3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

「………私たちがあると思った所にあるんだと思いますよ?」


「あ、あぁ?なんだそりゃ……」


………当時は意味が分からなくてなんだか言葉巧みに煙に巻かれたような気がした。


俺が俺であって俺ではなく、何処にもあって何処にもない。


そんな子供騙しのレトリックで遊ばれた、そんな気がしたのだ。


彼女はそんな言葉遊びが大好きだった。



「……じゃあ例えば?」


あの頃の俺は若かった。
その言葉遊びに付き合う余裕もなくて、俺は例を挙げてみろと言った。

すると………


「私とあなたの間とか?」


「と言うと?」


「体の中には心なんてものはないんですよ。

何かを考えたり誰かを想ったりした時に心は生まれる。私はそう、信じてます」


「じゃあ誰もいなかったら心なんて生まれないのか?」


やっぱり俺は得意げに答える彼女が気に入らなかったのか更に質問を投げかける。



「そうだけど………心のない人なんていませんよ?」


「でも心のない事をする奴はいるぜ?」


これこそ言葉遊び。

今になって思えば随分幼稚だったな。

でも、やっぱりあの頃の俺は若かったんだ。

それと……人並みの心もあったんだ。



「それでも心はやっぱり心はあるから、きっと何処かに心はあるんですよ」


そんな幼稚な俺の心を見透かしたかのように彼女は俺の言葉遊びに全く触れなかった。



「気づいていないだけで、心があるって自分が信じる所に心があるんですよ♪」


「信じているところ?」


「うん、信じているところ」


………言葉が変わっただけだ。


“思う”から“信じる”へ。

でも、それが大きな意味を持っているような気がしてならなかった。


彼女はそれ以上、この話題を続けなかった。




「あっ!今から泳ぎませんか??」


「はぁ?水着持ってきてねーよ!」


「裸で泳げばいいじゃないですかぁ♪
ふたりならヘーキヘーキ!」


「バカタレ!そんな事出来るわけないでしょーがっ!」


「ぷくく……冗談ですよぉ♪」




──あれから何年経っただろう。


彼女……『ノアール・ロックディール』との間に、ふたりの子供ができて……


彼女がいなくなったら、部下ができて…………




それでも俺は未だにその答えも、心の在りかも探し続けている。


だけど俺は、まだその答えも心の在りかも見つけてはいない。




───きっと俺の心は、あの夕暮れの海に置いてきてしまったのだ。


隣で彼女が微笑んでくれる、あの場所に。

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