3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

──現在。



「夢、か…………」


……また作業中に寝ちまったか。

もう歳だからな………若い時のように無茶は出来ねぇか。


手元にはすっかり冷めてしまったコーヒーが注がれたマグカップ、“兵器”のデータが映し出されたモニターとメンテナンス中のエクスライザー。


そして彼女………ノアールの形見。



もう傷んでるところも多く、ぼろぼろになってはいるが……ノアールお手製の茶色の猫のキャラクターの髪飾り。

猫の顔裏には刺繍で『JINIA』の文字。


ノアール本人は『Genius』からとってこの猫のキャラクターに『ジニア』と名付けていた。


『ジーニアス』からとって『ジニア』なら本来なら『Genia』なんだろうが、ノアールは素で間違えたらしくその髪飾りの猫に『JINIA』と刺繍してしまったのだ。


そんなどこか抜けたノアールが、頑なだった俺の心を癒してくれた。




俺は…………そんな彼女を…………




……………いや、よそうか。



──俺にその想いを語る資格はないのだから。




「ノアール………俺はアコギなことをやってる。

お前と同じ痛みを背負った少女を送り出してしまった。


………“兵器”と言ってな」


彼女がそばにいると思ったんだ。

猫の髪飾り………本物の“ジニア”に、俺は語りかける。


しかし、その答えに誰も答えない。

……当たり前だ。“ジニア”はただの猫の髪飾り。


そしてノアールも、もうどこにもいない。




「………アイツらは、俺を止めてくれるだろうか」


冷めきったコーヒーをすすり、ポツリと一言。

俺は、何を言っているのだろうか。



我ながら馬鹿みたいな話だ。

全ては俺が始めたことだというのに。




──もう、後戻りなど許されやしないのに。





「…………いや、無理だろうな」


こんな自問自答をしなくても、既に結論は出ている。


既に賽は投げられた。

『宿命』の名のもとに、俺たちは何かに突き動かされ、出会ってしまった。


そして、全てはひとつの結末に向かって動き出している。


平等に不平等を突きつけてくるこの世界で、全ての人間に平等に訪れる結末………『死』に向かって。




「………それにしても」


マグカップの中のコーヒーを飲みきる。


俺は『無駄』と『妥協』が大嫌いだ。

妥協は絶対にしないし、徹底的に無駄を省いているし、それを部下にも徹底させている。


このコーヒーも例外ではない。

冷めたとはいえ、無駄に捨てる気は毛頭ない。




「…………冷めても旨いな」


………冷めても旨く飲めるように全てを拘ったから当然だ。


マグカップをデスクに置き、モニターを眺める。


モニターには、以前来栖に見せた“兵器”……『プロメテウス01』、いや………『桜ノ宮 千花』の姿が映し出されていた。
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