしても凄いね………ここの町並み」
「そりゃあ、アタシたちが生まれるずーっと前からの町並みを保存してる場所だからねー。
ここは観光地にもなってるんだよ」
「へぇー………」
改めてぐるりと回って町並みを一瞥する。
願葉区とはまた違った顔を見せてくれる。
日本古来の木造の建物が立ち並び、まるでタイムスリップでもしたのではと錯覚してしまうほどだ。
しかも、そこにいる人たちも心なしか活き活きしているように見える。
土産屋でお団子を食べている子供たち、小さな稲荷神社でお祈りを捧げる老夫婦………そんな人々の活気で溢れる望葉の町は、夕焼けに彩られていた。
────美しかった。
ずっとここにいたいとすら思った。何もかも忘れて。
「綺麗、だよね………」
ここに来るのは初めてなのに、なんだか懐かしく感じてしまう。
それ以上に、夕陽に照らされた千花の横顔がただ、美しかった。
陳腐な表現だとは分かっている。でも、それ以外の言葉がまるで思いつかない。
…………そんな彼女の横顔に見とれていた私は自らの足元に注意が向かなかったわけで………。
「あっ!?アッーーーーーーーーー!!」
「ノゾミお姉ちゃん!?」
私の体は重力に引かれて、夕陽の町から一転し、何処かに落ちていく。
そう、マンホールの穴の中に落ちたのだ。
ていうかなんでマンホールの蓋ないの!?
妖怪マンホール女でも出た!?
「ノゾミお姉ちゃん大丈夫!?」
「うん大丈夫!!今行くから!!」
………腰を打ったが、幸いそこまで大ケガはしていない。
それに頭上からは夕陽が差し込んでおり、そこまで暗くない。
私は梯子を使って上へと戻る。
梯子をよじ登り、一段ずつ確実に。
踏みはずなさいようにゆっくりと確実に。
そうして、ようやく望葉の町並みが見えてきた………そう思っていた。
そこには千花の笑顔が待ってる。
そのはずが私を待っていたのは…………
「……………ゑ?」
───犬の、尻。
そう、犬の尻なのだ。
しかも結構大きい。
しかも………犬は、なんかプルプルと震えている。
もしかして………きばってらっしゃる?
「………ふっ、参ったぜ」
某紫の戦士の如くカッコつけ、拳を額に当てる私。
こんな事をしてる場合ではないのは分かっている。
でも………こうするしかなかったんだ。
──────ブリッ
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
──お食事中の方がいたら申し訳ございません。
私の顔面に、黒くて大きなダークマターが叩きつけられる。
犬の尻からひねり出され、凄まじい臭いを放つそれは、私の顔面を汚す。
そして私はそれに驚き、思わず梯子を掴む手を離してしまう。
「の、ノゾミお姉ちゃーーーーんっ!!!」
千花の叫び声が響く中、私は再びマンホールの闇の底へと落ちていった。
…………どーせいないだろうけどノゾミファンの皆様、ご唱和ください。
はい、せーのっ
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!
ど"お"し"て"だ"よ"お"お"お"お"お"お"!!」