3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

爆炎が突風に掻き消され、静まりかえった採石場には、戦闘員だったものの残骸と、木っ端微塵に粉砕されたあの怪人。


奴を黙らせればスカッとするんだと思ってた。

でも私の心に残ったのは胸に穴が空いたかのような虚しさだけ。


私はマキシマムのぞみんのコックピットから飛び降りた。

私の顔を模したマヌケ面が奴らの返り血にまみれ、さながら泣いているかのように私を見つめ返してくる。


………いや、『見つめ返してくる』なんてことはない。

こいつはただの機械人形。ただの道具。


私の気にしすぎなだけだ。


私は変身を解除する。



「ノ………ノゾミ………お姉ちゃん…………」


変身を解除するとあのマヌケ面が消滅し、私の衣服も元の衣服に戻る。


すると、私の怯えた様子の千花が物陰から顔を出す。

その目には今にも溢れだしそうなほどに涙を貯めている。




「千………花…………」


───まともに彼女の顔を見られない。

私が戦ってたのは千花を護るためでも、他の誰かを護るためでもない。


あの瞬間、私はただ自分の鬱憤を晴らすためだけに戦っていたんだ。


これじゃ………本当に奴の言う通りだ。



「………ごめん…………」


私は踵を返し、千花から離れようとする。


これ以上、千花を苦しめたくない。

これ以上………私の前から誰かがいなくなるならいっそのこと………。



「まって!」


しかし、千花は私の手を掴むと私を抱きしめてきた。

彼女のぬくもりがダイレクトに伝わってくる。



………ダメだ。

今ここで千花のぬくもりを受け入れたら私は……仮面ライダーじゃ……“希望の担い手”でいられなくなってしまう……!



「離してっ!!」


「嫌だっ!!」


───“ぬくもりが欲しい”。“甘えたい”。


………“もう休みたい”。



これが私の本音。

親友にすら言えない本音。


ここでそれを認めてしまえば私はもう堕落するだけ。


希望の担い手で、仮面ライダーで、ウルトラマンで、勇者で、シンフォギア装者で………。



──私が一番強くなきゃいけないの。

私が誰かを導かなきゃならないの。




それなのに、それなのに………





「…………離してよ、バカ」


「大丈夫だから………アタシは大丈夫だから……」


口で言ってるように彼女のぬくもりに抗えない。


彼女にしがみついて子供のように泣きわめいて………今もこうして彼女を困らせてる。




「ごめん………」


「大丈夫だよ………ノゾミお姉ちゃんにはアタシがいるから」


私の全てが彼女を求めている。

そのぬくもりも。甘いにおいも。

普段は服で隠れているその柔らかさも。


彼女も私を受け入れてくれる。



もう、邪魔をする奴なんてどこにもいない。





───こうして私は、決して抜け出せない泥沼キボウへと堕ちていった。
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